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第二十九話 邂逅

「ほら。今日から君は、僕の娘みたいなものだからね。これからはこの館を自分の家だと思って寛いでくれたまへよ!」


「……は、はぁ……」


 あれから、一ヶ月後。

 最近は暖かい日が増えてきたものの、ここアンチボルト侯爵の所領である北方ユーストンはやや肌寒い。


「うーん。やはり、『娘』はいいねー。ぼかぁー、今まで息子ばかりだったから、娘というだけで、心がこう、ポカポカと暖まってくるよ」


「そんなものですかね?」


 私としては、この目の前の奇人変人である、アンチボルト侯爵と話をしているだけで、頭がくらくらとしてくる感じがする。

 これで、リットリナ王国でも指折りの実力者だというのだから、人は見た目ではわからないものだ。

 四十前後だと事前に聞いてはいたが、実際に会ってみると顔立ちは二十代でも通じるほど若々しい。

 髪の色は黒を基調とした長髪だが、一部に赤やら黄やらの色が入っている。

 体格は、高身長だが、やけに細身。

 全身白色の燕尾服を着込み、背中にカラフルな羽? みたいなものを背負っている。

 見た目からして、かなりヤバい感じの人である。


 もうひとつ付け加えるならば、これは侯爵の趣味らしいのだが、私の館内での正装として支給された服装が、どうみてもふりふりのメイド服だった。

 こういうふりふりの服装を娘に着て欲しかった、なんて言われていたものだから、とりあえず説得するのも面倒だったので、着てあげることにした。

 なんとなく、ミニスカートだからか、膝下がスースーとして少し寒い。


「それで、私は侯爵の預かりの身となったわけですが、私はここでこれから何をすればよろしいのでしょうか?」


 もう煮るなり焼くなりしてくれ、という投げやりな心境だ。

 皿洗いでも、曲芸でもなんでもしますよ。

 ……でもまぁ、変態の慰み者は嫌だなー。


「うーん。僕としては別に、君にやってもらいたいことはなーんにも、ないよー。強いて言えば、君の身の安全。これだけは注意してほしいかな。領内に、不審な連中が何人か既に入ってきたみたいだしね。ま、君には優秀な使い魔の護衛がいるみたいだから、大丈夫だとは思うけど、一応、念のため、ね」


「……ご忠告ありがとうございます」


「ま、なにかあったら、家令のゼバスにでも申し付けてよ」


 そう言い残して、アンチボルト侯爵は広間を出ていってしまった。

 一人取り残された私としては、困ってしまう。

 そういえば、目的もなくほっとかれるのって、すごく久しぶりな気がする。


 まぁ、折角、頂いたお休み期間なので、ゆっくりと休むといたしますか!


◆◇◆◇◆◇


「ふー、極楽極楽」


 やはり、まずは温泉入って寛ごう、ということで、温泉宿に来てしまった。

 北方は山脈が多いからか、温泉地が多い。

 保養のためには、もってこいの場所だ。

 しかし、私には、やらなければいけないことがあるのです。

 私を失脚へと追い込んだキャンベル公爵に一泡ふかせること。仕返しの心を忘れてはいけない。

 しかし、こうやって食っちゃ寝のいたせりつくせりな生活を続けていると、なんとなく仕返しなんて面倒なことは、有耶無耶にしちゃっても別にいいかな、なんていう怠け者の心がむくむくと沸き上がってくる。


 いかんいかん。


 私は甘えそうになる自分の心を奮い立たせ、復讐の牙を研ごうと心を荒ませる。

 しかし、手元にある、米から作られたお酒を飲みつつ、温泉に一人浸かっていると、嫌なことがスーっと薄らいでいき、このままこの心地よい空間にずっと浸っていたくなる。


 ……って、いかんいかん。

 やっぱり、気を抜く時間を持ちすぎるのは危険だ。

 私は意を決して立ち上がると、自分にやる気をいれるべく、気合いと共に、うおーっと、雄叫びをあげた。


『マスター。乱入者だ』


「へ?」


 さすがに、気を抜いている私が気付かないのは仕方がないが、護衛である使い魔の銀狼スーナにこの近さまで、気配を気取らせないとは、なかなかの凄腕である。

 私はお風呂の中にまで持ってきている、魔法発動器でもある短杖(ワンド)を構える。

 この短杖には、私が子供の頃から身に付けていた、赤い宝玉をあしらってもらっている。

 短杖全体が、割と落ち着いた意匠に仕上がっており、個人的にお気に入りの逸品だ。


「さぁ、淑女(レディ)の風呂場に許可なく侵入した不届きなお方。でてきてもらいましょうか!」


 私は短杖をスーナが警戒している方向に向けながら、誰何の声をかけた。


「……えーと、出ていっても良いんだが、本当に良いのか? ……その、前を隠さなくても?」


 ふふーん。どうやら、この侵入者は私の羞恥心を利用して動揺を誘おうとしているらしい。

 しかし、このルシフ様。そこらの普通のお嬢様たちと違い、踏み越えてきた修羅場の数が、違うのですよ。


「構わないわ。出てきなさい」


「はいはい。わかったよ」


 相手からの返事に、そういえば、どこかで聞いた声だなー、などと一瞬思ったところで、両手をあげて出てきた相手と目があった。


「よっ! ルシフの嬢ちゃん。久しぶり」


「ヘッカーソン! あんた、なんだってこんなところに」


 岩場の影から、ひょっこりと顔を出してきたのはラディカの副ギルド長のヘッカーソンだった。


「いや。なに。お嬢ちゃんに興味をもったさる御仁から、ご招待の案内状が来たんでな。そんでもって、その仕事がギルドの上層部経由で、俺のところまで回ってきた、と。ここまで来るのに、結構な手間暇をかけることになったぜ。やれやれ」


