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裏第一話:苦労性の勇者様

 今回の話はお姫様がいなくなったとき元の世界はどんな騒ぎ()になったのかを書いたものなので、異世界の話とはつながっておりません。


 ーーーー



「さて、ではこれから第三回緊急会議を始める」


 とてつもなく大きい部屋の真ん中に、洋風の縦長のテーブルが置かれている。

 そこに座るのは、王国の中枢人物達。

 一番前の席に座る黒髪の男が号令を掛けると、周りの者達は各々で了承の意を伝えた。


「で?今度はなんなの?眠いんだけど」

 そう尋ねたのは、赤い目をする男。男はふあぁ、と欠伸をすると、頬杖をついて目をこすった。


「どうせ姫のことでしょ?流石にわかるよ。なんせ第一回が姫の誕生日に何送ればいいかで、第二回が姫が王宮から抜け出した時だもんねぇ」

「どうせ?今どうせと言ったんですか?姉様のことで?消えてくださいませんか」

「うっわ怖、シスコンこわ」

「血は繋がってませんので」


 いやそういう問題じゃないだろ、とその場にいた全員が突っ込んだ。


「もうさぁ、シスコンは置いといてさっさと本題入って?面倒臭くなるから」

「十分面倒臭くなっているだろう。それにお前らの会話は狂ってて楽しい」

「狂ってて楽しいて……。その感性どうにかしたほうがいいよぉ」

「そうか?」


 周りは話進まないなぁと思っているが、話には参加しない。側近が全員いる中で所謂『濃い』人たちが話しているのだ、普通に考えて入りたくない。

 ここに入るのは勇者でも無理だ(実体験)。


「あの……。僕、姫さまのことなら早く聴きたいです」


 行ったーー!!

 完ッ全にあいつらの世界に入ってたのに!!その中に躊躇いもなく飛び込んだぞこいつ!

 なむなむ。心の中で手を合わせた。が、しかし。


「それもそうだな、始めよう。今回の件は勇者のキースからだ」

「いや何で?!」

「何でって、そりゃお前からの提案だからな」

「違くて!この中に飛び込む奴全員死んでるのに!」

「意味がわかりません、却下」

「だから何が?!」


 同じ敬語で一人称が僕のキャラなのに何故ここまで差が出るのか。

 これは酷いと泣き崩れそうなのに、周りからさっさとしやがれと言われてしまった。フルボッコだ泣きそう。


「もういいよお前ら、家出してやる」

「しろよ」

「おい敬語」


 シスコン野郎から敬語がログアウトした。俺一番年上なんだけどな、意味ないんだねここでは弱肉強食なんだね、と思いながらキースは意を決していう。


「姫が消えた」


 その言葉に、全員が一瞬静まった。

 冷静を保ちながら赤目の男が聞く。


「……城外で遊んでるって可能性は?」

「ねぇよ。俺と話してる間にいきなり消えたからな。臨時騎士だったとはいえ、魔法の気配はすぐに気付く様にしてあったし、俺の部下に探させたが未だに見つかっていない」


 そういうと、全員が狼狽えた。

 ここにいるのは、姫に全てを捧げ、姫だけのために生きている奴らだからだ。

 ちなみにシスコン野郎は死にたいなどと宣っている。目が本気(ガチ)だやべぇ。


「落ち着け」


 その中に、凛とした声が響いた。


「まず俺達は、姫が自分の意思で消えたのか、それとも連れ去られたのかを調べる必要がある。問題は、どちらの可能性もゼロに近いということなんだが……」


 黒髪の男が話し始めると、それを邪魔する様に声が割り込んだ。


「随分冷静じゃん。あんたが監禁でもしてんじゃないの?」

「残念ながら、檻に入れて愛でるより、檻の外にいても呼び寄せられるという優越感を味わうほうが好みだ」

「流石、右腕様は違いますね?勿論趣味が悪いという意味で。ところでそんな貴方なら姫の居場所もわかると思うのですが」

「嫌味を言うな、わからないから会議を開いた」

「け、喧嘩はダメです」


 てんやわんや。この状況を一言で表すなら、混沌(カオス)だ。

 今までにシスコン野郎が姫を監禁したことがあるという事実、少なからず黒髪の奴が姫の右腕として優遇されてきたという過去の所為で、会議のはずが足の引っ張り合いになっている。こうなってくると泥沼化は確実だ。


