第百五十五話 入学式
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まだしばらくは平和な日常パート。
それでは、どうぞ!
「それでは、これよりメルディア魔法学園の入学式を始めます」
そう、壇上で宣言し、何かしらを話し始める教師が居るのは分かっていた。一応、話している内容が聞こえない距離ではない。ただ、私はその話に、全く、これっぽっちも集中できていなかった。
会場に入った途端、アルテナ公爵家の娘であり、イルト様の婚約者である私には特別な席が用意されていると教師の一人に案内された。そして、その席に向かった結果……現在、私はイルト様に捕獲され、膝だっこされていたりする。
(なんでっ、にゃんでこんなことにぃっ!?)
教師の言葉なんて、耳に入るわけがない。背後からイルト様に包まれて、髪をいじられたり、頭を撫でられたり、耳元で囁かれたり……心臓が大暴走を続ける状態で、集中しろなんて不可能だ。
「ユミリア、可愛い」
「ひゃうっ」
不意打ちのように囁かれて、思わず悲鳴をあげる私だったが、こんな姿を、誰かに見られたくはないと、必死に声を抑える。
「……あぁ、本当に、可愛くて可愛くて……やっぱり、監禁しちゃダメかな?」
少しの間が空いた後、イルト様はギュウギュウと私を抱き締めながらやや物騒なことを告げる。
「ダ、ダメ、です。そ、それよりも、二人の挨拶を聞かなきゃ……」
どうにかして、現状を打開しようと、私は必死に提案する。実は、この入学式の挨拶を行う入学生二人は、私達のよく知る人物だった。
「兄さんとミーシャ嬢の? そんなことより、僕は今のユミリアを堪能したい」
そう、アルト様とミーシャが、一年生代表として挨拶を行うのだ。
本来、『モフ恋』のシナリオでは、アルト様とユミリアが挨拶をしていた。アルト様の婚約者であるために、ユミリアは、代表として選ばれた形だったのだ。しかし、今回はそんな事情は存在しないため、アルト様かイルト様か、むしろ、二人一緒の挨拶の方が良いかなどと、かなりの議論があったらしい。ただ、イルト様は私と一緒に居たいからと辞退。その流れで、もう一人の代表を私に頼むわけにもいかず、どこかのご令嬢に頼むにしても、アルト様の婚約者が定まっていない今、不用意にそれを決めては争いの種を生むかもしれないと、かなり頭を悩ませる事態となったそうだ。
もう、アルト様一人で挨拶をしてもらうしかないと、教師陣の意見が固まりつつあったその時、アルト様がミーシャを推したことによって、すんなりと決定が下されたのだった。
「あ、あの、でも、イルト様……」
私は、やっぱり二人の挨拶を見たい、と言いかけると、イルト様が先に口を開く。
「それに……もう、終わってる」
「えっ?」
そう言われて、慌てて前を向けば、もう、入学式を終わるみたいな話が聞こえてくる。
「イ、イルト様……」
「大丈夫。二人は気にしない」
『私が気にしますっ』と反論しても、イルト様はどこ吹く風。
「僕は、ユミリアを堪能できて嬉しかったけど、ユミリアは違った?」
しかも、そんな風に問いかけられては、否定なんてできない。
結局、私はイルト様に弱く、簡単に丸め込まれてしまうのだった。
いつの間にか終わった入学式。
次回、多分、ユミリアちゃん以外の視点。
それでは、また!