 そういって、ヘッカーソンは自分の身体に身に付けている高価そうな道具を見せつけた。

 気配を消したり、魔法の反応にかからなくする護符を、二重三重に身に付けていた。これだけでも相当の出費だ。


「私に興味?」


 いったい、どこのどいつだ。そんな、酔狂なやつは。


「……あと。そういえば、ルシフの嬢ちゃんはもう貴族でもなんでもないんだよな?」


「え? まぁ、そうね。ま、私はもともと孤児だったから、元に戻ったようなものね」


 あはは、と笑っておく。

 私は常に前向きに生きていくことにしています。


「なかなか、複雑な過去を持っているんだな。嬢ちゃん。それならば、俺にもワンチャンあるかな。……ところでだ」


「なに?」


 私は警戒を解いて、短杖をだらりと手持ちぶたさにいじくりながら、首をかしげた、


「……なかなか、魅力的だと俺は思うぞ。その、なんというか、ラッキーというか、なんというか」


 そこで、口をもごもごとさせて、明後日の方向を見つめる、ヘッカーソン。

 私は、自分の身体を見下ろし、あぁ、そういえば自分が今はすっ裸だったことを思いだした。


「ちなみに私の裸の見学料、高いからね」


 私はニヤリと笑いかけた。


「ついでに、後学のために、おさわりの値段も聞いておきたいんだが」


「あら、残念。非売品よ」


 そういって、私はまた、お風呂に入り直した。


◆◇◆◇◆◇


 日と場所を改めて、私はヘッカーソンと密かにまた接触した。


 場所は、ユーストンのギルド本部のVIP用の応接間。

 そこらの王公貴族の客間よりも立派な応接間がそこにはあった。

 なんでも、急に予算がついて急ピッチでこしらえたそうな。


「お嬢ちゃん。今から会う人は、俺なんか、いや、この国の王族でもなかなか会えないような方だ。頼むから粗相はしないでくれよ」


「あら。私はこうみえても、国王にも過去に謁見したことがある、元魔法大学校の首席にして助教。騎士団の団長補佐。それに、元辺境伯よ。相手が誰だろうと臆することもないし、礼儀を失することもないわ」


「そうかい。ちなみに、今日会う方が、誰か、については聞かないでくれよ。正体が露見すると、俺の首一つが飛ぶだけじゃすまなくなる」


「やけにものものしいわね。わかったわよ。約束するわ」


「助かる」


 そうして、待つこと暫し。

 かなり、抑えられてはいたが、部屋の外から魔法反応を複数感知した。

 この反応は転移魔法かしら。

 そう思っていると、扉が開き、頑固そうな顔つきをした老人が入ってきた。


 ってなに。その七三分けの白髪交じりの黒髪。

 あと、その服装は、なんとなく現代のスーツに似ているような。

 あれ? 見間違えじゃなければ、ネクタイしてる?

 場違いな服装をしている老人に付き従うのは二人。

 一人は片目がない、体格が良い初老の男性で、鎖帷子を着込み。長剣を腰にさしている。

 どこにも隙が感じられないような気配を醸し出す歴戦の武人、といった感じだ。

 もう一人は二十代と思わしき女性で、明るい金髪をショートに切り揃えており、その目が理知的に光っている。なんとなく私を警戒しているようにも思える。


「そなたがルシフ殿かな」


「あ、はい。……しかし、その、あなた様はなかなかに興味深い服装をなされていますね」


「君はこの服に見覚えが?」


 実際には見たことはある、というか、昔は着ていたが、それをここで答えるのはまずいだろう。


「……いえ。初めて見ます」


「ふむ。まぁ、今回はそういうことにしておこう。今回こうしてまかりこしてきたのは、君と少しばかり話がしたいと思ったものでね。ギルドの皆をはじめ、関係各位にまずは感謝を」


 そういって、この人は綺麗なお辞儀をした。

 って、この世界でまさかこんな綺麗なお辞儀を見るとは思わなかった。


「あ、私は、こういうものだ」


 そういって、七三分けの老人は手元にもったカードを私に手渡してきた。


 そこには、『日本語』で、「四星商事 資材部資材第一課長 山田京太郎」、と漢字で書いてあった。


 私は咄嗟に反応をすることができず、愕然とした顔で目の前の男性を見つめてしまった。


『……やはり。君はどうやら、私と同類みたいだね』


 目の前の男性がニヤリと笑みを浮かべながら、日本語で会話をしてきた。


「一応、ここでの名前もそのカードの裏側に書いてあるが、日本語で書いてあるので、言葉には出さないでくれよ」


 私は恐る恐るカードを裏返してみた。

 そこには、『アルハザード帝国 初代皇帝 キョウタロウ・ヤマダ・シェフィールド』と記載してあった。


次回は12/17(日)に更新したいのですが、いつも通り、いきあたりばったりに書いてますので、どうなることやら。


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