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第八話:ギルさん腐女子が喜んじゃうから止めて

 それから歩いて一時間。

 力量がわかったからもういい、と言うギルについて地上まで戻り、ギルドに入る。


 カランカラン、と音を立てる扉を閉め、中を見渡すと、またもや不気味に静まる冒険者たちがいた。

 ……。


「この人たちは固まってるのがデフォなんですか?」

「おい」


 咎める様にこちらを見るギルに、何ですか、と問いかけようとすると、周りが一気に騒ついた。なにやら怒っている模様。


「この人たち情緒不安定なんですか?」

「「「お前の所為だよ!!」」」

「うわ」


 びっくりした。心臓に悪いのでやめていただきたい、とここに来てから何度思ったことか。一応病弱設定なので、王城では気遣われていたんだなぁとしみじみ思う。


「てめぇ……ナメてんのか?」

「何を?」

「俺たちをだよ!!」

「舐めてません(物理)」

「そっちじゃねぇよぉ!」


 バン、と冒険者たちが机を叩く。動作が同じだ、凄い。打ち合わせでもしてたんだろうか。


「お嬢ちゃん、何でここ来たのか知んねぇが、ここは嬢ちゃんにはまだはえぇよ。街に帰んな」

「”踏破者”なんてモンも不相応だ!」


 そう言うと、ちげぇねぇ、と周りが賛同し、ギャハハと笑われた。

 いや笑い方凄いな、尊敬したわ。それともこれが普通なのだろうか、騎士も含め周りはふふ、という笑い方しかしないので驚いてしまった。


「おいどうした、固まっちまったかぁ?!」

 あ、とまた自分が余計なことを考えているのに気づいた。私の悪癖その二だ。適当に考えなくてもいいことまで考えてしまう。

 ちなみに目の隅にいるギルが剣を抜こうとしているのは冗談だろうか。あ、なんか眼が本気だ。というか鬱陶しそうだ。可哀想に、いつもこんなふうに囲まれていたのだろうか。え、面白っ。


「おいそろそろなんか言えや」

 真顔になられた。何でちょっとこっちの心配してるんだろう、さっきまで笑ってたやん。そしてギルは呆れた様にこちらを向くのをやめてくれ。

 え、ちょっと待って冒険者たち頭コンコンしないで今から話すから。


「……ぎゃはは」

 ……………。

 シィ–––––ン

 何で誰も反応してくれないんだろう、折角こちらの人に合わせて使って見たと言うのに。


「……おい、今のなんだ」

 ようやくギルが復帰した。

「聞いたことがない笑い方だったので、使ってみたいなと思いまして」

「「「ふっ……」」」


 あ、ようやく冒険者たちの意識が戻った。


「「「ふっざけんなあああああああ!!!」」」


 きぃーーーん。

 耳が痛い耳が痛い。

 抗議の視線を向け、両手で耳をふさぐと、それがまた彼らの琴線に触れたらしく、ものすごく怒鳴られた。


「お前みたいな荒くれモンもしらねぇ嬢ちゃんはなぁ、ここいるべきじゃねぇんだよ!!」

「つかどうやってそいつ誘ったお前!」

「んな弱々しい格好で”踏破者”の足引っ張ってんじゃねぇぞ!!」


 その声に、そうだそうだと賛同する声が多数。

 つまりこの人たちは、ソロの上級冒険者であるギルに憧れていて、いきなりぽっと出の弱そうな私とパーティーを組んだから、私が足を引っ張るんじゃないかと思っているのか。

 あるいは、今まで誰が誘っても靡かなかったギルと、あっさりパーティーを組んだ私への嫉妬か。


「良かったですねギル、モテモテじゃないですか」

「何をどうしたらそうなる」


 怪訝そうに返された。

 当のギルがこの中の誰をも全く相手にしていないと言うのが若干可哀想だが、見かけだけで物凄く弱いと言われた私も結構怒っているのでいいだろう。


「”踏破者”体で誘ったんじゃねぇだろうなぁ?!」


 ガンッッ!!


 その言葉を聞いた途端、私はギルの後ろに引き寄せられ、剣はそれを言った冒険者の真横に刺さっていた。

 壁を貫通していないだろうか。というか弁償は誰がするんだろう。

 そういう傷は沢山あるので、こういうのは日常茶飯事なのかもしれない。


「ひっ、ひぃ?!な、何だよ、こんぐらいいつも言ってることだろうが!!」

「……」


 あっといけない、また話が逸れてしまった。

 ギルが冒険者に対して剣を向けているという現実から逃避していたのかもしれないが。

 これはやりすぎだ、と思いギルに話しかける。


「ギル?あれ、ギルさんおこなんですか」

「……」

「おーい、ギール?」


 呼びかけても返事がないので、目の前で手を振ってみる。

 こちらを認識してはいるようだが、動くつもりは毛頭ないようだ。現に今、ギルの視線は私を通り越してあの冒険者を見ている。


「気に食いませんね……」

「は?」


 怪訝そうな目で見られるのも厭わず、椅子をギルの横に持っていき、その椅子に立ち、ギルの耳元に口を寄せる。


「今の貴方には、私なんて目にも入れないモノなんですか?」

「……」

 小声で囁くと、ピクリ、ギルの耳が動く。


「真っ直ぐにあの少年を見つめて、まるで恋する少女のようですね?」

「あぁ?」

 さすがにこの対応は避けたかったのだろうか、反応があった。同性愛者はこの国では認められていたと思うのだが、と宿主に聞いた無駄な知識を思い出す。


「あの少年は貴方を心配して言ったのです。彼らの言葉は乱暴ですが、言ったことは正論です」

「だから?」

「だから……。そうですね、お仕置きはその辺りにしてはくれませんか?」

「お前を侮辱した」

「貴方の瞳に私が入らないことの方がよっぽど問題だと思うのですが」


 そこまで聞いて、ギルは目を見開くと、アイルの方を見た。

 相も変わらずの無表情に、告げられた言葉が真実なのか、分からなくなる。聞けば聞くほど有り得ない存在だと思ってしまうし、見れば見るほど分からない存在になってしまう。

 明日目が覚めて、長い夢だと言われても信じ切ってしまうくらい掴み所がない。もしも夢だと言われても、もう一度目にしたいと思ってしまうのだろうが。


「……厄介な夢だ」

「夢?正夢でも見ましたか?」


 相変わらずの地獄耳に舌打ちすると、剣を壁から抜き、柄に収める。震え上がった冒険者は、腰が抜けたように座り込んだ。


「……帰んぞ」

「あれ、依頼は?」

「今日はいい。早く来い、不愉快だ」

「不愉快て……。多分この人たち、貴方のこと大好きなのに……」

「知るか」


 わぁお、ギルさんおこですね、本格的に。そう適当に思いながら後ろを振り向き、帰ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


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