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第三十三話 再び、戦場へ

「え? 魔物の群れが?」


「ええ。そうよ。あなたがもともと治めていた辺境伯領で、一万以上という膨大な数が発生したみたいよ。被害も相当出ているみたいだけど。……で、ルシフはどうするの?」


 夜半、私がベッドで寝入っていたときに、いきなり部屋に入ってきたカレンに叩き起こされた。

 そして、私の元の領地が、魔物どもに蹂躙されているという話を聞かされた。


 たしかに、領地の周辺で、魔物が出てきているという報告は当時から上がってきてはいたが、そんなに多い数だとは思っていなかった。


「え、でも、リットリナの騎士団が対処するんじゃ……」


「残念ながら国境近くなものだから、帝国とのにらみ合いで騎士団を簡単には動かせないそうよ」


「……じゃ、じゃあ、どうするんだろう」


 一時的、とはいえ、半年近く治めていた土地だ。

 そこで、見知った知人、友人は多く、見殺しになんてできない。


「な、なんとかしないと。でも、どうやって?」


「……ルシフ。あなたはどうしたいの?」


「……私?」


「そう。あなた。……国とか立場とか、そういったものを全部抜きにして、あなたが今何をしたいのか、ってことよ。ここで、ぬくぬくとベッドの上で寝ていたいの?」


 カレンが真面目な顔でこちらに質問をしてきた。

 いつもの柔和な顔つきではなく、武人然とした顔立ちだ。


「私は……」


 私は、今まで立場とか、今後のこととか、また、人に迷惑をかけちゃダメ、とか色々と考えながら生きていたように思う。

 それは、この世界で生きていく知恵であり、社会人として生き抜くためのスキルでもある。

 だけど、今、自分がやりたいことはなにか、立場とかそういったしがらみを全部捨てて、今、私がやりたいこと、やらないといけないこと、そして、私ならばできることはなにか。


 目を閉じて、じっ、と考えた。


 様々なことが脳裏に浮かぶが、私が目を開けたとき、カレンと目があった。

 その目にはいつもの優しさがあった。

 私は、決意をもってカレンに話をした。


「救援に向かいます。たとえ、微力でも、私にできることがあると思います」


「ふふふ。それでこそ、私の嫁ね。安心して、あなただけ行かせるような野暮なことはしないわ。義勇軍として、私と、私の友人たちもついていくから!」


「え? それだと、ヘイゲナーが巻き込まれたりしてしまいませんか」


「大丈夫よ。私たちはあくまでも、『傭兵』だからね。身分を隠せば大丈夫だって」


 そういって、私の肩をぱんぱんと叩いてきた。

 カレンは相変わらず能天気だ。

 でも、本当はそれくらいの緩さでいいのかもしれない。

 私は少し、肩肘をはって生きすぎてきたのかもしれない。


「じゃあ、カレンさん。よろしくお願いしますね」


「あなたの旦那に任せなさいって」


 カレンはニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、八重歯をみせながら、力強く自分の胸を叩いてみせた。


◆◇◆◇◆◇


「魔物の数が多過ぎます、ヒューリ様。近衛騎士団のこれ以上の増援は無理なのでしょうか? さすがにこれ以上の数、魔物が襲ってくると、ここはもちこたえられません」


「すまないリングテール隊長。この場に百名を援軍として連れてくるのが精一杯なのだ。後方の防護陣を構築するのにどうしても人員が必要だし、それに、おおっぴらに国境線に兵士を配置するわけにもいかない」


「まったく、厄介なことになりましたね。せめて、メディアス辺境伯がちゃんと、出兵してくれれば良いのですが」


 二人は最前線に設置された仮設テントの中で苦笑しあう。

 お互い、すでに泥だらけの顔で汗だくだ。


 本来ならば、ここの領地を治めるメディアス辺境伯が防衛の任に当たるのが筋だが、隣地の先祖伝来の土地に逃げ帰り、引きこもってしまっている。


 辺境伯領の防衛部隊の中核をなしている、教会騎士団五百名の指揮を、リングテール筆頭助祭が、今、指揮をしている。

 元々いた指揮官は、先の戦闘で戦死し、今は臨時的にリングテールが指揮をとっているのだ。


 近衛騎士団のヒューリは、救援部隊の指揮官として現地に到着し、その惨状に暗澹たる気分になる。

 傷病兵、一般の市民の犠牲者が、それこそ何十、何百人と横たわっており、さらにその倍とも思える数の死体が、臨時の死体捨て穴に積み上がっている。


 敵戦力の分析をしているときに、ヒューリに客がやってきた。


「……あぁ、あなたが、救援部隊の指揮官の方ですか? 私は、ラディカ市の副ギルド長をしているヘッカーソンというものですが、少し、補給物資と、傭兵の賄い金についてご相談をしたいのですが」


 ヘッカーソンも、防衛部隊に駆り出されていた。

 本来であればギルド長であるファボックがこれらの事務をせねばならないが、今は雲隠れをしてしまい、他に成り手がいなかったため、結果的に貧乏くじをひかされている。


「ヘッカーソン殿。申し訳ないが、財務に関しては私の専門外だ。後で、経理の者を呼ぶので、そちらと話をしてもらいたい」


「はいはい。わかりましたよー」


 そういって、手をひらひらとふりながら、ヘッカーソンはテントからでて行ってしまった。


 ヘッカーソンとしても、この状況で、まともに話ができるとは思っていない。

 それでも、早急に、物資を融通してもらい、簡易的でも良いので、防衛用の柵でも作らねば、安心して休むことすらできない。

 魔物どもは、質的には小鬼(ゴブリン)や、豚顔兵(オーク)といった小物ばかりなので、一対一であれば、人間側が優勢に戦えるが、相手の数が多過ぎて、その対処に困っているというのが、今の状況だ。

