第二百十五話 ユミリア嬢との出会い3(ハイル視点)
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とりあえず、決闘?
それでは、どうぞ!
負けた。それはそれは、完膚なきまでに、叩きのめされた。油断していただとか、侮っていたなどの言い訳が通用しないくらいに、ユミリア嬢と俺の力の差は歴然だった。
(騎士団長の、息子、なのに……)
幼い頃から、騎士団長の息子として、鍛練してきた。あの五歳の頃だって、同じ年で俺に勝てるやつなんて居なかった。それなのに、ユミリア嬢は、今も昔も、軽々と俺のプライドをへし折ってくれる。
「みゅ? どうしたの? もう終わり?」
「こ、のっ」
負けたら悔しい。ただ、それだけの思いで、俺は立ち上がって、剣を取る。
「はぁっ!」
真正面から切り結べば、力負けする。かといって、変則的な動きで惑わそうとしても、全く動じてはくれないどころか、予測できない反撃をくらう。最初は女の子だからと慢心していた心は、今、目の前の存在を強者だと認めて、全力で倒そうとしている。剣戟の最中、突きを繰り出せば、ユミリア嬢は軽く顔を背けるだけで回避して、そのまま下から剣を突き上げてくる。
「うぉっ!」
必死に回避するものの、ユミリア嬢はのけ反った俺へ、そのまま凄まじい速度で踏み込み、横薙ぎの一閃を繰り出してくる。
「ごぁっ」
見事に腹を強打した木剣。後ろへ飛ばされて、受け身を取って倒れ込む俺に、ユミリア嬢は再び問いかける。
「もう、終わり?」
まともに受けた剣の影響で、俺はさすがに、立つこともままならなかった。しかし、それでも、俺は必死に立とうと、気力を振り絞る。
「……ねぇ、どうして立とうとするの? あなたは、騎士団長の息子として見られるのが嫌で、騎士団になんて入りたくなくて、訓練をサボっているんでしょう? 今、立とうとするのは、男のプライド? それとも、騎士のプライド?」
大きな汗の雫をボタボタ落としながら立ち上がろうとしていた俺は、そんなユミリア嬢の言葉に頭を殴られたような気持ちになる。
実のところ、男のプライドで負けられないという気持ちは、全く感じられなかった。ユミリア嬢は恐らく、俺よりも強い。それを認めた瞬間に、そんなものはなくなった。だから、俺を支えるもう一つのプライドは……それこそ、ユミリア嬢が言ったもの以外あり得ないということを、足りない頭でも理解できてしまった。
「お、れは……」
「あなたは、本当に騎士になりたくない? あの場に来ていた騎士を見るあなたの目は、随分と輝いていたけど?」
皆、俺のことを騎士団長の息子として見る。俺が騎士になることを誰も疑わない。幼い頃は、父のようになるんだと騎士に憧れていたが、それを見て、聞いて、知っていくうちに、その気持ちは消えてしまった。……いや、消えたと思っていた。
「あなたは、自分を見てほしいのでしょう? 騎士団長の息子ではなく、ただの、ハイルという存在を」
そんなユミリア嬢の言葉は、ストンと俺の心に落ちてきた。
(そうか……俺は、騎士になりたくないわけじゃ、なかったんだな……)
騎士になんかなりたくないと、訓練なんかしたくないと、そう反発して、心が晴れたかといえば、その逆だった。どんどん、どんどん、心は苦しみに囚われて、抜け出せなくなっていた。
「今からでも、間に合うか?」
半年もの間、訓練に顔を出さなかった。それでも、俺は、いずれ騎士になれるのだろうかと、知らず知らずのうちに、目の前の強者へと問いかけていた。
「十歳くらいから騎士を目指し始める人が居ることを考えれば、今が遅いなんてことはあり得ないから、安心して訓練すれば良いと思うよ?」
その気取らない事実のみを述べる言葉に、俺は安心して……意識を失ったのだった。
決闘という名の、一方的な蹂躙、でしたが……何やら、ハイルはすっきりしたっぽい?
それでは、また!