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第二十八話 査問委員会

「では、ただいまから査問を開始する。査問会においては、虚偽の陳述は重大な王家に対する反逆とみなすので、そのつもりで答えられたし」


「承知しました」


 厳かな声が、教会中に響き渡る。

 場所は、ラディカの教会にある裁判室。

 私の前には七人の委員が横一列に座っている。

 中央に座っているのが、この査問委員会の委員長のスルト侯爵。

 西方騎士団の騎士団長にして、国王顧問も勤めている重鎮。実直そのもので、年齢は六十近い。

 白髪に、綺麗に刈り揃えた口髭と顎髭を蓄えている。

 そして、その両隣に着席しているのは、ザンブル司教と、メディアス伯爵。


 このメディアス伯が今回の査問委員会の仕掛人だと私は睨んでいる。

 メディアス伯は、私の隣の領地をかなり前から拝領している領主で、順当にいけば、私の辺境伯領に封ぜられる予定だったという。

 そのために、すでに大枚を私の領地の貴族たちにばらまいて人気取りをしていた、と。

 しかし、すんでのところで、私に辺境伯の位を横からかっさらわれたので、怒り心頭らしい。

 しかも、辺境伯領の各貴族たちも、私があまりお金をばらまかないものだから、不満が募り、今回、こうして手と手をとりあい、私の失脚に動いた、というわけだ。


 そういえば、今回の私の罪状って、なんだろう。

 一応、先週、口頭では苛めを糾弾するなんて言われたけども、後日渡された書面上の罪状は、『内乱罪』とあった。

 うん?

 これって、死罪相当じゃあないですか?

 てっきり、『背任罪』とか、『横領罪』とかの経済的な罪だと思っていたので、あまりの単語の大きさに、困惑する。


 しかし、ここで申し開きに参上しなければ、自動的に罪を認めたことになるので、アウト。

 それだけは避けないといけない。


 私はこうして、意を決して、査問委員会という鰐の口に飛び込んだわけだ。


「……罪状によれば、貴殿は、帝国と共謀をし、その戦果を捏造し、我が国の軍に損害を与えたこと、また、保険事業なる新手の詐欺を企て、人心の荒廃を進めたこと、これら罪により内乱罪を認定するものである。これら告発に言い逃れはあるか否か?」


 委員長の低い声が、教会の裁判室に響く。裁判室の両脇に据え付けられている、貴族たち傍聴人たちの間からもざわざわとざわめきが沸き起こった。


「ちょ、ちょっと待ってください! なんなんですか、帝国軍と通じていたとか、詐欺を企てたとか。訳がわからないのですが」


 まったく寝耳に水のことを急に言われて、私としては混乱するしかない。

 何なの?

 帝国軍と通じていたとか、保険事業の詐欺とか。

 訳がわからない。


「……告発状によれば、ルシフ殿は、帝国軍から事前に軍事情報を取得したことにより、新型兵器対策をとることができ、また、帝国軍を撃退した功績で、こうして我がリットリナ王国の要職に潜り込むことに成功したこと。さらに付け加えるならば、帝国軍に対して攻撃の手を緩めたために、帝国軍の損害は軽微であることも報告されておる」


 !!

 なんてこと。

 帝国軍に傷病者を出すことで、敵の戦闘力を奪う、という私の戦術を理解しないばかりか、私の王国への悪意として逆に解釈されている。

 銃や大砲などの武器対策についても、たしかに、私は知識としては事前に知ってはいたが、それは、帝国軍から、情報提供されたわけではないのに!


「誤解です! 私は単に帝国軍の動きを見て、こちらとして最大限の戦果を上げるための戦術を考案しただけです!」


「……次に、保険事業と称する詐欺についても同様。事業を売却されたギルドや貴族たちから、利益がまったく上がらない、という報告が上がって来ている。最初、貴殿が利益を上げていたのは、事業の売却益を吊り上げるための策略であった可能性が高い、との報告がきている」


 迂闊だった。

 この世界の経済水準だと、うまいこと、保険金契約の数値や、契約内容を設定しない限り、極端な契約になりやすい。情報分析を欠かさず、小まめに契約の修正や、不正受給の対策強化などをすることは必須である。

 そして、その情報分析には事前の入念な準備が必要であり、そこら辺の貴族たちが、私の猿真似をしたところで、うまい損益分岐点を導き出すことはできまい。


「……そ、それも誤解です」


 私が良かれと思ってしたことが、全て裏目に出てしまっている。

 しかも、悪意をもって解釈されている。


「実際の損害を鑑みれば、死罪が相当であるし、また、そうすべきかもしれないが、貴殿の過去のケイメル殿下をお救いした功績と、アンチボルト侯爵からの助命嘆願、監督の願いがでてきているので、これらのことを総合的に勘案し、当査問委員会としては、貴殿の爵位および領地没収。アンチボルト侯の領地内での無期謹慎を申し付ける。なお、これは、キャンベル公爵をはじめとする近衛騎士団首脳部の意思でもある」


 ……そうか。なるほど。

 結局、私をケイメルたちから切り離して政治工作をするために、キャンベル公爵は私を辺境伯に封じたのか。

 全ては私を失脚させるための、最初から仕組まれていた茶番劇。

 ケイメルの義父のアンチボルト侯爵領の中でだけ自由を保証し、もう王国内の他の地域では、私に好き勝手はさせない、と。


 ……わかりましたよ。

 キャンベル公爵。あなたが、こうまでして私と戦おうというのならば、私も自分の自由と尊厳のためにあなたと戦いましょう。

 初戦は私の負けということでいいですが、次のリターンマッチを楽しみにしていてくださいね。

 私は委員の皆さんの顔を順々に見渡しながら嗤った。


「あなた方は虎の尾を踏んだことをご理解くださいね」


◆◇◆◇◆◇


「では、貴殿の爵位および領地を没収し、貴殿の身柄をアンチボルト侯爵の預かりとする」


 査問委員長のスルト侯爵が重々しく宣告する。

 しかし、目の前の少女は、ただ嗤っているだけだ。


「あなた方は虎の尾を踏んだことをご理解くださいね」


 この少女の形をした何かが、呪いの言葉を呟いた。

 歴戦の勇者であるスルト侯爵をして、背中に嫌な汗が流れるような、恐るべき気持ちにさせる。

 仮に、この少女の言い分が全て正しく、この少女一人の実力で帝国軍を撃退できたのだとしたら? 他の貴族たちがまったく利益が上がらなかった保険事業を、この少女だけがうまく利益を上げることができた手腕を持っているのだとしたら?

 やはり、この目の前の少女は危険すぎる。

 直属の上司であるキャンベル公爵が強く主張していたように、やはり、死罪が適切なのではないか?


 査問委員を前にして豪胆に嗤うことができるこの少女の形をした悪魔を見据え、そのような想いに、スルトは駆られるのであった。


次回は、12/15(金)更新の予定です。

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