気をひく技〜ミリアとティルの歪んだカップルの場合〜
「あの人と愛し合っていたはずだったんです。だけど、だけどっ。裏切られてっ………」
「それはかわいそうに。こんなに君はかわいいのにどうして」
「かわいいだなんて、そんな私なんか」
ーーー目の前の光景にため息をついた。
ちょっと目を離した隙に、私の婚約者が女を慰めている。
夜会の会場からちょっと外れたテラス。
かわいい女の子が落ち込んでるのを放っておけなかったのね。
「まあ、これはどういう事かしら」
カツンッと持っていた扇を落っことして思いきり目を見開いてやった。
「あっ…………」
私の驚いた声に2人が振り返る。
「ち、違うんです。私、相談にのってもらってただけで」
違うんです、と言いながら女は頬を染めている。さりげなく私の婚約者の袖を握っていた。
「そうだ。誤解だ。ただこの子を慰めていただけだ」
小さい頃から見慣れている真剣な顔。 私の婚約者はどうやら本気で慰めていただけらしかった。
だけど、相談してる女の方は気があるみたいだけど?
なぜ第7貴族の方が身分がだいぶ違う私の婚約者にまとわりつくのかしら。
「そう、慰めていただけ…………。わ、私がおおげさに思っただけなのね………」
「ミリア!!」
先手必勝とばかりに大粒の涙を一粒流してやった。
斜め右下横を向くと婚約者が駆け寄ってくる。 強く抱きしめられた。
婚約者には顔が見えない事をいいことにニヤリと笑った。
「なっ、何を笑ってんのよっ」
下品な言葉遣いで女が目を釣り上げる。
「怖い………」
すぐに怯えた顔に切り替えて婚約者にきつくしがみついた。
「君、ミリアに失礼じゃないか」
「違う、今本当に笑ってっ!!」
私の婚約者はちょっとお馬鹿なのよね…………。
残念でした。そこがかわいいだなんて思っている私もいかれているわ。
「いいのよ、ティル。あなたが慰めるほどいやな事があったのでしょう? 私、大丈夫よ」
無理に笑っています的な笑顔を見せる。
ティルは私の笑顔に痛ましいような顔をした。
「ミリア、ごめん」
「いいの…………」
「ミリアっ!!」
ティルは私をまた強く抱きしめた。
私は女に向かって口の形だけで
『ばーか』
と言った。
「このっ!」
「きゃっ」
掴みかかってくる女をティルを盾にして華麗に避ける。
ーーーこの後、ちょっとの間おちょくる→攻撃される→ティルで避けてイチャついて見せるを繰り返したら、女は使用人に別室へ連れていかれていた。
だめね、おもちゃにもならないわ。
ため息をつく私をティルが心配そうに肩を抱く。
まあ、いいわ。ティルといればまだまだいっぱい遊べるわね。
私はにっこり微笑んでティルに肩を寄せた。
肩を寄せてきたミリアの肩をしっかりと抱く。
僕は知ってるんだ。
ミリアが僕を餌にして遊んでるんだって。
僕は何も知らないふりをしてミリアに生贄を捧げ続ける。
そうすると、美しい僕の女神ミリアは愛というご褒美をくれるから。