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第二十話 従軍命令

「……砲撃開始」


 戦場に轟音が鳴り響く。

 爆音がまるでオーケストラのように奏でられ、遠くの方にあるリットリナ王国の城塞の壁が次々に崩れていく。


 リットリナ王国と帝国との国境の谷に築かれた石造りの砦。

 その壁に次々と大穴が開いていく様は見ていていっそ清々しい。


 爆炎の魔法や、小型の投石器ではびくともしないはずの耐久力があるその壁に、これだけの大きさの穴を開けるのは至難の業ではあるが、実際に今回は新兵器により実現できた。


「ふむ。しかし、あの『大砲(キャノン)』という名前の新兵器は凄まじい威力だな」


「魔王軍との決戦用に開発された兵器と聞いていますが、初弾を人間相手に使うとは思いませんでしたが。まぁ、大砲の原理はしごく単純なものですが、大型の投石器を持ち運ばなくてすむ分、取り扱いは容易ですね」


 傍らの参謀長リーゼ大佐が愉快そうに同意する。

 彼女は公爵家の一人娘ではあるが、軍事の才が飛び抜けていたために、帝国軍においても、次々に出世し、今や、帝国軍でも随一の軍略家として著名である。

 明るい金髪をショートに切り揃え、その目は、ギラギラと戦意に満ちている。

 才媛である彼女は未だに二十代半ばの年齢でもある。

 帝国軍の南方軍司令官である、フォルト大将は満足そうに頷く。

 彼は彼女の倍以上の軍歴を誇る、間もなく退役の時分ではあるが、今回の戦を最後の奉公と決めている。


「今回の戦略目標は、リットリナ王国北部の要衝ヘッケルンと、その南部の商業都市シェイクスの占領にある。迅速さが何よりも求められる作戦だ。気を抜くなよ」


「ご安心を閣下。毎朝の食事のパンを千切るかのごとく、リットリナを蹂躙することなど容易いことにございます」


「うむ。期待しているぞ」


「すでに一個独立魔法師団三千名を先鋒として派遣しております。さらに歩兵二個師団も占領用に連携しておりますので、そんなに時間はかかりませぬ。少々お待ちいただければ」


「うむ。まかせる」


 フォルト大将は手元の葡萄酒を一息に飲み干した。


◆◇◆◇◆◇


 皆さんこんにちは。ルシフです。

 今日は王城に出仕して、ケイメル王子に勉強を教える日なのです。


「すみません。魔法大学校助教のルシフですが、ケイメル殿下への個人授業のため参上いたしました。殿下へのお目通りをお願いしたいのですが」


「あ。ルシフ様。お早うございます。申し訳ないのですが、ケイメル殿下は、今、急ぎの会議が入ってしまっており、暫く、別室で待機していていただけますか?」


「あ、はい。それで構いません」


 私は別室に通されると、そこで暫し待つことになった。

 使用人の方からお茶と、焼き菓子をもらった。

 一人のんびりとお茶の時間を堪能しながら、一体全体、なんの会議だろうと、ふと思う。


 ぼーっと小部屋で待っていると、廊下をヒューリが急いで走っているのが目に留まった。


 お、ちょうどよいところに。


「おーい、ヒューリ。何かあったの?」


「お前、まだ何も聞かされていないのか? ちょっと、すまんが、今は手が離せない。またあとでな」


 そういって風のように走り去ってしまった。

 いったい、なんだっていうのよ。


「あぁ、ルシフ様。こちらに、おいででしたか」


 声がかけられた方に顔を向けると、そこには顔見知りの王城のメイド長さんがやってきた。

 この人は事務仕事なども一手に取り仕切っており、王城の文書係的なこともしている。


「陛下がこれを、と。おめでとうございます」


 満面の笑みを浮かべたメイド長さんから書類を受けとる。

 はて、いったいなにが、おめでたいのだろうか?

 私は受け取った書類に目を通す。


 ……ば、馬鹿な。

 私は思わず手紙を取り落としそうになった。

 たしかに、見る人が見ればおめでとう、という書類かもしれないけど、なんだってこんな辞令が……。


 そこには、こう書かれていた。


『本日をもってルシフ・フォリナー男爵を、子爵に昇格する。

あわせて、王国軍独立第一騎士団団長補佐(少佐待遇)に任ずる。

期間、団長補佐職は、独立騎士団解散まで。

以上。』


 ……はい?

 これって、いわゆる、従軍命令ですよね。

 たしかに、魔法大学校には軍事のカリキュラムがあるのは知っていますが、なんだって、強制的に軍務に巻き込まれるんだ。

 私が、ぼーっとしていると、廊下から新たな見知った顔が現れた。


「ルシフ。もう君にも辞令が届いていると思うけど、僕と一緒にぜひとも来てもらいたい」


「ど、どこにですか?」


 私は驚きつつ、聞き直す。


「北方のヘッケルン駐屯地まで」


「……は、はい?」


 そこって、いわゆる、最前線じゃあないですか。

 目の前が真っ暗になった。


◆◇◆◇◆◇


「陛下、よろしいのですか?」


「なに、今回の遠征軍は、近衛騎士を中心とする兵力。参謀長として、キャンベルも派遣しておる。あやつは飾りとして、トップを勤めておればよい」


「たしかにそうですが、危険はないのでしょうか?」


「危険などどこにでもある。それよりもむしろこの危機的な状況で戦果をあげることこそ、あやつの将来にとり、最も必要な試練よ」


「た、たしかに。……内外に敵が多い殿下への求心力を、高める絶好の機会ではありますが」


「あとは、キャンベルたちに任せるしかあるまい」


「今回一万の援軍を用意しましたので、北方軍の二万と合流すれば、戦力的には互角以上になろうかと」


「あとは、こちらの土地の利を活かすしかあるまいな」


◆◇◆◇◆◇


「右翼、左翼、包囲前進。退路を絶ちなさい」


 リットリナ軍が中央突破を仕掛けてくるのに合わせて、二重三重に用意した防衛網で防ぎきる。

 リットリナの将兵が面白いように罠にかかっていく。

 左右から包み込むように機動をかけると、リットリナ本体が浮き足立ち、散り散りになって、統制がきかなくなっている。

 散会している指揮官に対しては複数名にて個別に銃や魔法にて狙撃をし、指令系統を麻痺させ、集まって陣形を組むところには大砲を撃ち込んでやる。

 そして、逃げ出す敵兵は容赦なく背後から追撃をする。

 当初二万いたはずの敵軍は今や、半壊。

 予測よりも早くヘッケルンを落としてしまった。


「まぁ、いいわ。……追撃戦を徹底なさい。そして、後詰の歩兵と合流したらヘッケルンの占拠は彼等に任せ、私たちはさらに前進するわよ」


「はっ、リーゼ様の御心のままに」


 ふふふ。もう少し骨のある戦いがしてみたいわね。

 リーゼは硝煙の臭いをかぎながら、舌なめずりをした。


次回は、11/29(水)の更新の予定です。

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