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第二十一話 作戦会議にて

 あちゃー。

 これはまずい。


 私たち独立第一騎士団の兵士一万人が、商都シェイクスに到着したと同時に、北方のヘッケルンが陥落したというニュースが飛び込んできた。


 北方騎士団は帝国軍の攻撃により、すでに半壊し、一万余の兵数しか残っておらず、今は、商都シェイクスの北方にて、簡易の砦を築き、防衛に専念していることが報告された。


 あー。

 この状況はひどい。

 困ったものだ。


 正直、ヘッケルンにて、北方騎士団の人たちが帝国軍を撃退してくれないかなー、などという他人任せの淡い期待を抱いていたので、自分達が戦闘の矢面にたつのは嫌で嫌でしょうがない。

 だが、現実は厳しいのである。


「では、みんな。これからどのようにしてシェイクスを防衛するのかについて意見をだしてくれ」


 ケイメルが、司令官として、作戦会議の面々に意見を求める。

 今は、シェイクスの市長の館を借りきり、今は騎士団指令部としている。

 ちなみに、この館を貸してくれた市長は、既に後方に避難している。さすがに素早い。

 私もケイメル司令官の補佐として、作戦会議に出席することになり、ケイメルの隣に座って、一応、書記の真似事のようなことをしている。

 今日は王国軍の紺色の制服を着込んでいる。

 割と動きやすい。


「シェイクスは防衛に向かない町です。ここでの防衛戦は現実的に不可能なので、帝国軍に向けて野兵戦にうってでるしかないでしょう」


 ヒューリのお父さんのキャンベル・ドーチン参謀長が会議を主導している。今回の戦でのケイメルの役目は、まぁ、言ってみれば、お飾りといったところなので、実質の指揮はこのキャンベルさんがとることになっている。


「敵の規模は?」


「帝国軍先鋒の魔法師団三千名と、その後方に主力歩兵団一万五千名。そして後方連絡線の保護と、ヘッケルン占領のために五千名という数です」


「兵数としては、十分にこちらにも勝算はあるな」


「はい。兵数だけをみれば。しかし、未確認の情報ですが、攻城兵器として、大型投石器とは異なる、鉄の塊を打ち出す新型兵器を帝国軍が持ち込んでいる様子。それと、以前こちらで鹵獲した銀の弾を発射する杖型発射筒も多数用意している模様でありまして、こちらの城壁や、魔法防御がしにくい状況です」


 まぁ、魔法による攻撃以外には、魔導師が気づくのに時間がかかるのが問題だ。

 その後も作戦会議では、様々な意見が交わされたものの、結局、街中での戦闘だけは避けたい、という点にだけ異論がないものの、どのようにして戦うのかという点について、あまり結論めいたものは出なかった。


「近くに窪んだ土地が、ありますから、そこに水を流し込んで水攻めをするというのはどうでしょうか」


 一人の将校が提案する。


「いや、この近くに水源がない。仮にその窪地に敵軍を誘導できるとしても、水を引き込めんよ」


 キャンベル参謀長が、苦々しく首を降った。

 ここで、少し質問が途絶えたので、私も質問をしてみることにした。


「あの……質問よろしいでしょうか?」


「君はルシフ君だったかな。どうぞ」


「先ほど話に出ていた新型の攻城兵器ですが、もう少し詳細な情報をいただけますか?」


「……こちらで現在把握しているのは、ヘッケルン防衛戦において、城塞の壁を破壊するのに用いられたこと、歩兵戦にて集団で密集している箇所に対して攻撃をくわえられたこと、といったものですな。なんでも、魔法反応はないので、魔術的な防御がしにくく、それでいて、爆発を伴う攻撃で被害が甚大だ、ということが報告されております。また、何か焦げ臭いなんとも言えない臭いがした、という話もありました。……それと、密偵を放って調べさせた結果、帝国軍におけるコードネームとして『キャノン』と呼ばれていることだけは掴みましたな。まぁ、意味はわかりかねますが」


 ……キャノン? それって大砲のこと?