「ていうかですね、どうして僕がこんなに必死で可愛くしようと努めてるのに、此奴が純粋そうなんて言われてるんですか?完全におかしいでしょう」

「いや、それただの僻みだからな……。気にしなくていいぞ」

「はっはい……。あの、僕、」

「ていうかさそんなの」


「ここにいる時点で、唯の純粋な奴なんているわけないんだからさ、」


 どうでもよくない?と続けられた言葉に、その事実に頷くことはできなかった。ここで当然だという顔ができるのが古残組で、沈痛な顔をして俯くのが新参組だ。

 ちなみに黒髪の奴は一人で姫がどこに行ったかを思案している。姫以外の誰もを気にしないその姿は流石としか言いようがない。


「さてと、黙ってる奴らもわかってるな?姫が消えたってのは、俺らにも国にも相応の打撃がくるってことだ。主に俺らに」

「情けない事言わないでくれます?そんな事になる前に探し出すんですよ」

「それで引きずりもどそ?」

「怖ぇよお前ら……」


 姫の事となるとタガが外れる奴らしかいないこの中で、俺がどう言っても意味はない。現に他の奴らは諦め顔だ。おいそこ、何人形に話しかけてんだ現実逃避してんじゃねぇよ。


「現実逃避じゃねぇよ、姫人形に話しかけて心静めてただけだし!邪魔すんなよ!」

「心の声聞こえんのかよ怖ぇなつか姫人形ってなんだ自作か自作なのか」

「煩いよ、そこ」

「お前らが一番騒がしいけど?!」


 さっきから怒鳴ってばかりな気がする、喉が壊れそうだ。それもこれもツッコミ役が一人しかいないのがいけない。姫がいない分楽だが、ツッコミ役よ来いと思わざるを得ない。


「姫は稀に俺らの目を掻い潜って抜け出すからな……。逃亡の可能性もかなりある、が……」

「ならアンタが探せばいいじゃん。あんたは姫の魔力感じられんでしょ?今どこにいんの」

「それが困った事にな」


「消えてんだよ、この世界から」


 絶句した。全員が目を見開いて黒髪の男を見ている。勿論俺もだ。

『魔力』というのは生きている全ての生物が持っているものだ。それが感じ取れないという事は、姫は既に、死–––––––––


 バンッッッッ!!!!


 大きな音が響いた。横を見ると、立ち上がって静かに笑う過激派が二人。

 絶句している新参組と違って笑っていられるのは、姫への信頼からか、己の強さの自負からなのか。


「へぇ、そっか、姫の気配が、ねぇ。ふぅん」

「成る程成る程、姉様が死んだ、とでも?」


 そして、核心をついた。空気が凍り、今まで姫以外に関心を示さなかった黒髪も、こちらを横目で見る。


「やだねぇ、そんなの」

「そうですね?」

「姫が俺らを置いて逝くなんて、」

「姉様の側が俺じゃないなんて、」


「「死んだとしても許さない」」


 獰猛に笑い、席を立つ二人。視線を交じわせると、部屋のドアへ向かって歩き出した。いやお前俺って、本性出てんぞ。


「二週間で突き止めて来い。それ以上待たせたら能無しと見做す」

「はーい」

「言われずとも」


 二人が部屋から出て行った直後、両手をパンと叩き、黒髪の男が言う。


「さてと、今回の会議はこれで終わりだ。次回は彼奴らがアイルの場所を突き止め次第開く。彼奴らが期限までに突き止められなかったら、俺が直接調べる。但しその場合は国が滅びると思え」


 流暢に述べられた言葉に、ひぇっと喉の奥で声にならない声を紡ぐ。その言葉は事実だろう。

 今までこの王国が飢餓や戦争、気候に悩まされながらも生き延びて来たのは、姫と黒髪のの功績によるものが多く、後釜を育てないうちにこの二人が抜けるのは、王国の死を意味するのだから。


「……彼奴らの研究、手伝って来まーす」

「良い心掛けだな。だが溜まっている仕事はやれよ」

「……」


 それには答えず、無言で出て行く。

 仮にも国の公爵に対してどうなのかと思ったが、これからの地獄の一週間を思い浮かべると絶望の感情しか湧いてこない。


 姫が戻るまでの地獄の日々に、それでも仕方がないな、と苦笑できてしまう自分は矢張り異常なのだろう。


 だがそれでも良い、それが良い、とそう思いながら小さく微笑んだ。


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