第百七十六話 交渉(アルト視点)
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かるーく寝落ちしかかっておりました。
何とか、いつもより一時間後で更新できましたが……。
それでは、どうぞ!
滅茶苦茶なことを言って、私の背を押すミーシャ嬢。しかし、その手が小さく震えていることを認識してしまった後は、もう、覚悟を決めた。この先にどんな苦難が待ち受けていようとも、この震えながらも私を鼓舞してくれたミーシャ嬢だけは守り抜こうと。
謁見の間の扉が開かれて、やけに冷たい空気が流れ込む。
(そういえば、父上はどうしているのだろうか?)
セイ達が居るとミーシャ嬢が告げた場所は、ここ、謁見の間で間違いない。そして、今の時間、父上がこの謁見の間に居る可能性は十分にある。
そんなことを考えていると、扉を開けた先に、セイ、ローラン、鋼、イルトの後ろ姿が見え、その向こうで……真っ青な表情で、玉座に座った父上が見えた。
(良かった。父上も無事だった)
それさえ分かれば、後は、私の仕事。交渉によって、ミーシャ嬢に力を使ってもらえる状態に持ち込めば何の問題もない。
「陛下、お呼びと伺い、ミーシャ嬢ともども参りました。ミーシャ嬢が道中、怪我をしたので、この状態で失礼します」
本当は、父上は私のことは呼んではいない。しかし、私の声を聞いた瞬間、父上の表情は、少しだけ希望を見出だしているように見えた。ミーシャ嬢を抱き上げているという事実には、目が向いていないようだ。
「よい、すぐにこちらへっ」
いつもの落ち着いた口調ではなく、随分と焦っているような父上の早口に、私は少し不安を覚えながらもミーシャ嬢を抱きかかえたまま、前へ、前へと進み……。
「っこれ、は……」
「アルト、様……さすがに、これは、無理、です」
歩みを進める途中で、凄まじい殺気がセイ達から放たれる。それは、少しでも意識を抜けば、容易に気絶できるようなもので、心臓の弱い者であれば死んでもおかしくない。私やミーシャ嬢が耐えられているのは、ひとえに、二人揃って、昔からユミリア嬢に鍛えられてきたからだった。
「っ、イルト。何があったのか、話して、くれないか?」
近づき過ぎれば殺される。それを本能的に察知した私は、すぐに歩を止めて、セイ達の中に混ざっていたイルトへと声をかける。
「兄さん? ふふっ、ねぇ、兄さんは、ユミリアがどこに行ったか知らない?」
おもむろに顔を上げたイルト。しかし、その瞳に映るのは、暗く、昏い、虚ろだった。
「っ!?」
下手に答えれば、殺される。そして、恐らくは、答えなくとも殺される。それをまざまざと見せつけるような殺意を前に、私は逃げたくなる足を必死に叱咤する。
「まず、は、何があったのか教えてほしい。そうすれば、何か手がかりを見つけられるかもしれない」
「何があったか? ふふっ、兄さん。言ったでしょう? ユミリアが居ないんだ。勝手に家を出て、消えたんだ」
狂気を宿した瞳を、私に見せつけるイルト。そして、次の瞬間。
「危ない!!」
イルトの魔力の奔流が、私へ雪崩れ込んできた。
シリアスさん、本領発揮とばかりに踊っておりますっ。
それでは、また!