第百四十三話 走れ、ユミリア
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さぁさぁ、ユミリアちゃん、いっそげーっ。
それでは、どうぞ!
窓から飛び降りて、装備の力を使って一気に駆け抜けた私は、数分で城へとたどり着く。
「む? お嬢ちゃん。こんな時間に迷子……か?」
暗闇の中、私の髪の色まで判別できなかったらしい城を守る騎士は、私を怯えさせないようにしゃがんで問いかける。が、恐らくは、そこで私の身なりが良いと気づいたのだろう。
「ユミリア・リ・アルテナと申します。今すぐ、ここを通してください」
名乗りをあげれば、強ばった表情を騎士は浮かべる。
「なりません。現在は、城内への立ち入りは禁止となっております。申し訳ありませんが、お引き取りを」
断られるのは、もちろん想定済みだ。だから、私は最終兵器を持ち出す。
「私は今、アルテナ公爵家の令嬢としてではなく、王家の守り人として発言しております。その意味は、お分かりですね?」
私が王家の守り人としてやってきたとなれば、何らかの危機が王族へ降りかかっていると取れる。王家の守り人として、私の名前が発表されたのはつい最近。たかだか五歳児にそれだけの名が与えられた異例の事態に、社交界では様々な憶測が飛び交っている。
目の前の騎士も、どうやら王家の守り人に関する話は知っていたらしい。彼は、盛大に顔をひきつらせて、隣に居た同僚の騎士へと、視線で助けを求める。
「み、身元を証明するものを、何かお持ちですか?」
助けを求められた騎士は、とにかく私が本物であるかの確認をしようと、そう尋ねてくる。
「これで、良いですか?」
ストレージからサクッと取り出したのは、アルテナ家の家紋が持ち手の部分に彫られた扇。何かあった時用にと、お父様からもらっていたものだ。
「か、確認しました……お通りください」
扇を返され、入城の許可が下りた途端、私はさっさとイルト王子の元へと急ぐ。
「ちょっ、先輩!?」
背後のそんな声も無視して、誰かに呼び止められるのも面倒だと、気配を消し、姿をほとんど認識できないように誤認の魔法を使って一直線にそこを目指す。
「イルトっ! そんな、うそだっ。いやだっ、いやだぁぁあっ!!」
ようやく、イルト王子の部屋の前に来た、というところで、その扉の奥から聞こえてきたのは、アルト王子の悲痛な叫び。その叫びを聞いて、私は思わず、足を止めるのだった。
い、いったい、何が!?
という終わり方で、読者様をいじめる私(笑)
いやぁ、いじり甲斐のある読者様も居ることですし、楽しく書いておりますっ。
それでは、また!