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第三十八話 対ドラゴン弾

「うひゃー」


 私が先ほどまで立っていた場所に、ドラゴンの尻尾が叩きつけられ、地面が重機にえぐられたようになっている。

 あの打撃を盾なんかで受け止めても、盾ごと吹き飛ばされるのがオチだろう、というほどの衝撃だ。


「ルシフ! お前、なんでここに!」


 ヒューリが、バカみたいに呆けた顔でこちらを見ている。

 私は光弾の魔法をドラゴンに力の限りぶつけて牽制しながら、ヒューリの背後に周り、周囲の魔物たちを斬りつける。


「なんでって、あんたたちが苦戦してる、って聞いたから、援軍に来てあげたんじゃない! 少しは感謝しなさいよね!」


「バカ! おい、なんで、逃げないんだよ、お前は!」


 ヒューリも、目の前の犬顔の魔物を屠りながら、負けじと言い返す。


「そっちこそバカでしょ。友達見捨てて逃げられるわけないでしょ!」


「ねぇ、ちょっと、あんたたち。漫才はもういいから、あの爬虫類の王様をどうにかしないと。ねぇ、ルシフ。あんたここに来る前に作戦があるって言ってたわよね。なんとかなるんでしょ?」


「……もう少しで頼んでいたものが来るんだけどね。それまでは、時間稼ぎをしないと」


「おぉ、ルシフちゃん。俺様の女神よ! 俺を助けに来てくれたんだね! ありがとー!」


 ヘッカーソンが、大袈裟な身ぶり手振りで、ルシフを抱き締めようと両手を広げて突っ込んできたが、ルシフはそれをするりと避けて、おしりを蹴飛ばす。


「あ、ヘッカーソン。良いとこに来たわね。あんた、たしか計算得意だったわよね」


「へ? あ、ああ」


「じゃあ、リーゼル。さっき言っていた計算よろしくね。ヘッカーソンをこき使っていいから」


「はいはい。さっき教えてもらった計算式で計算するだけよね。じゃあ、そこのおっさん。私についてきなさい」


「……お、おっさん、て。お前だって、俺とそんなには年齢離れていないだろ」


 ぶつぶつと文句を言っているヘッカーソンを連れて、リーゼルが去っていく。


「な、なにをするんだ?」


「うーん、説明してわかるかなー。一応、弾道計算用の角度ごとの数値表を計算しといてもらおうと思っているんだけどね。手計算になっちゃうので、たぶん、五度くらいずつの粗いものにはなると思うけど」


「ダンドウケイサン、ってなんだよ……」


 ぶつぶつと、ヒューリが疑問符を頭に浮かべながらも、手足は自動的に、周囲の魔物を屠っていく。


「リングテール! あんたのところの聖堂騎士隊は、市民の誘導に専念してくれる? このあたりが決戦場になる予定だから」


「承知しました。しかし、しばらく見ないうちに、立派なレディになられましたな。まさしく、救国の英雄ですぞ!」


「ふふーん。ここから、またひと仕事だからね。あんたも、こき使ってあげるから感謝しなさいよね」


「わかってますよ。また、あなた様に仕えることができて、恐悦至極にございます」


「はいはい。じゃあ、時間稼ぎするわよ!」


 とは言うものの、なかなか、骨が折れる作業だ。

 だが、先程のドラゴンの目への攻撃が効いたのか、片目がつぶれて、目測が誤るらしく、微妙に攻撃を避けることができた。

 だが、少なくない数の傭兵や銃士隊がやられている。


「まだかしら」


 さすがの私も焦れてくる。

 そして、永劫とも思える時間が過ぎた後に、朗報がもたらされた。


「ルシフ様! お待たせいたしました!」


 部下が、荷車を押して来てくれた。


「よーし! じゃあ、そこの高台に据え付けちゃって! リーゼル! 計算表はできた?」


「はいはい。五度刻みで計算しておいたわよ」


「じゃあ、そろそろ、ドラゴン退治といきますか!」


◆◇◆◇◆◇


「なに? 前線と連絡がとれない?」


 キャンベルがいらいらと机を指でコツコツと叩く。


「はっ! 派遣騎士団の本部が壊滅してしまい、現場の状況がどのようになっているのか、知る術がございません、閣下」


「……ふむ」


 キャンベルとしては、下手に帝国を刺激してはなるまいと、戦力を小出しにしたのが、悪手となったことを悟る。

 だが、頭の中で損得を計算をし、許容範囲の損害として是認する。


「ならば、ラディカは放棄。戦線を後退させよ。なお、ラディカの責任者であったメディアス辺境伯は、罷免。後日、軍法会議にかける」


「はっ!」


「この機会に帝国が動くかもしれぬ、用心だけは怠らないようにと西方騎士団のスルトにも伝えておけ!」


 いらいらとキャンベルは、部下たちを怒鳴り付ける。

 まさしく、国難だ。その被害額に頭がいたい。


「……やはり、使える駒は手元に残した方が得策だったのか」


「……閣下、ケイメル殿下が、お呼びですが」


「うむ。わかっている。……ふむ。現場を知らんお坊ちゃんの世話は大変だな」


 キャンベルは一人呟き、やれやれとばかりに嘆息をした。


◆◇◆◇◆◇


「まぁ、即席だからね。二発分しか間に合わないよね」


「おい、こりゃ、一体なんだ? 見た感じ、大型弩弓砲(バリスタ)みたいだが?」


 私が、細々とした指示を部下にしている横で、熱心にヒューリが質問をしてきた。


「うん。流用しているしね。ただし、飛ばす弾が違うのよ。それと、測距器具をつけているところが違うかな」


 一応、簡単な距離を測る器具を取り付けてある。

 これと、先程計算してもらった弾道計算用の数値表とで、誤差十メートル程度で『弾』をドラゴンに当てられるはずだ。


「で、それはなんだ? 銃みたいだが」


「あぁ、これ? そうよ。銃を元に作った、今回、ドラゴンに、向けて飛ばす弾ね」


「……ねぇ、ルシフ。なにこれ? 銃、から作ったの? 普通の銃身に比べて筒が大きくなって、蓋までしてあるんだけど? というか、こんなものをドラゴンに投げつけて何か意味があるの?」


 リーゼルが疑い深げに、元銃であった、鉄の筒をしげしげと眺めている。


「まぁ、速攻で加治屋に作らせたんで、即席もいいところだけど、一応、私の計算上だと、ドラゴンの装甲もぶち抜けるはずよ。あと、その中、火薬がたっぷりつまっているから、取り扱いには注意をしてね」


 私の言葉を聞いたからか、ささっと、バリスタに鉄の筒を置き、距離をとるリーゼル。

 なんて、現金なやつなんだ。


「で、いったいこれはなんなんだ?」


 ヒューリが、頭の周囲に疑問符を浮かべながら聞いてきた。


「うーん、モンロー/ノイマン効果を応用した成形炸薬弾、といってもわからないわよね。……まぁ、要するに、対ドラゴン兵器よ」


「理解するのは諦めたんで、頼むから嬢ちゃん、さっさと、こいつで、爬虫類をどうにかしてくれよ!」


 ヘッカーソンが、こちらに向けて飛びたとうとしているドラゴンを指差して叫んだ。


「じゃあ、ぶっつけ本番だけど、やってみますか!」


 女は度胸よ!


次回は、1/6(土)更新の予定です。

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