第二百九十四話 囚われのド変態
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今回は……囚われのお姫様、ではなく、囚われのド変態っ!
……お姫様なら、王子様が助けてくれるのが定番ですけど、ド変態の場合は……うん、どうなんでしょう?
それでは、どうぞ!
地下への扉を探す時間も惜しかった私は、地面をぶち抜いて、自然落下に任せてそこに降り立つ。
「きゃあぁぁあっ!!」
磔にされたままのド変態も落下してきたものの、それを受け止めてやるつもりはない。『ぶべっ』という声とともに、地面にキスするそれを視界の端で確認した私は、ようやく、正常に反応したGPS的道具でイルト様がこの真っ暗な通路の先に居ることを察知して、駆ける。
暗い、暗い、狭い通路。そして、その先に見えたのは、大きな扉で、その部屋にイルト様が居ると理解している私は、イルト様が怪我をしないよう、扉を普通に手で押し開ける。
「イルト様っ!!」
そこは、真っ暗で、とても広い空間。とりあえず、暗視メガネをかけて確認すれば、誰かが……いや、イルト様が、部屋の中央に倒れていることに気づいた。
「イルト様っ」
怪我をしたのか、それとも、もう、遅かったのか。とにかく、不安をかかえながらも、イルト様の元へ駆け寄った私は、すぐに、イルト様の状態を確認する魔法を込めた魔石を取り出し、発動させる。
「よ、良かった……」
結果は、多少疲れているようではあれど、ただ眠っているだけ。変な力が入り込んだ形跡も、怪我の様子もない。
「だから言ったでしょ? ちゃんと止めてるって」
イルト様が無事だと分かり、安堵した私の背後から、誰かの……いや、あのド変態の声がかけられる。
「ド変態さん……」
「ちょっ、確かに、ワタシ、まだ名乗ってはいないけどっ! その呼び方はどうかと思うわよ!?」
「イルト様に、何をしたんデスカ?」
「聞いてないしっ! しかもっ、怖いからっ!?」
まだ磔にされたまま怯えるド変態から聞き出したところ、イルト様が魔王になる直前、このド変態が介入して、イルト様の意識を奪ったらしい。今は、ただ気絶しているだけで、何の問題もないとのこと。
「私のイルト様に、触った……?」
「ひぃっ! ふ、不可抗力よっ! だ、だって、あの馬鹿竜がやることを黙って見過ごしてたら、ローランちゃんが困るでしょうっ!!」
「ローラン? ローランの知り合いですか?」
思わぬ名前が出てきて、私は、イルト様を特製拘束ベッドに拘束しておいてから、問いかける。
「あら? あなたも知ってるの? 可愛いわよね? ローランちゃんっ! ワタシは……そうね、ローランちゃんの愛の下僕よっ」
特大のハートが付きそうな語尾の感覚に、ローランも変なものに好かれたなと思いながら、イルト様をこの場所から運び出す準備を始める。
「あ、あの、ところで、ね? この十字架、どうやっても取れないのだけどっ、外してはもらえないかしら?」
「ここまで来れたんだから、問題ないと思うけど?」
「問題大有りよっ! 手も足も使えないしっ、魔法でしか動けないしっ、しかも、時々ビリッてするしっ!!」
「? 出力が弱かったかな? 分かった。また今度、改善しておく」
「ちょっ、嫌な予感しかしないわよ!? ほ、ほら、あなたの愛しいイルトさ「イルト様の名前を気安く呼ぶなんて……やっぱり、もっと色々した方が」ごめんなさいぃぃっ!! と、とにかくっ、あなたの愛しい人を助けたワタシに、ご褒美があっても良いと思うのよ? ねっ?」
汗をダラダラ流しながら懇願するド変態に、それもそうかと納得する。どういう経緯かは知らないが、助けられたのは本当だ。
「なら、選ばせてあげる。とっても幸せな夢を見ながら狂人になれる薬と、とっても幸せな夢を見ながら眠り続ける薬、どっちが良い?」
「どっちもいやぁぁあっ!!」
目の毒としか言えないこの存在を、イルト様のトラウマになる前に消したいのに、どうにも、ド変態は抵抗を止めてはくれない。そうして、駄々をこねるド変態……エイ何とかと名乗っていたそれを、とりあえず、箱詰めにして運び出すことにしたのだった。
囚われのド変態は、箱詰めされて、運び出されましたとさ。
えっ?
その先?
うーん、じゃあ、読者様に予想してもらいましょうかね?
それでは、また!