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第九話:だから私の所為じゃないんですって

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 帰ろ……帰りた……帰ろうとしてたんだけどなー……。

 ちょっとギル私のこと睨みつけないでください、私の所為じゃないでしょう。


「……何か?」

「我々は本当に心配して言っているんだ。それに、”踏破者”っていうのは冒険者の要で、彼らの働きによっては多くの人が助かる可能性もある。君のようなお嬢さんと組むことはできないんだ」

「あぁ?」

「……んー?」


 目を細めてその男を見る。見た所冒険者ではない。名札もついているし、ギルドの職員だと思うのだが……。


「……ギルド規定、三十五条」

「へ?」

「冒険者は依頼遂行義務を持ち、最終依頼から一ヶ月が立つ場合、また、ギルド側から怠慢であるとみなされた場合、ギルドカードを剥奪、または一時的な冒険者としての活動停止の罰を掛けられる。但しSランク以上の冒険者は大規模依頼をこなすことが多々あるため、休養が必要な場合はそれに応じることとする」


 スラスラと言ったのは、道で読んだギルド規定だ。三十五条までの短い規定だったので、十分ほどで読み終えてしまった。

 これ以降に規定はないはずである。


「三十五条以内に、”踏破者”なんていう者の説明はなかったようですが?それから、その者たちに対する義務、権利、主張など。”踏破者”というものがどんなに扱われているかは知りませんが、それは私達の気にするところではないのでは?」


 そう言うと、うっと言葉に詰まった様で、ですが、だの、その、だのと繰り返している。そろそろギルの視線が痛いので帰らせてください。


「”踏破者”がそうあるべきというのは『常識』でしょう!!」

「守るべき『規定』ならば守りますが、明確な権利もないものに、義務を押し付けないでいただきたいですね」

「……」


 今度は押し黙ってしまった。

 と、そこでギルに話しかけられる。


「随分舌が回るじゃねぇか。俺を取られたら困るか?」

 とても愉快そうだ。

「ええ、そうですね。貴方がいないと、私の盾がいなくなってしまうもので」

「抜かせ」


 クックッと笑われる。小声で言われたので他の人には聞こえてはいないはずだが、パーティ解散の危機にこれは如何なものか。


「し、しかしっ、そうしないと我々の体裁がッ」

「貴方がたギルド職員の体裁を守るために冒険者がいるわけではないのですが」


 そろそろ本音が出て来たな、と思いながら、近くで事の成り行きを見ていた冒険者が職員をなじるのを聞く。

 体裁というのは大切だが、それを当人たちの前で言うのはいただけない。反感を買うだけだし、そういうのは呼び出して頭を下げて頼むべきだ。

 と、言いたいのだが……。


「う、煩い!遊んでいる冒険者の代わりに支えてやっているのは誰だと思っている!!」


 案の定、冒険者に詰られた職員が怒鳴ってしまった。


「んだと手前ェ!!」

「前線に出れねぇ臆病もんが!!」

「あーあー……」


 やっちまったな、と思いながら職員を見つめる。野次の声は大きくなるばかりで、職員に手を出そうとする冒険者までいる。

 一際荒っぽい冒険者が手を出そうとした瞬間、


「はいはい、駄目だよ?」


 中性的な声が響き渡った。

 先刻まで野次を飛ばしていた冒険者たちも、顔を青くして怒鳴っていた職員も、全員が黙った。

 髪の長い、女性か男性かも一見わからない少年が、冒険者を押さえつけていた。


「ね、これどういう事?規定では、冒険者は職員に手を出しちゃいけないハズなんだけど……」

「いや、それはそいつが!」

「言い訳無用。規定ってのは守るためにあるんだ。ウチのが何か粗相をしたなら、謝罪はするよ。でも手は出しちゃいけない。だろ?」

「う……」

「ま、今回は未遂で終わったからいいけど……」


 そう言い、抑えていた手を離し、へたり込んでいる職員に目を向ける。


「何があったの?君は荒っぽいけど、信頼も厚いBランクだ。こういう粗相は、大体宥める側だったろう?」

 そう言うと、周りを見渡し、ギルに一瞬視線を止め、またその冒険者に視線を戻した。


 今の一瞬で観察されたと思ってしまうのは、考えすぎだろうか。

 そう思っていると、冒険者たちの視線が自分に集まるのを感じた。

 周りに向けて首をかしげると、どうぞどうぞと手で示された。いや、何がだ。


「てめぇに任せるって事だろ。冒険者ってのは大体がややこしい説明なんぞできねぇぞ」

「冒険者に対する風評被害酷すぎでしょう。と言うか貴方も冒険者じゃないですか」

「俺は面倒だ」


 そう言って椅子の背もたれに背中を預けるギルを見て、私も面倒なんだよなぁこれが、っていうか椅子の上に立ってたのが悪かったのか、などと思いながら椅子から降り、簡潔に説明する。


「ギルド規定にない義務を押し付けられて、冒険者のことを”遊んでいる”と侮辱し、激怒した冒険者が手を出そうとして、今の状況ですね」

「あー……」


 何かを理解した様に苦い顔をし、冒険者に向き直った。


「この場にいる全員に謝罪する。こいつは一度も前線に出たことがなくてね、冒険者のことをまだ何もわかっていないし、彼の上司が忙しくて疲れているからそんな侮辱をしてしまったんだろう。だけど根はいい子だし、僕がもう一度言い聞かせるよ。それから、遊んでいるなんてここのギルド職員は誰も思っていない。むしろ前線で働く君らに感謝して、君らを支えられることを喜ぶ連中だからね、たまには労ってくれると嬉しい」


 そう長々と話すと、冒険者たちはそれなら、と言って去って行った。


 随分と信頼されている様だ、と思う。

 職員の格好はしていないが、冒険者だとも思わない。SSランクまでの中のBランクを片手で止めた実力者だが、前線で戦う者の様には見えなかった。


「一件落着、ですかね」

 そう言って自分もその場を去ろうとすると、肩を掴まれた。誰が掴んだかなんていうまでもない。


「ごめんね、少し事情を聞きたいんだけど……」

 そう言って小首を傾げる目の前の少年。可愛らしくしているが、ギリギリと掴まれた肩が痛い。


 自分より少し高いだけの身長なのに、どこにそんな力があるのかと考えながら、逃げる手段を考える。

 こういう時こそ病弱設定を使うべきではなかろうか。


「あっお腹が……お腹が痛くて動けない……!!」

「上階に薬が沢山あるよ。ギルドだからね、本当はお金を払って欲しい所だけど、急患なら仕方ない」

「……。家にある薬しか、」

「ギルドには国外の薬もあるけど?」

「……」


 退路は絶たれた。

 すっくと立ち、急にお腹の痛みがなくなりました、と告げると、そう、じゃあついてきてねと有無を言わさぬ笑顔で言われた。

 ちっくしょう、絶対わざとだ。

 そんなことを思いながら、隅で笑いそうになっているギルを見て、付いて来てくださいと視線を送り、受付の中に入った。


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