第二百十七話 噂(ティト視点)
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さてさて、ユミリアちゃんのための作戦が始動しました!
それでは、どうぞ!
あれから着々と準備を進め、ミーシャ嬢達がクリスタルロードに向かった五日後、我々はその成果を確認し合うこととなる。
「ハイル。リュブルの街長からは何か言われましたか?」
「おうっ、感謝状が届いて、ユミリア嬢のことを女神だって崇めてたぞっ」
「それは重畳。アルト殿下、そちらは?」
「うん、父上達の力もあって、信憑性は抜群。これで、随分と動きやすくなったと思うよ」
「ご協力、ありがとうございます。さて、ディランは、今は居ませんので、最後に私からの報告を……かの方の引き込みに成功しました。これで、噂の方の心配はありません」
『おぉっ』という声が上がる中、私はこれまでの諸々を思い出していく。
まずは、ユミリア様のお母様が療養のために実家に帰ったという噂。これを最大限に利用するため、そして、あの方をこちら側へ引き込むため、私はハイルをリュブルの街へと送り出した。
ハイルに持たせたのは、とある貴重な薬草。ユミリア様が育てて、収穫したそれは、ある病にとても良く効く薬の元であり、庶民が手を出すことのできない値がつくものだ。それを、その病が蔓延し始めたというリュブルの街へと、まずは無償で届ける。そして、その際に、ユミリア様の家、アルテナ家の家紋が入った匿名で薬草を提供させてもらうという内容の手紙を入れておく。すると、渡しに訪れたのがハイルであるということと、ハイルとユミリア様の繋がりが知られていることから、相手は勝手にユミリア様からの支援だと勘違いする。
(そうすれば、あの方が……ハウエル・ル・エルドン侯爵が釣れる)
エルドン侯爵にとって、リュブルの街は大切な土地だ。エルドン侯爵の亡き母君が最も愛した街。その場所が危機に陥ったとなれば、心を痛めないわけがないし、それを解決した者が居るというのであれば、その真意を探りたいはず。
エルドン侯爵がユミリア様に辿り着いた頃を見計らって、ユミリア様は、リュブルの街を襲ったものと同じ病で倒れた母君の見舞いに向かったのだという噂を流す。すると、エルドン侯爵の中では、ユミリア様がリュブルの街を助けてくれたということになっていく。
ついでに、ダメ押しとばかりにディランには、その病で倒れたように演技をしてもらうことにして、貴族社会に恐怖をもたらす役割を担ってもらった。それから、昨日、ディランがユミリア様からいただいた薬で復活したのだとアピールすれば、病が治まったとはいえ、まだまだ後始末に追われてユミリア様に接触できないエルドン侯爵は、我々に接触し、協力者になってくれる、というわけだった。ただ、我々にとって、ここはまだ準備段階であり……ここからが本番だった。
「では、ユミリア様が帰ってきた暁には、手厚く歓迎される環境を作り上げてしまいましょう」
ユミリア様が実際に帰ってきた時、黒への恐怖は払拭されているに違いない。それだけの威力を持つ作戦を、今日、この場に来ると告げたエルドン侯爵とともにしっかりと練り上げることにしたのだった。
エルドン侯爵……あの、『レッツパーティー』の4だったか5だったかで登場した侯爵さんです。
忘れた頃に登場しておりますが……まぁ、この狂信者達の中で、エルドン侯爵が自我を保てるか、見物ですな(笑)
それでは、また!