第二百九十話 竜神様と俺の話2(ローラン視点)
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ローランの昔語りは、もうちょい続きます。
それでは、どうぞ!
「まぁっ、こんなこともできないのっ?」
「母さん、俺は……」
「さぁっ、さっさと続きを勉強なさいっ。あなたは、この国の希望なのよっ」
「……はい」
「ローラン様っ、あなたはやはり、素晴らしいですねっ」
「ローラン様っ、素敵!」
「ローラン様、よければ、私の娘と……」
「……うん……」
「おいっ、愛し子様がお通りだぞー」
「ひゅー、愛し子ちゃんっ、お前、男の竜神様と結婚するんだろ?」
「うわっ、気持ち悪っ! こっち来んなよなっ!」
「……ごめんなさい……」
誰もが、俺を見ない。誰もが、『愛し子』という肩書きだけで、俺と接する。それでも、俺は、竜神様さえ居れば良かった。例え、俺の『愛し子』という肩書きが、竜神様に与えられたものなのだとしても、竜神様に悪気があったわけではないことは知っているのだから。
「すまないっ。私には、何の力もないっ」
竜神様の姿は、俺以外には見えない。竜神様は、自分を認識しない者には、何の力も行使することができない。今よりもっと幼い頃、俺の環境を知った竜神様は、俺の周りの奴らに怒り狂ってはいたものの、それでも、手を出すことはできなかった。その事実に、竜神様自身がとてもショックを受けていて、俺のつらい環境を見る度に心を痛めている様子だったので、すぐに、竜神様へ俺の観察をやめるよう言い渡した。それでも、自分のせいで、と責める気持ちはあるらしく、時折、つらそうな顔をしていることを知っている。だから、俺は、竜神様を責めるつもりなんてなかった。ただ、いつか、竜神様がこの土地から解放されたら良いのにと思いながら、毎日、必死に勉強して、体を鍛えて、過ごしてきた。
そうして、いくらかの月日が流れた頃……この竜人の国の王が、何者かに殺害されるという事件が起こった。使われた刃物は、前日に盗まれた、俺の愛用の短剣。父が特注のものをということで購入した代物で、どんなに無実を訴えても、信じてもらえることはなかった。
「あなたはっ、自分が何をしたのか分かっているのですかっ!?」
「ち、違うっ、俺はっ」
「黙りなさいっ!! 愛し子だからといって、王を殺すなんてっ。なんて、危険な子なのっ! どこで育て方を間違えたのかしらっ」
母には信じてもらえず、父からは、冷たい視線が送られるのみ。
「確かに、勉強はできたのかもしれないけど、王を殺すなんて、どこか、おかしかったんじゃないか?」
「私は、最初から気づいていましたよっ! あんな男が野放しになっていたなんて、ゾッとしますっ」
「あんな罪人と娘が? いやいや、そんなわけないでしょう? 娘には、もっと良い縁談を用意するに決まってます。あんなクズにくれてやるつもりなんてありませんよ」
牢に入れられても、竜人の耳ならば、それなりに遠くの声も聞こえる。俺に媚びていたやつらが、簡単に掌を返すのも、良く聞こえた。
「いいざまだよなっ」
「ホント、それっ!」
「あー、さっさと死んでくれないかなぁ?」
俺に嫉妬していた奴らは、昏い欲望を滲ませて、檻に入れられた俺を詰ってきた。
(俺、死ぬの、かな?)
散々に、愛し子だと囃し立てられ、つらい日々を送ってきた俺の人生は、どうやら、ここで尽きるのだと悟る。ただ、心残りがあるとするならば、あの心優しい竜神様が、絶望してしまわないだろうかということのみ。
ろくな食事も与えられず、数日を過ごした俺はその日、とうとう処罰を言い渡された。
結構、不憫な幼少期を送っていたローラン。
この後は、いよいよ処罰が言い渡されることに……。
それでは、また!