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第四十九話 籠城戦

「ちょっと、お父さん。説明してよね!」


 死人の軍勢の追撃を振り切って、騎士団の敷地内へと、からくも逃げ込んだのが、つい先ほど。

 死人は一人一人の戦闘力はさほどでもないが、数がとにかく多いのと、タフなところが面倒だ。

 それに、死人に噛まれると、噛まれたものも死人になるらしく、迂闊に近づけないのも厄介だ。

 いわゆる、ゾンビとか、バンパイアみたいな感じだ。


 王都はもはや、死せる住民の街、死都となっている。


 死人に噛まれたものは、同じく死人になる。

 そして、新たな死人がまた、新しい犠牲者を作り出していく。

 まさに、倍々ゲームだ。


 一番良いのは接触しないこと。

 ゆえに、今は騎士団の宿営地である敷地内で、城門にのみ防御を集中し、籠城している。


 物見の塔から、街中を見ると、あちらこちらから火の手が上がっている。

 はやいところ生存者の救援に向かいたいが、手元の第四騎士大隊と、第一から第三騎士大隊の新編された部隊、それに、教導騎士大隊を合わせたところで、人員は千名にも足らず、都市の死人を相手にするには、いささか数の上で心もとない。

 それに、この虎の子の近衛騎士団が壊滅してしまったら、それこそこの事態をどうにかできる手段がなくなってしまい、詰み状態だ。


「……ガンバルド殿。我々に何か良い知恵を貸していただけないだろうか?」


 近衛騎士団の責任者で、キャンベル団長の不在の間、騎士団の留守を預かっている副騎士団長のクストン中将も、私の隣で父に頭を下げている。

 彼が、今や、この王都の守護の責任者だ。

 その厳つい肩が小刻みに震えているのがみてとれる。

 無理もない。この重責は厳しかろう。


「……一度、やつらの眷属になったものは、どうにもならん、燃やして灰にするか、心の臓か、頭を吹き飛ばしてやるしか手はない。実行するには頭数が必要だな」


 今日の朝御飯はトーストかな、くらいの軽い感じに父が答える。相変わらずだ。


「お父さん。その頭数が全然足りないから困っているんだけど。それに、あいつらに襲われて、噛みつかれると、死人になっちゃうし。その対策をしておかないと」


「……まぁ、噛まれた瞬間ならば、『黄金の炎』の魔法で傷口を焼けば、まだ、治癒可能だがな。身体中にやつらの毒素が蔓延したら、もう無理だ」


『黄金の炎』の魔法は上位魔法だ。そこら辺の魔術師の卵では、簡単に扱える代物ではないので、父のアドバイスはあまり参考にならない。


「他にはないの?」


 本人は死人に囲まれたところで、眉ひとつ動かないとは思うが、誰しもが実行できるプランではない。


「そうだな。あとは、根本的な解決策としては、連中を動かしている司令塔。『始祖』を破壊すれば、少なくとも連中の動きは止まるな。それこそが、わしの目的でもあるが」


「司令塔、って一体全体どこにいるのよ?」


「簡単だ。ケイメル王子に取りついている魔王ルガン。やつが始祖だ。ゆえに奴さえ殺ってしまえば、残りの枝葉の問題は自然に解決する」


「……ガンバルド様。少しよろしいですか? ケイメルを殺さずに魔王ルガンだけを倒すことはできないのでしょうか?」


 隣でヒューリが硬い声と表情で父に問いただした。


「……できんことはないが。わしとしては、むしろ、王子の身体に憑依している今こそが、ルガンを倒すのに絶好の機会でな。わしとしては、王子に憑依してもらったままの方が助かるのだが」


 やっぱり父さんが、お茶はまだかな、くらいの軽い感じに答えた。


「……そ、それってつまり、お父さん。ケイメルを助ける気ないの!?」


 私は、父さんの胸ぐらを掴みながら問いただした。


「こらこら、娘よ、離さんか。……よいか。わしの使命は魔界と人間界との均衡を保つこと。それだけだ。そして、その均衡を破る兆候があるのであれば、どのような手段を使うことも厭わん。その犠牲として王子が必要ならば喜んで差し出すし、ルシフよ。お前が犠牲になるとしても躊躇はせん。……娘よ。もし、王子を助けたいならば、わしを出し抜いてみせよ」


 そういって、父さんはニヤリと笑いながら、私の頭をポンポンと叩き、少し休むといって、部屋を出ていってしまった。


「……どうする、ルシフ?」


「……どうしようか」


 私とヒューリはお互いに不安そうに見つめあった。


◆◇◆◇◆◇


 騎士団ではいくつかのアイデアを検討し、少しずつだが、実行していくことにした。

 まず手始めに情報が必要だということで、手始めに、生存者を探索すると同時、その人たちから情報を集めることにした。

 少人数の騎士集団で馬を駆り、救出者も少人数ずつ、地道に救助をする作戦だ。


 救出するのは子供や女性を優先し、男たちには、情報をもらうことと、武器を手渡して、自衛の足しになるように援助した。


 中には、教会等の施設に、衛士たちが立てこもっているようなところもあり、そういった場所には、私たちのような魔法使いを含めた戦力を集中させ、救助をすることにした。


 いくつかの作戦は効を奏し、こちらの兵数も増え、さらに、救出者も増えていった。


 しかし、困ったことも、徐々にでてきた。

 補給物資の問題だ。


「この調子でいくと、もって一、二週間というところか」


「なかなか厳しいわね。避難民を安全な後方へ移送するなり、どこからか物資を調達するなりしないと」


 ヒューリの指摘にげんなりする。

 生きている人間には、食料などの物資が必要なのである。

 騎士団の宿営地は、元々、立て籠るための砦の機能もあるため、元々、充分な備蓄がある。

 ただし、それは無限のものではなく、避難民の数が増えるにしたがい、厳しいものとなってくる。


「そうだな。じゃあとりあえず俺は、避難民の移送計画から考えてみるわ」


「お願いね。じゃあ私は、外部に連絡を取って、補給をかき集める方法を検討してみるわ」


 他にも、防備のための築城支援、避難民の秩序を維持するための内政政策、衛士たちによる外部巡回を強化し、外部の生存者の救出(これは、だんだんと数が少なくなってきている)、それと、兵士の訓練も平行して行う。


「しかし、ケイメルたちに動きがないのが気になるわね」


「死人たちも、無秩序に徘徊しているだけだしな」


 むこうが、こちらの補給を厳しくさせ、弱らせるためにわざと救出の邪魔をしない、とかいう戦略だったら、いやらしすぎる。


「なんにせよ。そろそろ白馬の王子さまがやってきてくれないものかしら……」


 薄暗くなってきた空を見つめながら、つい、一人呟いてしまった。


次回は、1/28(日)に更新できたならなー、と。

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