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第五話 晩餐会

「なに? しくじっただと?」


「申し訳ございません。なにやら、邪魔が入ったらしい、との報告が」


「どこからか情報が漏れていたのか?」


「は。 申し訳ございませんが確認はとれておりません」


「まぁ、ガキ一人殺し損ねたことよりも、情報が漏れているかもしれない、という点の方が心配だな。よし、再度、情報漏洩があったか否かの確認を取れ」


「御意。では、その間、子供の方は?」


「捨て置け。黒騎士にも撤退命令を出して良い」


「では、この件はしばらく置いておきます」


◆◇◆◇◆◇


「……えっと、ヒューリ。どうしたの?」


「うん? 俺は、いったっていつも通りだが?」


 どの辺がいつも通りなんだ。

 次の日、なぜか、朝からヒューリがケイメルにベッタリしている。

 二人が実はできているのではないかと、関係を疑うくらいに、なぜだか、いつも一緒にいる。

 しかも、ケイメルの女の子顔とヒューリの組み合わせは、なんとなく、いけない関係性すら醸し出しているようで、一部の女生徒がなにやら不穏な視線を向けている。


 ヒューリは、近くの生徒全員を射殺すかのような視線を向けて警戒している。

 まぁ、昨日の今日だから仕方ないのかもしれないけど、それでもやりすぎじゃないかなー。

 でも、私も警戒系の魔術道具を、家から大量に学校に持ち込んでいるので、お互い様かもしれないが。


「しかし、ヒューリって、そんなにケイメルのことを心配するような仲だったっけ? もしかして二人は……」


「ば、ばか! 何をいっているんだ! この人は……っていうか、同級生を心配して何が悪い!」


 なんか、ヒューリ、言いかけなかった?

 まぁ、いいか。


 そんなこんなで、今日一日は気を張り続けて、警戒に当たった。

 ……特になにもなかったんだけど。

 それよりも、なんで、ケイメルが襲われたのかの方が気になるんだけども。


 その点を、本人に聞いてみると、


「うーん。心当たりはないなー。多分、人違いじゃないかなー」


 ということだった。

 本人、自分が襲われたにも関わらず、あまり、気にしていないみたいだ。

 なかなかに、肝が座っているなー、なんて感心してしまう。


 結局、一週間ほど、警戒していたが、本当になにも起こらなかった。

 うーん、あれはいったいなんだったんだろう。

 とりあえず、近衛騎士団の人が言っていた、常に警戒せよ、という格言がまさに事実だと確信した一週間だった。


 そういえば、こんな慌ただしいときなのに、今日の昼間、一人の上級生から告白されてしまった。

 もう少し空気を読めよ、と言いたくなる。

 子爵様のご長男で、地方に立派な領土があるとか、なんとか。


 生まれて始めて(前世込み)のことだったので、結構、緊張するかと思いきや、割と冷静に断ってしまった。


 まぁ、恋愛とかにうつつを抜かしている暇もないし、というか、あんまり、その先輩に興味もなかったし、で、すぐに忘れた。


 でも、そのことをケイメルに話したら、顔を赤くしたり青くしたりしてそっちの方がよっぽど面白かった。


 最後にちゃんと断ったよ、と教えたら、ほっとしたような顔をしていた。

 なぜだか、私もその顔を見て嬉しくなってしまった。


 なんでだろ。


◆◇◆◇◆◇


「そういえば例の騒ぎのときに、フォリナーの娘に助けられたと言うておったな」


「はい、おじいさま。あのときルシフは身を挺して僕を助けてくれたのです」


「そうかそうか。ふむ、そうであれば、一度、直接感謝の言葉を述べたいものだが」


「ですが、ヒューリと違い、彼女は関係者ではありませんよ。私の秘密をばらすのは、まだ少し早いかと」


「ふむ。では、晩餐会にでも招いてみるか」


「え? おじいさまが?」


「ふぉっふぉ。ちょうどよいところで彼女の名前を聞いたのでな」


 ケイメルに、おじいさんは、一つウインクをしてみせた。


◆◇◆◇◆◇


「え? 晩餐会ですか?」


 朝、登校した私に、教務主任のシュナイデル先生が声をかけてきた。


 なんでも、年末試験の成績上位者たちを集めて、宮廷で晩餐会があるらしい。

 しかもいつもならば、晩餐会では、国王名代の宰相閣下と会食するのが通例だが、今年は国王陛下の都合がついたらしく、陛下臨席という、数年に一度あるかないかの幸運な晩餐会らしい。

