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第1話 2年1組 異世界に転生する。

 白い空間の中にいる。まるで、雲の中だ。


 上下左右は、わからない。ただ、前後だけはわかる。


 意識が向いている方向が前だ。意識が向いている方向へ

移動しているみたいだ。


 時々、人の顔大の光球と交差する。


 しばらくすると、急に視界がぶれ始めた。上下後左右に

ぶれる。だんだん、ぶれが激しくなった。強い力で、揺り

動かされる感じだ。突然失速し、墜落するような感覚を覚

えた。


 突然、視界が開けたと同時に、何か柔らかいマットみた

いな物の上に、俯せに投げ出された。

 

 起き上がろうとして、四つん這いになったとたん、咳き

込みし始めて、口の中から大量の水を吐き、その場にうず

くまった。


 じっとしていると人の気配がした。 背中から頭にかけ

て、何か布のような物をかぶせられた。


 上半身を起こし座した姿勢になったら、裸で、全身が濡

れていることに気付き、先程かぶせられた布で体の水気を

とり、体を先程の布で、身にまとい周囲を見渡した。

 

 弾力性のあるサーフボードのような形をしたマットの上

に座り込んでいた。


 周囲は、芝生が敷き詰められており、前方には、大きな

建物があり、テラスのような物があり、底にテーブルと椅

子があり、10数人の人が座ったり、談笑したりしていた。


 後ろを見ると、巨大な木がそびえ立っていた。幹の太さ

だけでも、教室2クラス分ぐらい。木の頂上は見通せない。


 人の背丈ぐらいの太さの枝が大きく張りだし、枝分かれ

した先には、畳半畳ぐらいの葉っぱが幾重にも重なる。


 目の前のいくつかの枝には、巨大な果実が垂れ下がって

いる。柱ほどの太さの枝の先端には、長さと太さは、ドラ

ム缶ぐらいで、形は、紡錘状。色は枝付近は、桃色っぽく

先端に行くに従って茶系統が強くなり、小豆色っぽい。


 一番近い所にある果実が、まるでクレーン車から引き下

ろされるように降下し、地上1mのところで、停止した。


 果実の中央部が少しずつ膨張し始めた。すぐに、果実の

先端から水が流れ始めた。最初は、水が漏れる感じだった

がすぐに、水量が増え、突然、何か白っぽい物が、落下し

た。


 水気の多い巨大な蚕のまゆのような形だった。ゆっくり横

向きに倒れ、新たに上部となった所から縦方向に裂け目が

でき、ぱっくり開き、中には、人が膝を抱えるようにして

うずくまっていた。


 すぐに数人の修道服みたいな服装をした人たちが、介抱

するため駆け寄って行った。


「木の実から、人が生まれる。さすが異世界だ。」


 と声が聞こえた。声の方を向けば、クラスメイトの一人

新田京介が居た。前よりイケメンさが増したように見える。

 

 服装は、登山の時と違ってた。ベージュ色の襟無しの腰

あたりまで丈があるシャツ、下は、ゆったりとした柔道の

試合で着るようなズボン、足は、サンダルを履いている。


「田中 一君でいいかな?」と新田京介。


 うなづく、俺。続けて、新田京介が言う。


「登山の最中、霧が出て、視界不良になったの覚えてる?」


 続けて、うなづく、俺。


「その後、全員気を失ったらしい。気付いたら、あそこに

そびえ立つ巨木を経由して、この世界へ転移したみたいだ

。」と新田京介。 新田京介の説明が続く。


 新田京介の説明によれば、ここは、この国の聖地らしい。

神聖樹と呼ばれる奇跡を起こす巨木が、太古よりこの地に

根を張り、この巨木を囲むように神殿ができその周囲に都

市が発達したそうだ。

  

