第二百十八話 狂信者の巣窟(エルドン侯爵視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は……作者がとってもイキイキする展開です!(つまり、ドSな展開(笑))
それでは、どうぞ!
わしは、エルドン侯爵家当主、ハウエル・ル・エルドン。今日は、わしの大切な領地を救ってくれた恩人のために、城へと訪れていた。
「まさか、彼女に救われることになろうとはなぁ」
接点らしい接点は、ほとんど存在しない公爵令嬢。ただ、黒の獣つきだというだけで、嘲られてきた可哀想な令嬢。……だと思っていたのだが、後者に関しては、案外図太いというか、むしろ嘲る連中を鼻で笑うくらいの度胸があるというか……そんな少し変わり者の令嬢だが、そんな彼女が提供してくれた薬草で、わしの大切な土地が救われたのは事実。そして、その土地では彼女を崇める声が大きくなっており、わしの方が領主なのに、わしの銅像より先に、ユミリア嬢の銅像ができてしまいかねない勢いだ。
「こちらでお待ちください」
「うむ」
応接室に案内されたわしは、鷹揚にうなずき、ユミリア嬢の友との面会を待ちわびる。
(彼女の友といえば、ハイル・ル・フィアス、ティト・ル・ミルテナ、ディラン・ル・ルナリオか、それとも、彼らの姉であるナターシャ・ル・フィアス、レイア・ル・ミルテナ、リリアナ・ル・ルナリオか……まぁ、どちらにせよ、わしと同じ侯爵家の生まれ。王城での面会というものに引っ掛かるものがないとは言えぬが、イルト殿下の婚約者であるユミリア嬢のことだ。もしかしたら、殿下もおられるのかもしれない)
そう思っていると……少し予想とは離れることとなったが、アルト殿下の方がこちらへとやってきた。
「エルドン侯爵、今日は、ユミリア嬢は不在だが、貴方の地に直接恩恵をもたらしたハイルと、ユミリア嬢に進言を行ったティトが来ている。貴方のことだ、彼らにも会っておきたいだろう?」
「はっ、ありがとうございます」
そうして、アルト殿下に先導されて向かった先で……わしは、一歩も引くことができず、硬直した。
「こ、国王、陛下!?」
なぜか、そこで待ち受けるのは、微笑みを浮かべる国王陛下、ハイル殿、ティト殿、ディラン殿。
「よく来た。エルドン侯爵」
「こ、これは、いったいっ」
「ユミリア嬢のために、エルドン侯爵にはご協力いただきたいのです」
ここで、わしはようやく嵌められたことに気づく。いや、実際に、薬草はユミリア嬢からのものであったし、わしの領地を救ってくれたのも事実。だから、ユミリア嬢のために協力するのはやぶさかではないの……だが……。
「聞いておられますか? エルドン侯爵? ここからが、ユミリア様の素晴らしいところなのです!!」
「ユミリア嬢はすごいんだぜ! 父上なんかよりもよっぽど強くて、芯のある素晴らしい人で――――」
「ユミリア嬢……あぁっ、ユミリア嬢っ。早く、そのおみ足で踏んでいただきたい」
わしは、いったいいつ、ユミリア教の狂信者との会合に出る約束をしたのだったかと現実逃避をすれば、ティト殿に笑顔で引き戻され、ハイル殿から延々とユミリア嬢の令嬢とは思えない武勇伝を聞かされ続け、ディラン殿には、知りたくなかったディラン殿自身の性癖を暴露されてしまう。そして、それが全て、ユミリア嬢のせいというか、おかげというかでもたらされていると考えれば、戦慄するしかない。
チラリと見れば、陛下は微笑みを浮かべながらも、少し遠い目をしており、アルト殿下は、陛下と同じく微笑んではいるものの、全く堪えた様子はない。
(陛下はわしと同じで、アルト殿下は、彼らと同類、か……)
ただし、陛下は彼らの協力者なので、助けを求めることはできない。
(わし、いつ解放されるんだろうか?)
それがユミリア嬢の狂信者にならなければならないということであれば、きっと、わしには無理だ。
「それで、ご協力いただけますね?」
「うむっ!!」
ようやく解放されると思って返事をすれば、ティト殿はとても良い笑顔で……。
「それは、ありがとうございます。では、あとこれから五時間ほど、ユミリア様について語り合いましょう」
わしはその日、もっちりとした頬がげっそりとするまで、解放されることはなかった。
いやぁ、うん、エルドンいじり、楽しいですなぁ♪
それでは、また!




