第二百四十三話 近くて遠い(イルト視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、シリアス風味強化(笑)
それでは、どうぞ!
(僕も、話したい……)
何を話しているのか、楽しそうにしているユミリア。しかし、残念ながら、僕にはユミリアの言っている言葉が理解できない。こんなにも近くに居るのに、ユミリアが、とても遠い……。
「イルト殿下、ご報告します」
いつの間にか、ユミリアとの話を終えていたミーシャから、ユミリアとの話の内容を報告してもらう。
(ギリアのこと、か……)
もちろん、分かってはいる。今は、ギリアのことを優先させなければならないことくらい。しかし、ミーシャが現れてから、ユミリアがこちらへ視線を向けることがなくなり、他の男のことを考えて、必死になっているところを見てしまえば、どうしようもなく心が騒ぐ。
「王子様、ちゃんと落ち着いて。その顔は、多分怖い。ぼくのもふもふ、特別に触らせてあげる」
自分の感情を必死に抑えようとしていると、背後からコウが話しかけてくる。ふわふわもふもふした体をこちらに寄せてくる様子に、僕は、どうにか心をなだめることに成功する。
(まだ、ユミリアとの時間はある。眠り続けている姿を見るより、こちらの方がマシだ)
もしかしたら、元のユミリアに戻ってくれないかもしれないということに関しては、今は考えない。それよりも、ユミリアの身の安全が、心が安らぐ方が優先だ。
「黒い剣型の瘴気についての心当たりは?」
「申し訳ありません。まだ、お姉様自身に話すには、少し早いものと思われます」
「そうか……もし、聞ける状態になれば、できるだけ早く、少しでも情報を引き出しておいてほしい」
「はい、承知しました」
話ができない今、ユミリアの精神状態は推測することしかできない。ユミリアは、今が夢ではないという事実をどうにか呑み込んだとのことではあったが、だからといって、混乱がないなんてことはないだろう。幸い、すぐに取り組まなければならないことができたからこそ、ユミリアは、今を深く考えずにいられる。しかし、頭の良い彼女のことだ。もし、現状を本当の意味で理解したならば、恐怖に震えたとしてもおかしくはない。
(ユミリアの身も心も守るには、早く、あの瘴気の正体を特定しないと……)
ずっと、ずっと、側に居て大切にしたい相手なのに、何度も何度も、守れない状態が続いている。
今度こそは、と思っても、もしかしたら、また失敗をするかもしれない。しかし、それでも、何よりも大切に守りたい女の子だから、どんな努力でも厭わない。
(僕が調べる手段となると、兄さんや陛下とほとんど変わらない。僕にしかできないことがあるなら、どんな力でもほしいのに……)
ギリッと唇を噛みしめ、少しだけ俯いたその瞬間だった。
『ほントうニ?』
ナニカの歪な声が聞こえて、弾かれたように振り向くが、そこには特に、誰も居ない。
(今の、は……?)
ナニカが居た気がするのに、気配は全くない。僕よりよほど、そういったものの探知に優れているはずのコウも、反応していない。
(気の、せい……?)
「王子様?」
「……いや、何でもない」
きっと、疲れが溜まっているせいで、幻聴でも聞こえたのだろう。そうこうしていると、どうやら、ギリアの状態を戻すために、何をすれば良いのか、聞き取りを終えたミーシャがこちらを向いて、また、報告を受けるのだった。
シリアスさんというか、不穏さんというか……そんなのが、やって参りましたよ~。
さぁ、イルト君もユミリアちゃん(雪ちゃん)も頑張らないとですね。
それでは、また!