 まぁ、陛下に名前を覚えていただければ、出世を考えているような連中にしてみれば、それこそ、登竜門みたいなものだろう。

 私にはそんな出世欲なんぞはないので、関係はないのだが。

 そういえば国王陛下といえば、遥か昔に参加したパーティーで、ちらと横顔を見たときくらいしか、顔を見たことがない。


「ルシフは魔法成績上位だからね。さすがだね」


 ケイメルが私に賛辞を送ってきた。


「えーと、ケイメルは?」


「僕は成績上位とまではいかなかったからね。残念ながら。でも、実は僕も参加することになっているんだ、晩餐会に」


「え? なんでまた?」


「元々は僕の父がゲストとして、今回の晩餐会に参加することになっていたんだけど、生憎、都合がつかなくなってしまってね。そういうわけで僕が名代として、参加することになったんだ」


 やれやれと肩をすくめるケイメル。


「ケイメルもなかなかに、大変だね」


 貴族社会はしがらみ等で色々と面倒なのだな、と思う。


「うん、そうなんだよ、あ、ちなみにヒューリも参加するよ。でも仕事は近衛騎士団として護衛任務だけどね」


「あれ? ヒューリって騎士なの?」


「正確にいうと騎士の補佐かな。彼は士官学校幼年部の卒業生だよ」


「へー。やっぱり、貴族って大変だね」


「……ルシフも貴族なんだけどね」


 ケイメルの突っ込みは軽くスルーしておいた。

 なんとなく、庶民の癖が抜けない。

 元修道院の孤児だし、そもそもいうと前世は異世界人だし。


 ……そういえば、アーサーたち、修道院の皆、今、何をしているんだろう。

 別れてから、一度も、手紙とか出してないや。

 まぁ、そもそも、住所とかもあやふやだし、郵便なんていう便利なシステムもこの国では整備されていないけど。

 私が宰相やるんだったら、色々と試したいことがあるんだけどなー。

 などと、とりとめもなく思考実験をしてみるのも、なかなか楽しいものだ。


 そんなこんなで晩餐会当日。


 お洒落とは言えないけど、普段はあまり着ないドレスを着ている。

 胸元が結構大胆に開いている薄紫色のドレスだ。

 それに、いつもの赤い宝石をあしらったネックレスだけを身につけている。

 イヤリングとかも推薦されたけど断った。

 痛そうだし。

 あと、なんとなく、胸が小さいので、こんなに開けたドレスは不格好な気もするが、気にしたら敗けだ。


「ルシフ。今日は一段と素敵ですよ」


 晩餐会の会場の入口近くで出会ったケイメルが誉めてくれた。

 わかってくれる人はわかっているのです。


 晩餐会場は、城の端にある、来客用の建物の一階の広間にあり、天井にところ狭しと、絵画が描かれたりして、えらくきらびやかな広間だ。


 会場にはもう大勢の招待客が、詰めかけていた。

 魔法大学校の学生としては、各学年から一人ずつ、高等部五名と、初等部四名が招待されていた。

 ……って、女生徒が高等部では私だけだ。

 初等部には、一人だけいるけど、まぁ、そもそもうちの学校、女子の数少ないし。

 しかたないか。


 会場では、みんなからの視線を一身に浴びながら、壇上にて、陛下から勲章を賜った。


「ルシフ・フォリナーよ。そなたの勉学に対する研鑽、天晴れである。また、そなたの学友に対する勇気ある行動、余にも聞き届いておる。我が国にそなたのような勇気ある少女がいること、ベルモンテ王立魔法大学校の所有者として感謝の言葉をのべる。……そなたの父、ガンバルドのような偉大な魔法使いになるべくさらに一層の研鑽を積むが良い」


 そういって、私の胸に勲章を着けてくれた。

 そして私の両手を手に取り、私の目をじっと見つめた。

 予行にはなかった行動だ。


「は。陛下の過分なるお言葉、まことにもったいのうございます、これからも王室のため、精一杯、勉学に励む所存にございます」


 とりあえず、予行通りに口上を述べておいた。


「うむ。大儀であった」


 そういって陛下が屈託のない笑顔を浮かべた。

 とりあえず、喜んでもらえたようで、ちょっと肩の荷がおりたかな。


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