第百六十八話 ユミリアの異変(イルト視点)
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今回からしばらくは、ユミリアちゃん以外の視点が多いと思われます。
シリアスさんが、ずっしりと腰を下ろしちゃいましたからねぇ。
それでは、どうぞ!
ユミリアがおかしい。そう思ったのは、僕達が心配する中、一人でメイドの息子に薬を盛った犯人と思しき相手のところに行った後からだった。
ユミリアがあのボロ小屋に入った後、僕は護衛を撒いて、セイと合流することができた。そこで、僕達はユミリアを待っていたのだが、その小屋は前触れもなく崩壊し、慌てた僕達はその瓦礫に駆け寄って……呆然と座り込むユミリアを見つけた。
「ユミリアっ、怪我は? 何があった?」
先にユミリアの姿を見つけた僕がユミリアの側に向かえば、ユミリアは僕の方をゆっくり見て……青ざめた。
「ユミリア……?」
「ダ、メ……ダメです。来ないで、くださいっ」
青ざめながら、辛そうな表情を浮かべるユミリアを相手に、僕の中で離れるなんて選択肢が浮かぶはずもなく、かといって、近づくのも躊躇われるため、どうしたものかと悩んでいると、遅れて、セイもこちらにやってくる。
「ユミリアっ、無事だったんだ……ね?」
セイは、ユミリアの姿を見つけたものの、その表情と、僕達の間に流れる微妙な空気を感じ取って、首をかしげる。
「セイ、も……来ないで……」
小さく小さく拒絶をするユミリア。それは、明らかに何かが起こったということであり、僕達は顔を見合わせてうなずき合う。
「ユミリア、何があったのか話せる?」
僕が問いかければ、ユミリアは力なく首を横に振る。
「ミーシャを呼んでくる? 僕ならひとっ飛びだよ?」
浄化魔法の使い手であるミーシャならばとセイが提案するものの、ユミリアはそれにも首を横に振る。
「お願い……しばらく、一人にして……」
何かを堪えるように体を抱き締めてうつむくユミリア。こんなユミリアを一人にしてはおけないと思うものの、ユミリアの声はあまりにも切実で、苦しそうだった。
「っ……」
恐らくは、何か理由があって拒絶しているであろうユミリア。しかし、それでも僕にダメージがないわけではない。一人にしたくない、側に居たい、一緒に悩みを分かち合いたい。ユミリアを想うがゆえの強大な感情の嵐を無理矢理抑えた僕は、セイに肩を軽く叩かれて促されたことで、ゆっくり、ユミリアから離れる。その間、チラチラとユミリアの方を振り返ってしまったものの、もう少しでユミリアの姿が完全に見えなくなる。そう、思ったところで、瓦礫の上に座り込んでいたユミリアの体が大きく傾いた。
「ユミリア!?」
「えっ!?」
声をあげた瞬間には、ユミリアは倒れており、僕は驚くセイを置き去りに、ユミリアの元へと一気に駆け寄る。
「ユミリアっ、ユミリアっ!!」
なぜか、意識を失ったユミリア。その姿に血の気が引く思いをしながらも、脈があり、呼吸ができていることを確かめて、ユミリアの生を実感する。
「ユミリアは、すぐに屋敷に運ぶよっ」
「僕も連れていってくれっ!」
そうして、僕達は一度、意識を失ったユミリアを抱えて、ユミリアの家へと向かった。
さぁ、ゆけっ、シリアスさん!
そして、がっつりユミリアちゃんが得た絆を掻き回すのだっ。
それでは、また!