第二百十六話 ユミリア様のために(ティト視点)
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今回は、ちょろっと話し合い?
それでは、どうぞ!
ユミリア様の失踪は、外聞が悪い。それでなくとも、黒の獣つきということで風当たりが強いのに、失踪なんてことが伝われば、どれだけ貶められるか分かったものではない。
(絶対に、そんな事態は回避しなければっ)
ユミリア様は、私の恩人だ。忠誠を誓う相手を自由に選べるのであれば、ユミリア様に忠誠を誓っていただろうと思えるくらいには、彼女の存在は大きかった。
(となると、あの方の協力が必要、か……)
できるだけ、ユミリア様の失踪に関する情報を漏らしたくはないものの、その一人にだけは、何が何でも接触する必要があった。
(だが、その前に準備は万全にしておかなければ……あの方の逃げ場も塞いでおかねば、呑まれるのはこちらだ)
「ハイル。貴方には、リュブルの街にこれを届けに向かっていただきたい。渡す相手は、その街の長で良いでしょう。できますか?」
「おうっ、もちろんだ!」
「では、欠席届けを出した後、明日の朝に出発をお願いします」
「おうっ!」
「それと……ディラン。貴方は、私と一緒に演技です。打ち合わせは、この城でのみ。毎日、講義終了後に来てください。あぁ、もちろん、今日もこれから話し合いますよ?」
「わ、分かった」
ハイルに渡したのは、白い麻袋に入れたとある薬草。両手で抱えるほどの大きさのそれは、ユミリア様からいただいた様々な物資を収納できるという腕輪から出したものだ。
「では、ひとまず作戦会議です。アルト殿下。当然、殿下も協力者として数えて良いのですよね?」
「もちろんだ」
協力者は、有能な人間で固めるべきだ。そうすれば、ユミリア様にとって良い結果がもたらされることになる。
「私達が目指すべきは、噂の拡散。それも、信用できると思える嘘の噂の拡散です」
時間は、きっと少しばかり必要だ。嘘を真実だと思わせるには、それなりの下準備がなければ、すぐにボロが出る。
「必要な協力者は、あと一人。その方を全力でこちらへ引き込んでから、噂を拡散させます」
狙うのは、驚愕と恐怖。そして、混乱。
「我々は、まだデビュタント前。しかし、本来は社交界こそ、噂の中心地。ですので、大きな舞台はそちらとなります」
だから……さぁ、しっかりと働いて、掻き乱してしまおう。
「この作戦さえ成功すれば、ユミリア様はきっと、この国で最も崇められる存在になります」
私情が入っているのは、もう仕方ない。これに反対するような人間は、ここには居ない。
「ユミリア様のために、何がなんでも、やり遂げますよ?」
見渡せば、真剣な面持ちの協力者達。もしかしたら、帰ってきたユミリア様には叱られるかもしれない。しかし、それは勝手に失踪したユミリア様が悪いのだ。止める者が居ない作戦会議は、順調に進み……我々は、すぐに各々で行動に出るのだった。
さぁさぁ、ユミリアちゃん神格化作戦のはじまりはじまり~……え?
なにか違う?
……それでは、また!