第二百三十四話 応えないユミリア(イルト視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
シリアスさん大活躍な今日この頃。
今回は、イルト君の切ない心情です。
それでは、どうぞ!
(また、何もできなかった……)
ユミリアは、突如として降りかかった漆黒の剣に胸を貫かれて、意識を失った。ユミリアお手製の結界もあったはずなのに、それを易々と破って、ユミリアだけが攻撃された。僕は、ユミリアを庇って剣を受けたはずだったのに、ユミリアだけがダメージを負ったらしく、傷はないものの、未だに意識が戻らない。
「イルト、少しは休んでくれ」
「兄さん……僕は、僕は……」
ユミリアが大好きで、ユミリアが大切で、何よりも守りたい人なのに、僕は傷つけてばかり。力を得ても、全く守れないまま。
今だって、目の前で眠るユミリアに、僕は何もしてあげられない。
「イルトのせいじゃない。と言っても、納得できないのだろうな」
困ったやつだと言いたげに苦笑する兄さんは、ベッドのサイドテーブルに食事を置いて、僕に食べるよう促す。
「食べたくない」
「……うーん、ユミリア嬢は、イルトが弱る姿なんて見たくないと思うけど……まぁ、仕方ないか。なら、この報告書を見せるわけにはいかないな」
食べなければ、あの謎の剣に関する報告書を見せないぞと脅してきた兄さんに、僕はじとっとした視線を向けて……撤回する様子もなくこちらを見つめる姿に、折れた。
味わうこともなく、飲み込むように、それでも、長年染み付いたテーブルマナーで行儀良く早食いを行えば、兄さんは苦笑したまま、食べ終わったと同時に報告書を渡してくる。
ユミリアを貫いた剣は、ユミリアが意識を失うと同時に消えていた。だから、その正体が何かは分からなかったのだが、報告書を読み進めるに従って、僕の内心は荒れ狂った。
「瘴気なのに、魔王は関係ない? そんなわけないよね? ねぇ、兄さん。これ、どういうこと?」
医療や呪いの専門家によって調べてもらっても原因不明。ミーシャ嬢が見たことで、初めてユミリアは瘴気の剣で貫かれたのだと判明。しかし、そこに魔王は一切関わっていないという内容を見せられ、僕は兄さんへと詰め寄る。
「報告の通りだ。事実、ミーシャ嬢の言葉によると、瘴気の質が異なるとのことだった。ユミリア嬢を襲った瘴気の方が、より濃厚で強烈な悪意を孕んでいると。そして……これは、ミーシャ嬢でも浄化できないと」
そう、問題はそこだ。ミーシャ嬢の力であっても、ユミリアを襲った瘴気は浄化できない。そうなれば、ユミリアは悪意に呑まれ、自らの意思を失ってもおかしくはない。ただ、状況はそれよりもなお悪い。
「……ユミリアが、このままだなんて、認めない」
そこに記されていたのは、ぼかしてはあるものの、ユミリアの死を示すものだった。
(そんなの、絶対に、認めないっ)
しかし、それでも、僕にできることはない。いや、僕の呼び掛けが、僕の存在が、ユミリアを引き戻すかもしれないと言われて、何度も懸命に呼び掛けてはいるものの、それしかできない。
「ユミリア……早く、戻ってきて」
戻ってきてくれるのであれば、僕はユミリアのどんな願いも叶えてみせよう。ユミリアが行きたいところ、見たいもの、欲しいもの、全て手に入れてみせる。だから、今は……。
「お願いだから、ユミリア……」
呼び掛けることしかできない僕は、ユミリアの手を握って、何度も何度も、声をかけ続けるのだった。
可愛い子ほどいじめたくなる心理で、ユミリアちゃんもイルト君もいじめまくっておりますが……ちゃんと、ハッピーエンドにしますよ?
それでは、また!