第二百八十一話 使徒(アルト視点)
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さて、今回は、ミーシャちゃん視点でのお話の続きですねっ。
それでは、どうぞ!
私の兄であるロード兄様は、存在しないはずだとのミーシャ嬢の発言。最初、私はその言葉をなかなか信じることができなかった。しかし、それでも懸命に訴えるミーシャ嬢を無下に扱うことはできず、そして、確かに、ユミリア嬢の婚約者が二人居るという状況に、ミーシャ嬢からの説明で違和感を抱いたために、調べることにした。
結果は、ロード・ラ・リーリスという存在を証明するものが、何一つ出てこないというもの。ミーシャ嬢の言うことが本当であるならば、私達は、大規模な記憶の書き換えを行われたということだ。
(兄様……)
幼い頃から、ロード兄様は側に居たというのが、私の記憶だ。しかし、ミーシャ嬢の言うように、ロード兄様との思い出と呼べるものは、一つも存在しない。ただ、その地位に、その人物がずっと居たのだということしか記憶していない。
ミーシャ嬢と馬車に乗って、教会へ向かう間も、私は、どうしても、何かの間違いではないかと考えてしまっていた。実は、記憶を操作されたのは、ミーシャ嬢だけだとするならば、多少の辻褄は合わないものの、あってもおかしくはないと思える。ミーシャ嬢を信じたい気持ちと、信じがたい気持ちとが入り乱れ、思考が纏まらない。
……そんな状態だったせいか、私は、馬車がおかしなところを進んでいることに、遅れて気づくこととなった。
(私を邪魔に思う者か、ミーシャ嬢を排除したいと思う者か……)
誰が黒幕なのか、予測がつかない。音もなく開かれた扉に、私達はいつでも動ける体勢を整える。しかし……。
「はろー。聖女ちゃん、久しぶりじゃないけど、久しぶりですー」
そこに現れたのは、緑のふわふわした髪の、糸目な女性。
「ムムさん!?」
そして、何やら、ミーシャ嬢の知り合いらしい。一気に緊張を解いたミーシャ嬢の姿に戸惑いながら、私は、そのまま彼女を警戒する。
「あー、驚かせてごめんなさいー? とりあえず、女神様に代わって、お話に来ましたー」
「女神様? それは、ミーシャ嬢が話していた……?」
「はい。そうです。ムムさんは、女神様の部下、というか、ご友人、ですよね?」
「はいー。そうですねぇ。私は、女神様のお目付け役兼、悪友兼、使徒ってところですねー。と、いうわけでー、ちょいとばかし、お話させてもらいますねー?」
そう言うや否や、彼女は、この狭い馬車に入ってきて……。
「えいっ」
空間を広げる魔法や、その他諸々を使ったらしく、馬車の中が、広い応接室っぽくなる。
「んじゃ、まずは、今起きてることの説明をしますねー?」
その言葉に、私は、ひとまず警戒したまま、彼女へと意識を集中した。
一応、危機ではなかった様子。
ローラン達の方が、色々と危険でしたね(笑)
それでは、また!