 今朝から、この神聖樹は、巨大な果実から、次々、2年

1組の深夜登山参加者を生み出しているとのことだ。


 新田京介は、明け方の早い時間帯で、転移してきて、4,

5番目だったらしい。


 今は、昼の半ばで、俺は、28人目だそうだ。


 この世界は、デニアと呼ばれているらしい。この地は、

アリーティム王国に属し、サラーマと言う都市らしい。


 ここは、神殿の庭園の一画、アーリアという神を祭って

いるらしい。アーリアという神とこの神聖樹は、関係が深

く、この神聖樹は、神の具現の一部とされているそうだ。


 通常は、この神聖樹は、聖樹の実が生まれる。聖樹の実

は、高級ポーションという回復薬の主原料になるらしい。


 アーリアというこの世界の神は、慈悲深く、野獣や魔物

が跋扈するこの世界で、人々の営みを手助けしてくれる存

在らしい。


 今回の転移も、この世界に住む人々の救済策らしい。


 ただ、事前の神からの啓示では、人数に関することはな

かった。今回、予測では、31名の人間が、転移するらし

い。神殿の予想より、人数が多く、混乱しているらしい。


先ほど、目撃したのは、29人目の転移だそうだ。


「巨大な木の実は、後、2個ある。2個とも地上付近に下

がってきた。もうすぐ、あの2個から、同級生が、出てく

ると思う。そうなれば、参加者深夜登山全員が、転移した

ということになる。」


 新田の言葉が、現実離れして、しばらく反応できなかっ

た。


「おい、田中。」と、新田が、俺の肩をゆすった。


 言葉としては判るが、頭がその事実を受け入れず思考

が止まったままだった。


「舞。こっちにお願い。」と新田が、呼んだ。


 新田が呼んだ相手は、同級生の水口 舞である。細身

で、細面。肩あたりまでの髪で、セミロングヘアー睫毛

が長く、眼の大きい、長身の清楚な美人である。

 

 合気道部に所属し、かなりの強者である。


 我々が通う学校は、週4回の体育の授業の内、週一回

は、武道の授業がある。武道には、男子は柔道、剣道、

女子は、剣道、合気道があり、選択制である。


 水口 舞は、女子同士の取り組みは、物足りないとい

うことで、授業の合間に、柔道を選択した男子に取り組

みを求めてくる。


 担当の体育教師は、体格の優る男子と取り組みするこ

とで、女子のレベルアップにつながるというで、大目に

見てた。


 クラスの女子にもてない族にとっては、水口 舞との

取り組みは、例え投げられても、密かな楽しみ1つであ

る。


 クラス内では、ハイスペックな美人の一人と体がふれ

合うぐらい近づけるチャンスなんて普通はない


 ただ、水口 舞のの強さは、半端でない。水口の道着

に触れるかどうかの時点で、相手は、すでに、足が畳に

ついていない。クラスの男子全員が、投げ飛ばされた経

験を持つ。


 新田と水口は、双方の両親公認のカップルである。


 新田と水口のカップルになった経緯は、おもしろい。

ある時、水口 舞は、クラスの男子の中に、取り組み

相手を求めて乱入してきた。いつものごとく、男子が、

次々投げ飛ばされた。


  新田も同じように投げ飛ばれた。剣道である武術

の心得がある新田は、プライドが刺激された。


 新田は、竹刀を持ち出して、水口に勝負を挑んだ。

水口は、新田の竹刀をいなし、新田の懐に素早く飛び

込み、手首をつかみ、投げ飛ばした。


 新田の完敗であった、水口の際だった強さを印象づ

けた取り組みだった。


 その数日後、水口の体に異変があった。水口の両腕

前腕部、肘から手首にかけて、数個の竹刀の太さほど

の黒紫色に変色した腫れが生じた。


 水口は、すべての新田の振りをダメージ無く避けら

れず、いくつかの振りを腕に食らった為である。 


 水口は、試合でのこととして、気にせずにいたが、

新田は、傷を見て、平静を保つことが出来なかった。


 新田は、水口に、あわてて、土下座で、謝罪した。

水口の両親へも、謝罪すると言い出した。水口の父親

が、帰宅する時間を見計らって、水口の家へ行った。


 水口の家へ着いた新田を見た水口の父親は、娘が初

めて父親にボーイフレンドを、紹介するもの勘違いし

気持ちが上の空になった。


 玄関先で、水口の父親が、出迎えた途端、玄関先で

新田が土下座し、


「舞さんを傷ものにしました。すみません。」と謝罪

した。


 水口の父親は、この新田の言葉に驚いた。男女の付

き合い、しかも、高校生同士、いくら何でも順序がメ

チャクチャと思い、感情を高ぶらせ、


「責任取れ!」

 

