第二百二十五話 可愛いは罪(イルト視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は……まぁ、タイトルで予想できる状況です(笑)
それでは、どうぞ!
(どうしよう。ユミリアが可愛過ぎて、愛し過ぎて……心臓が、もたないっ)
いや、実際は心臓以上に深刻なモノが存在しているものの、極力、ソレからは目を逸らし、思考を逸らす。そうでなければ、ユミリアを襲ってしまいそうで怖いからだ。
(一緒に休むと言ったけど……ここは、退散するしかない)
そう、ユミリアのためにも、僕はそこから抜け出さなければならない。もちろん、強力な結界は張るし、ここに僕以外の何者も近づけないようにはする。普段、自分を守るために張る結界よりも、緻密に、念入りに魔石へ魔力を込めて闇魔法による結界を形作る。
(よしっ、これなら。後は、ユミリアの腕から抜け出すだけ)
片腕を抱き込まれた状態でベッドに横になっていた僕は、極力ユミリアを刺激しないよう、そっと、そーっと腕を抜き取ろうとするのだが……。
(……ユミリアが、僕の袖を掴んで……ま、不味い不味いっ、早く抜け出さなきゃっ)
少し引っ掛かりがあって見てみれば、ユミリアが僕の袖をキュッと掴んでいて、そのあまりにも可愛らしい光景に僕の中の何かが暴走しそうになったが、とにかく『平常心、平常心』と呟いて、無事、ユミリアから腕を抜き取る。
「みゅ……」
抜き取った瞬間、ユミリアが小さく眉を顰め、ぐずるように鳴く。
(!?!!? ……くっ、眠っていても、可愛さで殺されそうになるなんてっ)
すぐにでも抱き締めたいところではあるが、それをすると色々もたない気がするため、そっとユミリアの触り心地の良い髪を梳いてから離れる。
こういう時、王子ならばお姫様に口づけくらいするのかもしれないが、残念ながら、今の僕にはハードルが高すぎる。
音を立てないように扉を開け、外に出ると、僕はユミリアの耳で声が拾えないであろう範囲にまで行き、そこで見つけた執事に告げる。
「ユミリアが起きてから始める。漏れがないかの確認をしておくように」
「承知いたしました」
ユミリアは忘れているようだが、今日は、ユミリアの誕生日であり、僕達が初めて出会った記念日だ。プレゼントはもちろん用意しているし、ユミリアの家族だってちゃんと呼んでいる。ユミリアがいつ帰ってくるか分からなかったため、大きなパーティーにはできないが、ユミリアならば大きなパーティーよりも、身内でのささやかなパーティーの方を喜んでくれることくらいちゃんと知っている。
「イルト、ユミリア嬢の様子は?」
廊下を歩いていた僕は、先ほど別れた兄さんが前から歩いてくるのを見て、ユミリアが居る部屋の方向を眺める。
「やっぱり、疲れてたみたいで、今はぐっすりだよ」
「そっか。まだ詳しくは聞いてないけど、色々あったんだろうな。でも、イルトはユミリア嬢の側に居なくて良いのか?」
「うん、まぁ、その……一応、準備状況を確認しようと思って」
まさか、ユミリアの可愛さにノックアウトして、襲いそうになったなどとは、例え仲の良い兄であろうとも言えるはずもない。
「そうなのか? なら、それは私に任せてくれ! イルトは、心置きなくユミリア嬢の側に居るといいぞ!」
ただし、善意でそう告げる兄さんに勝てるわけもなく……僕は、結局自室に戻って、ユミリアの可愛い寝顔に生殺しの時間を過ごすはめになるのだった。
いやぁ、ユミリアちゃんが大変なことになるところまで、行き着きませんでした。
次回か、その次くらいには、きっと、多分?
それでは、また!