第百十九話 記憶の価値
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、ちゃんと真面目なお話。
それでは、どうぞ!
「ひとまず、ユミリア嬢のその記憶は、今後、他の者に伝えぬようにせねばな」
「えぇ、未来を知っていると取られれば、利用しようと企む者も出てきましょう」
そう言いながらも、お父様はジトリとした視線を陛下へ向ける。
「私も、むやみやたらと利用しようとは思わんよ。しかしな、王としては、ユミリア嬢のその記憶は貴重なものなのだ。許せ、ガイアス」
「……理解はできております。ですが、ユミリアには万全の守りを願いたい」
「無論だ」
どうやら、陛下は私の記憶に価値を見出だしたらしい。そして、その記憶を、場合によっては利用するつもりであるとも告げる陛下は、私を真っ直ぐに見据える。
「ユミリア嬢。貴女には、これからその記憶を我々に語ってもらうことが多くなるであろう。そして、それに伴い、情報源がユミリア嬢だと知れれば、危険も増すであろう。だが、それでも、協力をしてほしい。守りは万全に整えてみせよう。だから、どうか、その記憶を教えてもらえまいか?」
通常、王である陛下ならば、命令を下すという方法を取れるはずだ。それをせずに私へ願う形を取った陛下は、ちゃんと、私の拒否権を認めてくれているように見える。しかし、実際のところは、拒否した先に王命が待つというだけの話だ。
ただ、こういう形を取ったのには、きっと理由がある。私が自らの意思で記憶を明かすかどうかというのは、これから先のことを考えるととても重要なことなのだ。自分の意思であれば、積極的に情報を渡すことになるだろうが、そうでなければ、聞かれたら答えるというスタイルを貫いてもおかしくはない。そこには、大きな情報量の差が存在する。
(うん、ここは、条件をつけるところ、だよね?)
そして、自らの意思で記憶を明かすという選択肢を取った場合に限り、私は、条件をつけるという選択肢を持つこととなる。
「一つ、条件があります」
「何だ?」
一瞬だけ、私がそう言ったことに驚いた様子を見せた陛下だったが、すぐに平然と返してくる。
「守りに関しては、私達だけで十分です。それよりも、王家の書庫での本の閲覧許可をいただけませんか?」
復活するであろう魔王に関して調べたいとは思うものの、残念ながら、公爵家の書庫や貴族のみが閲覧できる王立図書館の本では、知りたい情報が載っていなかった。もちろん、まだ探し足りていない状態なのかもしれないが、その可能性は低いだろう。だからこそ、私は、王家の人間しか閲覧できないとされているその場所で、本を読む許可がほしかった。
「よかろう。ユミリア嬢ならば、分別を持って読むこともできるであろうしな」
「では、私は陛下の求めに応じて協力させていただきます」
「うむ」
その後、本当に騎士を派遣する必要はないのかと問われたものの、私は固辞し続け、とりあえずは今まで通りとなった。万が一何か不都合があれば、すぐにでも派遣するとは言われたものの、正直、私よりも刺客の方が心配なくらいに、我が家は過剰戦力が揃っている。特に、星妖精のセイと、蒼月狼の鋼は、一晩で国を滅ぼせる戦力らしい。次点で、勇者ローラン。その次がメリーやお父様という順番らしいので、護衛は問題ない。むしろ、セイ曰く、私が一番強いらしいので、心配は全くなかった。
「では、アルトを医者に診せたいと思うが、彼を入れてもらっても良いか?」
そう言われて、私は、外でじっと待機していた男性を結界の中に招くのだった。
ううむ、王様としては、ユミリアちゃんの記憶には利用価値があるって分かっちゃうんですよねぇ。
そして、それを利用しないということはできない、と。
まぁ、それに伴う不都合は、ユミリアちゃん自身が潰していきそうですけどね?
それでは、また!