表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/86

第十七話 ホールでの策略

「少なくとも武装した連中が、表門に二十名、裏門に十名はいるな」


 ヒューリが外の様子を報告してきた。

 こちらは、今は館内のホールにて待機中だ。

 私と、ケイメル、それにヒューリの三名と、全身黒ずくめの騎士一人の合計四名で待機している。

 え、黒騎士は誰かって?

 これこそ、今回の作戦の肝なのです。


 使用人たちには戦うスキルはないので、部屋の外に逃がしてある。

 まぁ、使用人の中の裏切り者がすでに何かをしているかもしれない。

 彼らが無事であることを私たちには祈ることしかできない。

 彼らを守る力なんて、私たちにはないのだから。


 私たちが籠城しているホールへの入り口は二つ。

 一つは玄関から続く割と大きめの入り口、もう一つは部屋の反対側にある細い通路。

 壁にも明かり取りの窓はあるが、狭いので、武装した人間が入ってくるのは困難だ。


 表は私とケイメル、裏はヒューリと黒騎士が担当することにした。

 私はケイメルの方をみる。

 鎧は着ておらず、長剣を一本だけもち、無表情に立っている。


 私たちが固唾を飲んで、正面を見つめていると、突然、背後のヒューリから声がかかった。


「連中が来たぞ!」


 その台詞とともに、背後から鋼鉄と鋼鉄とが撃ち鳴らす、剣戟の音が鳴り響いた。


 ガシャーンという音と共に、背後の黒騎士が尻餅をついている。

 彼は相変わらずだなー。


 こちらの方にも敵影が現れた。

 通路内に視認できる範囲で前方に四名、後方に四名の合計八名がこちらに向かってきている。

 こちらは二人で八名を相手にしないといけない。辛い。


 私は牽制にと通路に向けて爆炎魔法を叩き込む。

 相手からの反撃はない。

 直撃した一人を除き、残りの七名がホールへと、雪崩込んできた。


「こいつら、服の中に鎖帷子を着込んでいるぞ!」


 相手は黒装束を着込んでおり、その中に鎧を仕込ませている。

 正面から入ってきた黒装束の何人かは長剣で武装し、何人かが長い杖のようなものをもっていた。


 私は頭の片隅に何か引っ掛かるものを覚えた。


 黒装束が、膝をつきしゃがみこみ、杖の先端をこちらに向けてきた。


――『銃』。


 私の脳裏に浮かんだ単語を認識できたのは、行幸だったんだろう。


 私は反射的に魔法を発動し、目の前に土壁を展開する。


 それと同時、轟音が部屋内に響き渡った。

 私の方に向かってきた銃の弾は、土の壁に勢いを削られながら、私の腕をかすっていった。

 あ、熱い!


 鋭い痛みを熱さとして感じる。


 横にいるケイメルは身体中を弾が貫通し、身体が床に崩れ落ちるのが横目にはいる。


 !!


 私は咄嗟に土壁を自分とケイメルの回りに張り巡らせ、簡易な塹壕を構築する。


「ふふふ。手応えはあったか」


 廊下の側からこちらに向かって近づいてくる声が聞こえる。


 私は塹壕から顔を半分だけだし、確認する。

 グヌート王子が全身板金鎧に覆われた屈強な騎士に護衛されて、こちらに近づいてきているのがわかった。


「ケイメルを差し出せ。そうすれば、他のものには危害は加えん」


 私は床に倒れ臥しているケイメルと視線を合わせ、一つ頷く。


 土壁の魔法を解いた。


 裏手で闘っていたヒューリと、黒騎士は用心深く武器を構えながら、こちらを見つめている。


「結構なことだ」


 私が戦闘態勢を解いたことに気を緩めたのか、グヌート王子がホールに、無造作に足を踏み入れた。

 私は咄嗟のタイミングで、事前に仕掛けていた魔法を発動する。


 轟音を立てて土壁が周囲に、盛り上がる。


 グヌート王子とその護衛二人。黒装束の敵兵士も四名。それに、倒れているケイメルと、私を囲うように周囲に、土壁が立ち上げる。

 そして、その一瞬後に浮遊感を感じる。


 ……これで、私たちのいたホールに、土壁でできた密室のような空間が出来上がった。


 しばらくすると王子の護衛が光の魔法を使い、光源を作った。


「ふむ。まぁ、これはこれで余にとっても好都合ではあるな」


 そういって、グヌート王子は手に持っていた杖の銃口をケイメルの頭に向け、躊躇なく引き金を引いた。


 轟音が鳴り響く。


 ケイメルは、一瞬ピクリと動いたのち、動かなくなった。


◆◇◆◇◆◇


 私は強い視線でグヌート王子を見据える。


「どこまで知っている?」


 グヌート王子が私に尋ねてきた。


「ケイメルが暗殺された第一王子の息子で、あんたが下手人ということくらいよ」


「ふふふ。まぁ、否定はせんよ。だが、証拠はすべて握りつぶしたがな」


「なんで、こんなひどいことをするの?」


 私はケイメルの方を見つめながらそう呟いた。

 すでに先程まで壁の外から鳴り響いていた剣戟の音も既にやんでいる。


「兄ルンデンホフ。あいつは頭が固すぎたのだよ。……魔王軍が軍勢を整えているという情報を得ても、その対策を何ら考えない日和見主義者だった。私は帝国を中心とした軍勢により魔王軍への予防戦争の必要性を兄に問うたが、奴はそれよりも帝国への臣従を嫌がったのだ」