 と言いながら、新田につかみかかった。水口の父親

が、2,3発新田を殴ったところで、水口舞とその母

親が、止めに両者の間に入った。


 そこで、水口舞は、両腕をめくり、傷をみせ、事情

と経過を説明した。その日は、水口の父親が、日頃の

運動不足がたたり、娘のことを思った激しい動きをし

たため、ヘトヘトとなり、あやふやに終わった。


 その日以来、新田は、水口の家により、登校するよ

うになった。水口に傷を負わせたことに責任を感じ、

傷の負担軽減ため、教科書類が入った通学鞄を持って

あげるためである。


 数日立ち、水口の前腕の内出血の傷が、薄くなった

頃、新田は、水口の父親に呼び出され、こう告げられ

た。


「娘を傷つけた責任として、一生面倒を見てもらう。」


 新田は、唐突に告げられたその言葉にその意味する

ところを理解しないまま承諾した。


 水口の父親は、新田の謝罪を受けた後、新田の人柄

を調べた。その結果、まじめで、成績が優秀。性格的

に温厚で、都内の有名私立大工学部建築科志望である

ことがわかった。


 水口の父親は、水口組という小規模な建築土木会社

を経営している。小規模な故、会社運営に必要な建築

土木技術者の確保に苦労している。建築科志望の新田

は、水口の父親にとって、有望な人材に思えた。


 水口の父親は、損得勘定で、新田を娘の婿にするこ

とにした。水口の父親にとって、水口舞が魅力的な容

姿であり、水口舞に負い目を持ち、新田の攻略は、簡

単だった。


 水口舞は、父親の決定に、当惑した。水口舞にとっ

て、新田京介は、マイナスな印象は、無かったが、ク

ラスメートの仲の良い一人に過ぎなかった。


 水口の父親が、新田京介に合う度に、婿殿婿殿とは

しゃぐ姿を見て、水口舞は、新田京介を意識し始め、

新田京介の人柄に惹かれていったらしい。

 

 最近では、新田京介と水口舞は、自他共に認めるク

ラス内の公認カップルである。 


 俺から見たら、この二人はうらやましい。


 そんなことを思っていたら、水口舞が、両手に衣類

を抱え、やってきた。新田京介の所にである。俺の所

はついでだ。


 水口舞の格好は、新田京介と同じように、ベージュ

色の襟無しシャツ、下は、シャツ同色のゆったりとし

た柔道の試合で着るようなズボン、足は、サンダルで

ある。ただ、新田京介と違い、上着は、シャツの上に、

さらに1枚、薄緑色の袖無しのカーディガン風の上着

を着込んでいる。


 考えてみたら、ここにいきなり裸で放り出されて、

バスタオルみたいな物で、身を包んだだけであった。


 目の前に、水口舞は、衣類を差し出した。


「中1。着る物持ってきたよ。これ着て」と水口舞


 中1とは、クラス内での俺のあだ名である。同じク

ラス内に田中性が、3人いる。紛らわしいので、名字

で呼ばれることは、あまりない。


 俺の名は、田中 はじめなので、中1、一人は、田中

修三で、中3、と呼ばれ、もう一人は、田中 すばるで、

これは、単に、すばると、呼ばれている。


 水口舞から、衣類とサンダルを渡された。新田京介

が着ている物と同じ物だった。


「ここで着るの?」と聞く俺。


「見慣れているから、大丈夫。」と水口舞


新田を見ると、せかすようなしぐさ。開きなおり、そ

れまで、身を包んでいたタオルは、回収するとかで、

新田京介に渡し、シャツを着た。


「パンツは?」と聞くと


「パンツは、ないんだ。パンツを穿かないたいだ。」


 と微妙に戸惑った表情を示す新田京介。


「パンツだけでなく、ブラもこの世界にはないみたい。

支給されてたシャツでは、乳首見えそうだから、女子

には、上着を追加してもらったわ。」と水口舞。


 しかたなく、ズボンを穿いた。ズボンを穿く時、な

ぜか、強い視線を股間に感じた。強い視線の元をたど

ると、水口舞と視線があった。すぐに、水口舞は、視

線を逸らした。


 ズボンは、ベルトなく、紐で、留めるものだった。


 サンダルを履くと、建物へ向かうよう新田京介から

促された。向かう建物は、バルコニーがこちらに向い

て、テーブルと椅子があり、そこには、多くの見知っ

た顔があった。


 新田京介と水口舞が、肩を並べて歩き始めた。2人

に少し遅れて、バルコニーへ向かい歩き始めた。体が

妙に重く、スムーズな足取りが出来ず、ヨタヨタと2

人後を追った。


 なんとかテラスへたどり着き、空いている椅子に座

り、そばのテーブルに俯した。


 


 





 


 



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