第三十五話 神霊樹の森 後編(三人称視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
よしっ、あとは採取採取~。
それでは、どうぞ!
複雑に絡み合う木の枝のみで構成されたトンネル。所々に木漏れ日が差し込むそこは、人間の大人が二十人横に並んでも余裕ができるであろうほどに広く、天井は五メートル近くある。
その中を、ユミリアは、お尻をフリフリ、尻尾をフリフリしながらボテボテと歩き、セイ達はそんなユミリアを急かすことなく、無言で付き従っている。それは、もう、急ぐ必要がないということ。ゴールは目の前で、何の憂いもないということ。そうして、五分も歩けば、最初から見えていた出口へと辿り着く。
「みゅうっ」
トンネルの出口、光溢れるそこを出ると、ユミリアは喜びをあらわに万歳をして鳴く。
「すごっ」
「おぉっ」
「……」
セイ、鋼もユミリアに続いて驚きの声をあげ、ローランに至っては絶句して口を大きく開いている。
清涼な水が流れる小川を挟んだ向こうに見えるのは、大地にしっかりと根付いた木。それも、ある程度離れた距離に居るにもかかわらず、木の幹の大きさを視界の端で捉えられないほどの巨大な大樹。凜とした空気に満たされたその場所は、大樹が醸し出す厳かな雰囲気も相俟って、恐ろしく神聖なものに見えた。
「しんれーじゅは、こにょしぇかいがたんじょーしたとちかりゃありゅ、かみにょよりしりょにゃんだって(神霊樹は、この世界が誕生した時からある、神の依り代なんだって)」
そう説明するユミリアは、ボテボテと歩いて、あまりにも巨大な大樹へと歩いていく。装備の力を駆使して小川を飛び越え、そのまま歩く姿に、セイ達も慌てたように追従する。無言のまま、大樹の元へと向かったユミリア。あまりの大きさに距離感がおかしくなるほどの大樹。その、膝元へと辿り着いたユミリアは、そこでニコリと笑みを浮かべ、おもむろに口を開く。
「わちゃしにょために、しょざいをていちょうしちぇね? (私のために、素材を提供してね?)」
そう、声をかけた直後だった。ユミリアの翼がバサッと広がり、急速に光を帯びて、その頭上に青白い球体を発生させる。
「えっ? ちょ、ユミリア?」
「まさか……」
「い、いや、え? 嘘、だろ?」
何かを感じ取ったセイ達は一様に困惑の表情を浮かべる。そして……。
「うがちぇ(穿て)」
ユミリアの言葉に応じて、頭上にあった球体が発射された。
ドゴォォォォオッ、と音を立てて、揺れる大樹。大樹の大きさから考えると、その程度の攻撃では大したことはないといえそうだが、そこはユミリアクオリティ。まんまとそこに、大きな穴を開けることに成功する。そして、その穴からは、しばらくすると、なぜかこんこんと水が湧き出てくる。
「みゅっ、うろをしゃがしゅにょがちゃいへんにゃとちは、こうげちにかぎりゅにょ(みゅっ、うろを探すのが大変な時は、攻撃に限るの)」
大樹が流すその水は、状況も相俟って、大樹の涙のようにも見える。そんな水を、ユミリアはストレージから取り出した大きな瓶に詰め込むと、満足げにうなずく。
「ちゅいでだかりゃ、しょにょえだも、はっぱも、みも、じゅえちももらっていくにょ(ついでだから、その枝も、葉っぱも、実も、樹液ももらっていくの)」
その日、神霊樹は無邪気で無慈悲な攻撃にさらされ、多くの素材を落とすこととなる。ユミリアが満足したところで、背後の神霊樹が何やら悲しそうに見えたのは、気のせいではなかったかもしれない。
「うわぁ……」
「ユミリア、すごい」
「よ、容赦ないな……」
そんな声をかけられながらも、大満足なユミリアは、そのまま転移で屋敷へと帰還した。
最後まで自重も容赦もなかったユミリアちゃん。
まぁ、これであとは万能薬を作ってメリーさんを治すのみですから、安心してはっちゃけたのかも?
それでは、また!