第二十話:夢の中で
「……え様、ねえさま、」
「ねぇちょっと、さっさと起きてくんない?」
暗闇の中で、声が聞こえる。私の騎士の声。義弟の声。
二週間ほど会っていないだけなのに、その声が、酷く懐かしく思えた。
「もう少し」
答えて、寝返りをうつ。夢の中でも、こんなに眠たいものなのか。
寝ているはずなのに、体が安らぎを求めている気がする。
「だぁめ。あんたがここで寝ちゃったら、俺たち役立たずになっちゃうらしいから」
「姉様!私です、リィアです!覚えておいででしょうか」
「リィ、うるさい」
寝起きの体に、高い声は少しきつい。
キンキンと頭に響く声をやり過ごし、目を開くと、そこには見知った顔がいた。
私を膝枕する義弟に、顔を覗き込む騎士。声からそうではないかと思ったが、当たりだった。全く、わかりやすい。
「姉様。お帰りの時間です、さぁお手を」
高い声は駄目と言ったのが良かったのか、忠順に従う義弟。
甘い声は、先ほどよりも心地よい声だった。
「姫がいないと、騎士は成り立たないからねぇ。帰ってきてよ。みんな待ってる」
二人して、私が遊びに出かけたみたいな言い方を……。もしかしたら誘拐かもしれないのに、悠長な騎士です。
「貴方達は、変わりませんね」
そう言うと、苦笑された。二週間で変わるはずもないが、個性が強すぎていつもそう感じてしまうのだ。
多分、この子達は変わらない。私がいても、いなくても。
だから。
私は、差し伸べられた手を弾いた。
目を見開く彼らに、この表情は久々に見る、そう思いながら声だけで笑う。
「少しだけ旅行に行ってきます。姉様に、国をよろしくと頼んでおいてください」
私が『姉様』と呼ぶのは、私の右腕の事。
私が家族だと認めた唯一の人。
最近はやられっぱなしだったから、『姉様』への、嫌がらせだ。精々焦ってくれればいい。
じゃあね、と軽く手を振り、目を瞑る。
隣から必死な声が聞こえることに罪悪感を覚えるが、そのまま深い眠りに入る。
起きた時、この『呪い』は解けているだろうか。
きっと首に残る痣は一生消えないけれど、と満足したように頷き、アイルは深い眠りに落ちた。
今回短くてすみません。
あと改正は絶対にするので通知などにご注意ください