「すみません。確認したいんですが、木炭と、イオウとショウセキって、この街ですぐに手に入ります?」


「木炭は直ぐに手に入りますが、イオウやショウセキとはよくわかりかねますが? 魔法の道具か何かですかな?」


 やはり、この世界だと黒色火薬は一般的ではない。

 しかし、大砲(キャノン)と自称し、それに近いものを実際に運用していることから、これは私の知っている火薬を使った攻城兵器ではないかと疑った。


「……ありがとうございます。大変参考になりました」


 私は内面の疑問を顔に出すことなく、質問を終えた。

 一つの重大な疑念があった。

 もしかして、この世界における、異世界人は私一人ではないのではないか、と。


◆◇◆◇◆◇


「首尾は順調か? リーゼよ」


「はい。フォルト様。予定よりも二週間早い攻略戦でして、王国の抵抗の弱さにホトホトあきれ返っております」


「そうか。ところで、陛下が仰るには、リットリナ王国には、懸念すべき事項があり、もしかしすると、我々の想定外のことが起こりうるという話であった。なぜか今回に限っては、様子見であるので、長期占領も不要であるし、さらに、戦略的撤退の許可も既に出ている」


「……陛下は、私を信頼なさっていないのですか?」


 屈辱に身を震わすリーゼ。

 その目にはうっすらと涙も浮かんでいる。


「いや、そうではない。むしろ、今回の戦に貴様を推挙したのは陛下ご本人よ。稀代の戦略家を当てて、様子をみたい、とな」


「……私をそこまで評価していただいて、光栄の限りではありますが、フォルト様。それではなぜ、陛下は先ほどのような撤退の許可など出しておられるのですか? 理解しかねますが」


「……わからん。だが、陛下の言葉は絶対だ。我々軍人は命令された通りに動く外あるまい」


「……はい」


 釈然としないものを感じながらリーゼは上司の言葉に首肯した。

 陛下は私たちとは違う目線で物事を見ているように思えた。


◆◇◆◇◆◇


「てったーい! てったーい!」


 私は初めて部隊運用を手伝うことになりました。

 とりあえず実験部隊として、一個歩兵小隊五十名を借り受け、私たちは実際に敵の出方を見てみようと、何回かにわけて波状攻撃をかけてみた。

 しかし、遺憾ながら、帝国軍は防衛戦にも長けているらしく、なかなか戦況はよくならない。


 ただし、私の前線における観察により、いくつか確認できたことがあった。

 一つ、ある程度の厚さの土嚢(どのう)により、銃の弾を防ぐことができ、私が試作させた砂袋であれば、十分に弾の威力を止めることができること。これで、簡易に砦を築くことが可能となった。

 一つ、雨の日には、銃や大砲の不発率が高まり、こちらに対しては魔法や弓矢などによる、旧来の戦闘スタイルで、戦ってくること。そう考えると、向こうも雨の日には、強気に攻めてこないことがわかる。

 最後に、これが重要な発見なのだが、帝国軍は無理な突撃等を一切せず、兵士たちは負傷者を回収することにそれなりに力をいれており、非常に近代的な戦いかたをしていること。


 ……なんということはない。

 現代戦の戦闘教義(ドクトリン)で戦っているのだ、帝国軍は。


 ここまで調査して私は一つの回答を見いだす。

 今回の敵である帝国軍は、明らかに現代戦を知っている。

 それを実現した人物は、現代人か、単に現代人の知識を知っているだけか、または、本当に軍事のパラダイムシフトを起こすような真の天才か。


 だが、どちらにせよ、相手が軍事合理的に動く軍だという前提に立てばこちらにもいくつかの戦いかたはある。


 私はケイメルに許可をもらうと、一つ、前準備のために商人たちと売買交渉を行った。


「しかし、ルシフ。なんだってまた、小麦粉の粉をそんなに買い付けるんだい?」


 ケイメルが、不思議そうな顔で質問をしてきた。

 最近のケイメルは激戦の影響からか、生彩を欠くような顔つきをしていて少し心配だ。


「とりあえず実験をしてみないとなんとも言えないけど、うまくすると帝国軍を驚かせることができるかも」


 私はケイメルの質問に謎かけのような回答をしてみせた。

 まぁ、一つ、実験といきましょうか。


次回は、12/1(金)に更新の予定です。

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