第二百三十八話 可愛いユミリア(イルト視点)
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さぁて、ユミリアちゃんだけど、ユミリアちゃんとしての記憶を持たないユミリアちゃんは、どうなることやら?
それでは、どうぞ!
ユミリアの言葉が分からない。ユミリアの瞳が、僕達を珍しそうに見る。それは、明らかに、ユミリア自身に大きな異常が起こっていることを示していた。ただし……。
「これは、妬けますね。ユミリアお嬢様は、どうやらイルト殿下にご執心らしいです」
自分の方へと視線を向けてくれないユミリアに、メイドのメリーは拗ねたような声を出す。
「ユミリア、ぼく、ユミリアの好きなモフモフだよっ」
僕に熱視線を送るユミリアへ、コウが一歩近づけば、ユミリアはビクッとして、後退る。
……どうやら、コウのことは怖いらしい。
ユミリアに怯えられたコウは、あまりのショックに一度固まり、その後、耳も尻尾も垂れて『きゅうん』と鳴く。
『えっ、あ、え、えぇっと……ご、ごめん? でも、君はちょっと大き過ぎて、夢とはいえ、怖いよ?』
ユミリアの言葉は分からないが、コウがショックを受けたことだけは分かったらしく、戸惑った様子が伝わってきた。
『まぁ、しゃべる狼とか、相棒に居たら楽しそうではあるけど、言葉が分からないのは意味ないよなぁ』
言葉の理解はできない。できない、が……今、何やら唐突にコウへの嫉妬心が沸き起こり、コウへ一瞬殺気を飛ばした後、コウの方を向いているユミリアの両頬を両手で挟み、こちらへと向けさせる。
「ユミリアは、僕だけを見ていれば良いんだよ?」
『ふぇ? わ、わぁっ、しょ、少年の顔が間近に!? あ、ヤバい、心臓、もたないかも』
僕に顔を向けたユミリアは、頬を赤く染めて、何かを早口で告げている。
(きっと、可愛いことを言っているんだろうな)
ユミリアなら、こういう時、『心臓がもちませんっ』とか言っていそうだが、今のユミリアはどうだか分からない。しかし、近い言葉を言っている気がする。
「それにしても、殿下はよく、今のユミリアお嬢様もユミリアお嬢様なのだと分かりましたね?」
ユミリアの様子がおかしいと分かった後、全く知らない言葉を話すことから、ユミリアの中に別人が入り込んだかもしれないという考えも出たのだが、あのユミリアはユミリアで間違いない。僕がそう宣言すれば、全員が納得してくれた。
「僕がユミリアを間違うはずがない」
「ふふっ。えぇ、そうでございますね」
今のユミリアも、僕の顔が好きらしく、とても可愛らしく頬を染めている。僕自身は自分の顔に頓着しないが、ユミリアが見惚れてくれるなら、この顔で良かったと思うのだ。
「では、私はユミリアお嬢様に果物をお持ちしますので、失礼します」
ユミリアの落ち着いた様子に安心したのか、起き抜けのユミリアに水を飲ませるくらいしかできていなかったメリーは、そっと退出していく。しかし、ユミリアはそんなメリーの様子に気づくことなく、僕へ熱い視線を向け続けるのだった。
次回、ちょっとした動きありです。
それでは、また!