 それに、直接見たわけではないが、(ドラゴン)も出てきている、との噂もあり、胃が痛くなるばかりだ。


「あーあ、こんなときに、ルシフの嬢ちゃんでも抱くことができれば、俺、もうちょっと頑張れるんだけどなー」


 ヘッカーソンは、ついつい、あり得ない希望を呟いてしまう。

 タフな彼といえどもそれだけ消耗してしまっているのだ。


「え? 呼んだ?」


「え?」


 ヘッカーソンは、つい疲れすぎて幻覚をみているのかと疑ってしまうが、たしかに、ルシフがそこにいた。

 ローブ姿でパッと見はルシフとは分かりにくいが、間違えようがない。


「え? あれ? ルシフの嬢ちゃん、いったい、なんだって、こんなところに!?」


「あー、私たちは傭兵として、この腕っぷしを買ってもらおうと思って、こうしてやってきた次第よ」


「……傭兵?」


 さすがに訝しそうな視線をヘッカーソンはルシフに向けた。


「あぁ、済まないが。交渉担当は私だから、君のその下卑た視線を私の嫁に向けないでもらえるか?」


「嫁だー? ……って、あんた見たところ女みたいだが?」


 ヘッカーソンは、横から口を出してきた、全身鉄片に覆われた鎧、相当な重量があると思われるそれを、軽々と着込なしている、銀髪の女騎士、カレンの方に向き直る。


「いかにも自分は女だが、ルシフを思う心は、その辺の男どもにはひけをとらぬ!」


「……えーと、ルシフの嬢ちゃん。こいつはいったい誰だ?」


「あー、えーと、私と同じ傭兵仲間、だよ。というわけで、あなたのところの部隊として私たちを雇ってよ。あぁ、資金のことは心配しないで。さる御方からすでに前金を頂いているから」


 実は、私たちは私的な傭兵として参戦するための軍資金を帝国の皇帝陛下からすでに貰っている。


 その金と、カレンのコネをフルに使って傭兵を傭い、今回五十名ほどの傭兵部隊を揃えることができた。

 なんとなく、傭兵団の軍師と称する薄金髪ショートの女性は、どこかであったような気もするが。


「あー、その数だと、作戦会議とかに参加してもいいんじゃないか?」


「いえいえ。私たちはあくまでも傭兵ですから、単なる実働部隊として、そちらで決めていただいた作戦で動きますよ」


「そーかい。じゃあ、こちらの作戦が決まったら連絡するぜ。ちなみに、そちらの傭兵団のお名前は?」


「名前かー。うーん、そうね。『愛と正義の平和維持軍』とでも名乗っておくわ」


「どこかの宗教みたいなキャッチフレーズだが、まぁ、わかったよ。それじゃあ、とりあえず……」


 そういって、現在の防衛線の割り当て場所だけ、ルシフたちに指定して、そこの辺りの警備をヘッカーソンはルシフたちにお願いした。


 しかし、この傭兵団、やけにきびきびとした動きをしているなー、とは若干思ったが。


◆◇◆◇◆◇


「魔物相手の戦いなんて、久しぶりね。腕がなるわ」


 薄金髪ショートの軍師が手の指をわきわきと動かしている。

 ちょっと気持ち悪い。


「あのー、リーゼルさん、でしたよね。とりあえず補給と警備計画について話し合いたいのですが」


「え? そんなことなら、もうプランできているわよ。目を通す?」


 え? さっきこの区画にやって来てから、まだ二時間ほどしかたっていないが?

 リーゼルが渡してきた計画書に目を通し、その緻密かつ正確な計画に目を見張る。

 私がさっき一通り戦場を見渡して気になった点は全て網羅されている。

 この女性。明らかに場馴れしている。さすが、歴戦の傭兵、といったところだろうか。

 ところで……。


「リーゼルさん? 以前どこかでお会いしたことが?」


「!! ……な、なにを言っているのかわからないわ。気のせいでしょ」


 そーかなー。

 でもまぁ、いいか。


「……ルシフいるかい」


「あ、カレンさん。なんでしょうか」


「さっき、ヘッカーソンの旦那から連絡があったが、作戦書が届いているんで見といてくれ」


「えー、なになに」


 横からリーゼルが書類をかっさらって隅から隅まで読み込んでいる。

 こ、こいつは……。


「ふーん。予防的な攻撃を相手にかけて、こちらとの防衛戦構築の時間稼ぎをしよう、ってとこね。私たちは助攻として、側面からの援護ね。まぁ、たいしたことないわね」


 そういって、作戦書をこちらに投げつけてきた。

 うーん、この(ひと)、性格ががさつすぎる気がする。

 きっと、嫁に行くのは遅れるわね。


「まぁ、今回は初戦。慣れていきましょう!」


 私は、みんなの前で掛け声をかけた。


次回は、12/25(月)更新の予定です。

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