第百五十三話 事情(アルト視点)
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またちょこっとアルト君視点。
それでは、どうぞ!
「あー、やっぱり、ユミリア嬢はイルトに隠すことはできなかったかぁ……」
私は今、ユミリア嬢に遅れながらも二人の近くまで来ており、その会話内容を聞いて思わず苦笑する。
会話の内容は、ユミリア嬢がイルトに悪意をぶつける者を改心させようと努力した数々の行い……と、いうより、イルトという人間に関しての布教活動の活動報告だ。
イルトは、私の視線の先で、とてもとても甘く微笑みながら、瞳のハイライトを徐々に消していく。
「ねぇ、ユミリアは、そんな有象無象のせいで、僕と離れたの?」
「みゅ? 違いますっ。私は、イルト様との楽しい時間を邪魔されたくなくて、だから、穏便に退いてくれないかなと、イルト様へ好印象を
持ってもらおうとしただけですっ」
「そう……確かに、そんな連中に、ユミリアとの時間を邪魔されるのは我慢ならないけど、そんな時は、僕が本気で排除するから、何も心配はいらないよ?」
会話を聞いてもらえれば分かると思うが、イルトのヤンデレぶりは健在……いや、むしろ、悪化した。イルトがユミリア嬢と同じ、黒の、しかも、猫の獣つきになれたのは、ひとえに、ユミリア嬢とお揃いが良いという祈りが成就したのではないかというのが、私や父上達の見解だったりする。そして、ユミリア嬢のためにと、剣術ではもうそろそろS級冒険者に届くかというほどに上り詰め、知識教養に関しても、王族として申し分ないほどに身につけていた。たれ目なおかげで優しそうな少年に見えるものの、その実は、深い闇を抱えた恐ろしい少年だ。
(まぁ、それでも私はイルトが大好きだけど)
ユミリア嬢とは、月に二、三回ほど一緒にお茶をして、『イルトの素晴らしさを語ろう』という会を催していたりする。一度だけ、ユミリア嬢に会いにイルトがこの会に訪れたことはあるのだが……その際には顔を真っ赤にして、なぜか私達の会話を必死に止めてきた。
(あの時のイルト、可愛かったなぁ……)
危険な成長を遂げつつあるイルトだが、やはり、イルトはいつになっても、私の可愛い可愛い弟だ。
「私はっ、皆にイルト様がいかに素晴らしいのかを知ってもらいたいんですっ! そして、私達の味方になってほしいんですっ!」
「そんなの必要ないよ。僕には、ユミリアさえいれば良い。どうしてもというのであれば、洗脳でもしてしまえば良いしね」
「みゅうぅうっ! そうじゃなくてっ! それじゃあ意味がないんですっ!」
実を言うと、ユミリア嬢の目的は、イルトに友達を作ってもらうというのもある。ユミリア嬢によると、あのイルトを狂わせた瘴気は、ユミリア嬢が十二歳を迎えたその日に行った浄化魔法で浄化できたはずだった。しかし、なぜか、その後、何度もイルトの中に瘴気が発生するという事態に陥っているのだそうだ。イルト自身は、それを知らず、大切だからといつも首から提げているネックレスの効果によって、何事もなく済んでいる状態だ。
(そろそろ止めにいかないとね?)
もしかしたら、イルトの心の在り方が問題なのかもしれない。そう結論づけたユミリア嬢は、イルトに隠れて周囲を変えようと努力してきたのだ。もしもこのことがバレれば、イルトはユミリアや私の活動を否定し、他の人間を排除することにこだわりかねないということで、今まで内緒にしてきたものの、やはり、ユミリア嬢がイルトに打ち勝つことはできなかった。それでも、完全に話させるのは阻止しようと、私はそっと、二人に近づくのだった。
次回は、またユミリアちゃん視点かなぁ?
それでは、また!