第五話:迷宮にレッツゴー
前の投稿からの連続投稿なので、通知を見た方は前の投稿からみてください。
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キィィ、と重々しい扉が開き、迷宮への階段が姿を現す。
「……行くぞ」
その声に無表情で頷き、ギルに続く。
地下には、そこそこ広い通路の一本道があった。
入った途端大量の魔物に襲われる、というのを想定していたのだが、そう厳しくはないらしい。
ふ、と息をつき、踏み出した瞬間、
「おい、そこ罠あんぞ」
真上を弓矢が通り過ぎた。弓矢はカァン、と音をたてて壁にぶち当たり、床に落ちた。
後ろを振り返る。
「……早く言ってくれませんか?」
「矢の軌道はちゃんとズラした。いいだろ」
「びっくりしたんですけど」
「無表情で言うな」
「……」
表情筋よ働いてくれ、と思いながらもう一歩踏み出す。
「落とし穴あるから気をつけろ」
「……あっぶな」
落ちる瞬間、私の体は腕だけギルに掴まれ、宙ぶらりんになっていた。腕が痛い。
降ろしてもらうと、そこがまたスイッチになっていたらしく、上から桶が降って来た。どういう仕組みなのか知らないが、この迷宮を作ったやつを一発殴りたい。
カァン、と桶が当たったのはギルの腕だった。見上げると、ギルの腕が覆いかぶさるように頭の上にあった。よかった、危なかった。
「……てめぇは迷宮に呪われてんのか」
「こっちが聞きたい」
思わずそう言ってしまう。初っ端から罠に三連続で当たるなんて運が悪すぎる。
「ガルルルル……」
「グルルル……」
魔物の鳴き声が聞こえた。
このタイミングでエンカウントするなんて、私は本当に呪われているんじゃなかろうか。しかも群れ。五、六匹はいる。
「下がってろ」
ギルが抜刀した。
その隙にアイルは後ろへ下がり、小さく手を伸ばた。
「「ガゥルルル?!」」
次の瞬間、魔物は一匹残らず消え去っていた。
「……は?」
ギルがこちらを見る。アイルは首を傾げた。何かおかしなことをしただろうか。
「……戦力にならねぇっつってなかったか」
「力がないと言っただけです。魔法使いとしての素養はあります」
今使った魔法は死滅魔法だ。
相手を殺すだけでなく、存在ごと消し去る魔法。証拠隠滅をしなくていいので、裏社会では重宝されていた。らしい。
最も、これを使えるのは少ししかいないのだが。
そんなことを思いながら、ギルの後ろから抜け出す。
「どのくらい魔法は使える?属性は?」
ギルに聞かれる。恐らく私の力量や相性を聞きたいのだろうが、私の属性は治癒魔法だ。魔力がかなり多く、死んでいないなら治せるレベル。
だが、この世界にはないだろう。どうやって説明するか……。
とりあえず言っておいて反応を見よう。
「私は所有魔力が多いので、パンパン打てます。同時に他の魔法も出せますね。あと、呪文は唱えなくてもいいレベルにはなっているので、タイムログなし、道具なしで出せます。光、闇、氷、火、水、風、どれも使えますが、一番得意なのは治癒魔法ですね」
これでも元の世界では千年に一人の天才と呼ばれていた。足手纏いになるつもりは毛頭ない。
そう思いながら言うと、ギルは考えるように目をつぶった。
「迷宮は、そこらに松明があるだけで大抵暗い。全く光源がない時もあるから、光魔法は常時つけとけ。あと水魔法は、ここではあまり使うな。大技を使うと俺らが溺れる。治癒魔法は……」
とここで目を開き、アイルの方を向く。
「治癒魔法ってのはなかった筈だが、お前のそれはなんなんだ?」
やっぱりないのか。これはどうすればいいのか……。
そう思いながら、ギルの大剣を貸してくれと手を伸ばす。
「おい、それはお前が持つには」
「……うわ」
ドスン。そんな音を立てながら剣が落ちる。おかしい、剣っていうのはカランカランと音を立てるのではなかったか。しかもなんで石に刺さってるんだ。
「それ、持ち主だけにかかる軽量化がついてる。軽量化する前は俺でも振り回しずらかったからな、お前が持つのは無理だろ」
「大丈夫です、強化魔法をフルで使えばできます」
「どこで魔法使おうとしてんだ」
呆れたように言われ、大剣が回収される。
あぁー、と残念に思いながら見ていると、やらねぇぞとばかりにさっさと仕舞われてしまった。
なくなく諦める。
「では、軽い剣など持っていませんか」
「剣が欲しいなら最初からそう言え。おら」
そう言い、剣を投げるギル。避ける私。カランカラン、と音を立てながら床に落ちるナイフ。よかった、剣術学んでおいて本当によかった。
「ギル……」
「悪かった」
全く悪いと思ってなさそうにそう言い、ナイフ避けるぐらいはできんだな、と淡々と確認するギル。
苛ついたので蹴っておく。避けられる。
悔しく思いながらも剣に手を伸ばす。
手に取った剣をまじまじと眺め、綺麗な柄がついてて高そうだなぁなんて思いながら、自分の体に振り下ろす。
と、ガシッとナイフを持つ手を掴まれた。
「何しようとしてんだお前」
ギルに睨まれる。元から目つきが悪いため、睨みつけられるとさらに怖い。
「何って……治癒魔法の説明を?実践した方がわかりやすいかと」
「……」
淡々とそういうと、溜め息をつかれる。今は呆れられるようなことを言ったつもりはないのだが。
「実践はいい。治癒魔法ってのは外傷を治せんだな?どのくらいまで治せる、誰がそれ知ってる?」
「基本的に死んでいなければ治せるレベルです。あと私は、この世界に知り合いが貴方しかいないので、誰も知りません」
そういうと、顔をしかめられる。
「……貴族じゃなかったのか?親は?」
「貴族じゃありません。親も兄も友達も知り合いもいません」
「てめぇは一族徒党皆殺しにでもされたのか」
いや、異世界で元気に生きてます。ちなみに父親は使えない奴なら娘も捨てる人なので殺しても死なないと思います。
「いや、生きてますけど?」
「……は?」
「だからみんな、生きてますけど」
「……あ?」
「貴方は一文字しか言葉を発せないのですか」
「叩くぞ」
「すみませんでした」
速やかに謝罪。空気を読むことは大事だ。
そう思っていると、ギルに聞かれる。
「この世界にはいない。でも生きてる。どういう事だ、お前は宗教団体か何かか」
そう言われ、私は自分でも馬鹿馬鹿しいと思いながら口を開く。
こうして私は、ギルに全てを説明した。