さあ誓って〜サリーゼとディアの素早いカップルの場合〜
貴族位が上から順に数字で表記されてます。
「貴方、本当にいい加減にして下さらないこと? 私の婚約者を横取りなんてよろしくないわ」
目の前では私の婚約者と貴族の下も下な第7貴族の女が抱き合っている。
「そんな僕たちは愛しあっているんだ」
「も、申し訳ありませんが愛しているのです」
まるで被害者のような顔でしっかりと抱き合っている。
少し頭が痛くなってきた。
よくない光景だわ。
「ねぇ」
「はいっ」
私は振り返って控えている騎士に声をかける。
「私はこのお二人をいじめているようかしら?」
「いいえ、サリーゼ様が正しいかと存じます。婚約破棄は我が国では法で罰せられるものでございます」
そうよね………、と私は持っていた扇をパチリと閉じた。
「いいわ、婚約破棄で。あっ、罰金はこちらの言い値を払って下さる?」
唐突にどうでもよくなった。
「えっ………」
周りが驚きの声をあげて固まる。
まあそうだろう。
今までしつこくネチネチと愛する2人(笑)を責めたてていたのだ。
でも、本当にどうでもよくなった。
「ねぇ」
「はいっ」
私の騎士ディアが素早く驚きを隠して返事をする。
「私と結婚したい?」
第2貴族の私より2段下の第4貴族の三男。
有能さから近衛騎士に抜擢され、休みの日だけ昔のように私だけの騎士として仕えている。
よくわからない男。
お父様はこの男でも構わないと言ったわね。
確かに出世しそう。
「はいっ」
私の投げやりな戯れに力強い返事がある。
少し女のようでもある端正な顔が笑顔でいっぱいになった。
「ちょ、ちょっと待って。ちょっと待って」
第7貴族の女が何故か焦り始めた。
割って入ろうとするのを扇で払う。
「さあ誓って」
ふふ、と私も笑顔になった。
「私、ディアはサリーゼ様と永遠に共にいることを誓います。結婚して下さい」
ディアが制服の隠しから小箱を取り出した。
素早く開けて中身をこちらに見せる。
永遠の輝きを放つダイヤモンドリング。
まあ、嬉しい。
「幸せにしてね。誰よりも」
「もちろんです。お美しいサリーゼ様」
何故かしら、ディアがこんなに嬉しそうにしているのを久しぶりに見たわ。
私、良いことをしたのね。
「私、今気づいたの」
「なんでしょう、サリーゼ様」
「ディアが嬉しそうだと私も嬉しくて胸が暖かいわ」
「私もです」
ディアが素早く指輪を私の指にはめた。
大粒のダイヤが嬉しい。
「では、サリーゼ様の御両親さまへの挨拶はなるべく早く。式は可能な限り早く。住む屋敷の目星はついております」
「あら、ディアってば仕事が早いのね。できる殿方は好きよ」
「ありがとうございます」
ディアが私の腰にさりげなく手を添えて、家の中に誘導する。
「お茶でも飲みながら式に使う聖堂はどれがいいかサリーゼ様に選んで頂きたく」
ディアの事だから、全て私好みにしてくれるわ。
「シナリオと違う!!」
第7貴族の女がなにか意味不明な事を叫んでるけど、どうでもいいわね。
元婚約者が何故か顔を青くして座りこんでいるけど。なんであんな顔と地位だけの男に入れ込んでたのかしら、私。
全くどうでもいいわね。
私はとてもいい気分で笑った。
ディアも私だけを見て笑った。
「ディア、また明日ね」
「はいっ、サリーゼ様。また明日」
窓から手を振るサリーゼ様にできるだけ純真に見える笑顔で手を振った。
名残おしく何度もサリーゼ様を振り返りながら馬車に乗り込む。
……… 俺、近衛騎士ディアはめでたく今日サリーゼ様の婚約者になった。
そして、できる限り早く式を挙げて結婚する。 早く結婚して早く一緒に住み早く子供を作る。できるだけ多く。
サリーゼ様の気が変わらない内に。
サリーゼ様は貴族らしく誇り高く保守的だ。でも、猫のようにきまぐれ。
決められた手順を踏まないと元婚約者のように投げられてしまうかもしれない。
元婚約者がサリーゼ様のプライドを傷つけようとするからいけない、いや、よかった。
俺の番が巡ってきた。
早く式を挙げたい。
サリーゼ様の好みの大聖堂で俺に愛を誓うサリーゼ様。
ゾクゾクする。
さあ誓って。
永遠に共にいるって。
その通りにするのだから。