 そして、グヌート王子は私の方を見つめた。


「だから、手をかけねばならなかった。私の仲間は王国中にいる。たぶん、お前が思っている以上にな。私としては事がここに至った以上、もはや、後戻りはできん。かわいそうだがケイメルには死んでもらわねばならないんだよ。生きていると知られると、王位継承の問題が起こってしまうのでな。それでは国が一枚岩にならん」


「……そんな、勝手な! ケイメルにだって生きる権利はあったでしょ!」


「大義の前の小さな犠牲だな。魔王軍と戦うには資金や人材が必要だ。その点、貴様の才能は十分に合格点に達しているといえよう。どうだ、俺たちと一緒に来ないか?」


 そういって、グヌート王子は私に手を差しのべた。


「……一つだけいいですか?」


「何かな?」


「大義の前の犠牲って言いましたが、その犠牲には、グヌート王子、あなたも殉じる覚悟なのですか?」


「……無論だ」


「それでは、なぜ、最初から、暗殺などという姑息な手段で兄上を屠ったのですか? 論争にて兄上を説得しなかったのですか? なぜ強引な手段で鉱山の経営権などの経済利権を握ったのですか? そして、なぜ回りの人間、部下たちを道具のように切り捨てるのですか!」


「……余は特別な人間なのだよ。その点、周りが余のために働くのは自然なことではないか?」


「……なるほど。あなたという人の人となりがわかりましたよ。残念ながら私はあなたに命を預けられそうにありません。たしかに魔王軍討伐という大義名分はありそうですが、それを唱えるための覚悟があなたには足りません。あなたでは役者不足もいいとこです」


「なに? いきがるなよ小娘」


 怒りに顔を歪める、グヌート王子。


 私は肩の緊張を抜いて倒れているケイメルの方を向いた。


「私は、私のために命をかけられる。そんな素敵な戦友たちのために闘いたい。……よし。もういいよ」


 その声と共に、ケイメルの身体はドロリと溶けて、不定形な沼のようになった後、徐々に四足型の動物の姿を取った。


『やれやれ、魔術反応を抑えるのに苦労をしたぞ。それにあの妙な杖の先から発射された金属の塊。よりによって我々が苦手な銀製だ』


「ふふふ。ありがと、スーナ」


 私はしゃがみこんで、相棒の銀狼スーナの毛並みを撫でてやった。


「き、貴様。何を!」


「……あー、後の申し開きはこの方々にお願いします」


 私は土壁の魔法を解いた。

 周囲を多い尽くす人人人。

 そこは、かつて何度か見た、王宮のホールだった。


「ば、バカな……」


 グヌート王子が周囲の人間たちを見据え、驚愕の声をあげた。


 黒装束の兵士たちは血を撒き散らし床に倒れており、その周囲を王宮の騎士たちが十重二十重に取り囲んでいた。

 そして、その一角には国王と、その隣に黒騎士の兜を脱いだケイメルと、ヒューリがたっていた。


「グヌートよ。申し開きは法廷にて聞こう」


「ばかな、どうして……?」


「戦略魔法『帰還(ホメレーテン)』。対象の空間ごと、別の場所に転移する魔法ですよ。普通は前線基地の将軍を安全な後方に逃がすための魔法なんですけどね。今回はホールに、仕掛けておきました」


「……そうか。土壁は目眩ましか。ふふふ。これは一本取られたな」


 可笑しそうにグヌートが、けたたましい笑い声をあげた。いっそ狂気を感じさせる。


「先程からの発言はわしらにも聞こえておったぞ。グヌートよ。観念せい」


 国王がグヌート王子に語りかける。

 物証がない中で、その犯行を立証するための私の作戦。公開の場での秘密の暴露。


 だが、グヌート王子は余裕をもった笑みを浮かべ続けている。


「まぁ、今回は余の敗けですな。父上」


 そして、グヌート王子の影から、スーっと一人の仮面を被った人影が現れた。

 首筋には青色の宝石が妖しく輝いているのが私の目を惹き付ける。


「今暫くは国を預けておきます。ただ、余の国を、後日返していただきますので、それまでは失礼しますよ」


 そういうや、仮面の魔法使いがマントをひらりと翻し、グヌート王子と仮面の魔法使いは消え去った。

 それと同時、王子の護衛と黒装束たちが、皆、口から血を吐いて絶命した。


「毒をあおったか……」


 容態をみていたヒューリが、無念そうに呟いた。


 私は緊張の糸がきれたので、その場でへなへなと崩れ落ちた。

 足に力が入らない。


「……や、やっと枕を高くして眠れる」


 私が素直に思う感想だ。

 こんな冒険というか博打は、私には似合わない。

 そんなことを思いながら、私は魔法を酷使しすぎた反動で、深い泥のような眠りに堕ちていった。


一応、第一部完、みたいな感じです。

次回は、11/23(木)に更新の予定です(そろそろ辛くなってきています)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