第三百五十三話 守る覚悟(メリー視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、シリアスさん、続々登場中〜。
それでは、どうぞ!
「「「無理ね」」」
イルト殿下の発言に、私達は同じ感想を抱く。
「イルト殿下が危険な場所に赴いて、黙っているお嬢様なんて、想像できません」
「ユミリア様は、イルトにゾッコンというやつだと思いますよ?」
「あんたのために神をも脅す女が、置いていかれて何もしないわけがないわ」
「…………」
私達の言葉に、イルト殿下は一瞬固まったかと思えば、さっとユミリアお嬢様から視線を逸らす。その耳が赤くなっているのは……自覚があって何よりと喜ぶべきだろう。
「もしも置いていくと言うのであれば、このお二方にご協力いただかないことには……」
「断固、拒否します」
「ひぃいっ! あ、あんたっ、何て無茶を言うのよっ! そんなの、無理に決まってるでしょうっ!!」
チラリと竜神様とエイリーン様へ視線を向ければ、なぜか、怯えられてしまった。
(そんなに恐れるようなことはないと思いますが……)
彼らには、ただ、お嬢様を引き留めてもらえるだけで構わないのだが、神と名乗りながらも、できないと、無茶だと断言する。
「腕の百本や千本差し出せば、多少の足止めくらいにはなるかと」
「「単位がおかしい(わ・です)っ!!」」
「…………分かった。置いていくのは、諦める」
「さようですか……」
ユミリアお嬢様のためなら、そのくらい、神ならば、何度でも腕くらい生やせるだろうと思っての発言だったが、受け入れてはもらえなかったらしい。そして、何を思ったか、イルト殿下も提案を取り下げたため、余計に、私が言えることはなくなってしまう。
しん、とした沈黙の中、私は、未だに眠り続けるユミリアお嬢様へと視線を向ける。本来であれば、ちゃんとベッドに運んで差し上げたいところなのだが、イルト殿下は離してくれる様子がない。また、イルト殿下の腕の中の方が、ユミリアお嬢様はよく眠れていることを知っているため、引き剥がそうとも思えない。
(お嬢様の幸せこそが、私の幸せ。……お嬢様が危険にさらされるくらいなら、私が替わって差し上げたい)
しかし、きっと、ユミリアお嬢様はそれを望まないということも理解できるため、どうにももどかしい。
「……僕は、ユミリアを、今度こそ、守れるだろうか……?」
ユミリアお嬢様に意識を向けていた私は、一瞬、その言葉が誰から発せられたのか、どういう意味なのか、理解できなかった。しかし、理解した瞬間に込み上げてきたのは、大きな怒り。
「っ、貴方様がっ、そのようなことでどうしますかっ!! お嬢様を守れるのは、殿下以外に居られないでしょうっ!!」
後から思えば、それは、力がないゆえにユミリアお嬢様の側に居られない自分への怒りでもあった。しかし、それでも、イルト殿下の言葉は許しがたい。
「お嬢様がっ、ユミリアお嬢様がっ、一番愛して、頼りにしているのは、殿下なのですよっ!!」
私の方が、ユミリアお嬢様のことを長く見てきた。それでも、ユミリアお嬢様にとって、私は一番ではない。きっと、それも、怒りの原因だ。
「『守れるだろうか』などと日和ったことを言うのは許しませんっ! ユミリアお嬢様の伴侶となりたいのであれば、『必ず守ってみせる』と仰ってくださいっ!!」
大切な、大切な、ユミリアお嬢様。我が子のように、ずっと、お側に居た方。私の命の恩人で、家族の命の恩人で、かけがえのない方。そんなユミリアお嬢様の伴侶ともなろう方に、弱気でいてもらっては困る。しかし……イルト殿下は、私と目を合わせようとはしない。それどころか、ユミリアお嬢様にすら、視線を向けようとしない。
「殿下……?」
「……すまない」
意味もなく響く謝罪の言葉。それを前に、私は、呆然と立ち尽くした。
守れなかったことが、随分と尾を引いているイルト君。
まぁ、あれだけ色々あったら、自信もなくしますわな?
それでは、また!