第二百五十四話 絶望の果て(イルト視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
さぁ、昨日はめちゃくちゃシリアスさん達が張り切った回でしたが、今回はいったい……?
それでは、どうぞ!
『ま、間に合ったー』
鈍く、肉を貫く感触に、絶望を抱きかけた瞬間、間延びした見知らぬ女性の声が響く。
(ユミリア、は?)
視界が不明瞭な中、それでも愛しいユミリアを探すと、ユミリアは、僕から少し離れた場所で、誰かに横抱きにされていた。
(ユミリアは、無事……? なら、この感触は……?)
よくよく考えれば、それは本当にに感触のみだった。血の匂いもしなければ、重さも感じない。血飛沫が飛び散るなんて感覚すらない。
『あっ、イルトさんはそこから動かないでねー』
僕の体が、まだユミリアが生きていることを察知して動きだそうとしたところで、その女性の声によって、僕は動けなくなる。
(何が、起こって……?)
『あちゃー、聖女ちゃんは意識不明かぁ。でもって、メイドちゃんは、まだ生きてはいる、程度だねー。わぁお、私、やることいっぱい!』
ピクリとも動けない中、ユミリアを抱きかかえる女性は、僕の視界から外れ、恐らくはミーシャやメリーが居ると思われる場所へ向かう気配がする。
『うんうん、今回は特別サービス! 愛し子ちゃんの回復もしなきゃだから、ついでついでー』
何が起こっているのか分からないながらも、今、僕の動きを止めてくれていることはありがたいため、特に抵抗する意識は芽生えない。……いや、ユミリアを横抱きにするのは、僕だけが良いとか言っている場合ではないと理解しているからこそ、動こうと思わないだけだ。
『うーん、愛し子ちゃんは、まだまだ根深いなー。でも、今日はここまでかな? それで、愛し子ちゃんの運命のお相手は……どうやら、応えちゃったみたいねー』
目の前に、正体不明の女性が立っているのが、もやがかった視界の中でも認識できる。ただ、その顔は、どうにもよく分からない。
『あっ、愛し子ちゃんなら、心配ないわよー? ちゃんと、時間をかければ戻れるからー。それよりも、あなたの方が問題ねー』
そう言いながら、女性は何かを取り出して、僕へそれを投げてくる。砂のように細かい青い粒達だが、それが僕の体に当たるたび、視界が元に戻っていくのが分かる。
『うーん、本当は、連れて帰って、治療したいけどー、そういうわけにもいかないのよねー』
どことなく、彼女が僕に粒々したものを投げる度、体の主導権が戻ってくるのが分かる。
『……よっし、決めた! ねぇねぇ、イルトさん。あなた、愛し子……ユミリアちゃんと一緒に、すぐに神殿へ向かって! そしたら、色々な不具合の調整もできるし、事情の説明もできるっ! ってなわけで、もう時間だから、またねー』
最後の最後で、もう一度、粒々を投げつけられ、彼女は、転移でもしたのか、そのまま姿を消す。
「……今のは……っ、動ける?」
女性が居なくなったことで、どうやら、動けるようになったらしい。そして、後ろを振り向けば、僕のせいで傷を負ったはずのユミリアとメリーさん、そして、恐らくは気絶したらしいミーシャが、もっこもこの綿のようなものの上に横たわっていた。
「ユミリアっ」
僕は、たまらず一歩踏み出しかけて……まだ、自分が安全なのか分からないことを思い出し、動きを止めてしまう。辺りを確認すれば、至るところに破壊の跡があり、巻き添えを食らったのか、スペースドラゴンが虫の息になっている。
(僕の戦闘能力を封じる方法……ユミリアなら、分かるかもしれないけど、僕には、何もない……)
そうして、しばらく佇んでいれば、どうも、体の異常は治っているのではないかと自覚してくる。
(ユミリアの様子を、とにかく確認しよう)
もう、僕はユミリアの側に居ない方が良いのかもしれない。そう思いながら、慎重に、歩を進めた。
どうにか、救われたっぽいですな。
でも、あの女性が何者なのかは、まだ不明っと。
あ、ついでにお知らせです。
全二話で終わる短編を、今日と明日で投稿します。
『綿菓子令嬢は、この度婚約破棄された模様です』というタイトルの作品でして、メリーバッドエンドな展開になっております。
よかったら、読んでみてください。
それでは、また!




