第六十七話 用心棒?
ユーグレの手引きでデイコモの城壁外地区でしばらく潜伏をすることにした。
なんてことはない、ユーグレの棲み家であるあばら屋に転がり込むことになっただけだ。
「ねぇ、ユーグレ。あんた家族は?」
「いねぇーよ、そんなの。物心つく前に教会の前に捨てられていたんだと。……俺は、かみさまって奴が嫌いだったし、シスターの仕置きがいやになっちまったので、修道院を抜け出して、ここでこうして生活をしてるってわけさ」
この子。修道院出身か……。
ずきっ!
なぜか、その修道院という語を聞くと、なんだか、ソワソワする。
なんというか、親近感を感じる。
「だからって盗みをするなんて」
「説教はやめてくれよ。……俺には手にもった技術なんて何もない。この年だと普通に仕事もないし、春を売ることだってできやしない。そんなオレができるのは盗みくらいしかねーんだよ」
この子、なかなかに詰んだ状況だ。
まぁ、そもそも、頼るツテが無い状況で修道院を飛び出したのだから当然といえば当然か。
「……ふー。仕方ないわね。じゃあ、こうしましょう。私が外で働いてくるから、ユーグレ。あんたは、家の中の仕事をしなさい」
「……え? なにいってるんだバ……ルシフのねーちゃん」
「あなたは年齢的に外で働けないでしょ? だから、私が働くの。で、その間にあんたが、食事洗濯なんかの私の身の回りの世話をするの。……そうね、他にもあんたに文字の読み書きくらいは教えてあげるわ」
「……なんで、あんた、俺にそんなことをしてくれるんだ? あんたに何か得があるか?」
ユーグレが本当に不思議そうに聞いてきた。
「……うーん。なんでだろうね。なんとなく、というしかないんだけどね」
私としても、理由はよくわからない。でも、なぜか、この子を放っておけないと思ってしまったのだ。
「変なねーちゃんだな」
でも、少し気恥ずかしそうにユーグレははにかんだ。
その笑顔は年相応のもので、可愛らしかった。
◆◇◆◇◆◇
仕事は割とすんなり見つかった。
なんてことはない、また給仕の仕事にありつけたのだ。
「ご注文をお伺いいたしまーす!」
かつて知ったる、なんとやら。
気がつくと、あっという間に一日が過ぎていた。
この酒場は日払いで賃金を貰えるので大変助かる。しかも、朝から夕方まで、飲んだくれが溢れているおかげで、仕事にも事欠かない。
「ルシフちゃん、お疲れ様。明日も、また、頼むよ」
「はーい。明日もよろしくお願いしますねー」
とりあえず主人に媚を売っておく。
さて、帰り際に何か、買おうかしら、と。
……ん。あれは?
日が落ちて、薄暗くなった、帰宅途中。
あばら屋近くの裏通りで、ユーグレと、他の子供たちとが言い争っているところに出くわしてしまった。
子供と言っても、ユーグレよりもだいぶがたいがよく、何人かは私よりもガッチリしている。
「どうしたの、ユーグレ?」
「おう。お前がユーグレが雇っている用心棒か!」
え? 私が用心棒?
子供達のうち、もっともがたいがよい少年が私に向かって叫んできた。
「最近、こいつからのあがりがないと思っていたが、お前がいるから、俺をなめているんだな。よし。いっちょ、誰が上に立つ人間かと言うことをその身体に教えてやるよ!」
そういって、そのがたいのよい子供は近くの壁に立て掛けていた大柄な棍棒をむんずと掴むや、勢いよく振り回して、私の頭へと勢いをつけて叩きつけてきた。
子供とはいえ、割と大柄な子だ。
あの棍棒をまともに受けたら、腕にひびくらい入るかもしれない。
……が、身体が勝手に動く。
振り落としてきた棍棒を持つ、その子の手首を手刀で受け流し、棍棒の一撃を紙一重で避ける。
そして、勢いこんで、前のめりになっている少年の顎に向けて受け流した手刀を、返す刀を振り上げるかのように、上腕でラリアットをして、首もとに叩きつける。
実にタイミングよく決まった。
少年は、私の上腕を支点に、まるで鉄棒の逆上がりをするみたいに、首を中心にくるりと、両足がはね上がり、そのまま頭から地面に叩きつけられた。
……ここが、石畳じゃなくてよかった。
倒れて動かなくなっている少年を診て、まだ息があることを確認して、少し息をつく。
「スーナ。この子、大丈夫?」
小声でスーナに聞く。
『うむ。少し気絶をしているだけだろう。割と頑丈な少年だな』
私はすっと立ち上がると回りの少年たちに視線を送る。
その視線だけで、回りの子達は一歩、後ずさる。
やはり、戦闘は一撃必殺。そして、相手の最大の戦力をまず叩く。
あとの、有象無象はこれで無力化完了だ。
「ル、ルシフの姉御、すげー!」
一部始終を見て固まっていたユーグレが、爆発をするかのように喝采をあげた。
あんた、前に私のことを、ばばぁ、って言っていなかったっけ?
……まぁ、いいわ。
「で、続ける?」
私は獰猛な瞳を爛々と輝かせながら、笑みを浮かべ、他の子供たちをひとにらみする。
演技ですよ。素じゃないですよ。
私にひとにらみされた、どの子も一生懸命に首をふっていた。
◆◇◆◇◆◇
この辺りを根城にしている子供達に、なぜかなつかれてしまった。
通りを歩いて子供達と目が合うと、なぜか、ペコペコと挨拶をされるようになった。
いや、別に私、あなたたちをとって食べたりはしないわよ。
数日後、その日も私は一日の仕事を終えて、さて、帰宅しようと思って、通りを歩いていた。
途中、ものが焼ける、焦げた臭いがした。
木造の家が多い、この城壁外の一角。燃え広がれば、あっという間に大火事だろう、と思えた。
なので、急いで焦げた臭いがする方向へと向かった。
とある家の一角から、赤々と炎が上がっており、消火をするのは、なかなか厳しそうだ、というのを直感した。
「ど、どうしよう」
『魔法が使えれば早いのだがな』
「……魔法」
私は昔魔法が使えたらしいが……。
ズキン!
頭痛と共に、頭の中にとある一節が浮かぶ。
私はまるで導かれるかのように、その一説を暗誦していた。
……気がつくと、私はまるで、風呂場に服ごと入ったかのように水浸しだった。
そして、私の回りも。
目の前の炎はいつの間にか、鎮火していた。
「これはいったい……」
『ルシフ。君は魔法が使えるではないか』
スーナが私に語りかけてきた。
でも、自分が魔法を使ったなんて全然、記憶にない。
と、そこで、街角でこちらをじっと見ている視線に気がついた。
私はそちらに目を向ける。
その人物は私が視線を向けたその瞬間にきびすを返し、闇の中へと消えていった。
次回は3/22(木)更新の予定です。




