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2 恍惚の女神

 母がこんな状態になってしまっても、父はまるで何も無かったかのように日々を淡々と過ごしていた。特に以前と変わらない様子で仕事に通い、母の代わりに食事を作り、風呂を焚き、僕と四つ上の兄、二つ上の姉に時折ユーモアを振舞う余裕まで見せ始めた。


 正直、僕は父の事を「尊敬」などしちゃあいない。姉や兄に関しても同様だ。この家庭、家族は単に同性の「石神(いしがみ)」という二文字で辛うじて繋がっているだけの虚構だらけの単なるグループホームのようなものだ。



 つまらない。何もかもが腑に落ちないし、やりきれない。母は、いつになったら元気になってこのグループホームに帰属するのかな?一生戻ってこないかもしれないな……



 母が何かを隠しているのと同様に、それ以外の連中もこの事件を明るみに(さら)け出そうとは誰一人考えていないのだろう。

「運が悪かったんだ……」

 それだけで済まされてしまいそうな予感さえした。



 

 悪い夢を見ていた。時刻は多分深夜の二時~三時くらいだろうか?母親らしき女性が、薄汚くて醜い風貌を身に纏った中高年の輩どもに、その(なまめ)かしいシルクのようなきめ細かな裸体を(もてあそ)ばれていた。輩どもと母の肌の色は、鮮やか且つ対照的に闇夜に映し出され、その様は、ある種幻想的な光のコントラストを醸し出し、不思議なまでの静寂と芸術作品のような神々しさを感じるに値するものだった。



 病院での母の様子は、相変わらずだった。何も自分から会話などしてこないし、表情に関しては、少し微笑を浮かべているようにも見える穏やかなものだった。病院での食事も残さずに全て食べているようだった。



 僕は、ふと考え込んでしまった。夢で見たその「光景」は、決して(おぞ)ましい類のものではなく、いや、見方によれば「残虐極まりない」ものだったかもしれないが、何故か?そこに「必然性」のような美しさを感じずにはいられなかったのだ。何よりも僕を震撼させたのは、「その時」の母の表情だ。恍惚として慈愛と悦楽に満ち溢れたそれは、「母」ではなく「女」の様相を呈していたと強く思うのだ。

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