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第十五話 二年生になりました

「ベルモンテ王立魔法大学校に、君たち三十五名の新入生を迎え入れられることができて、私たち教師陣はとても誇らしい気持ちでいます。さて……」


 季節は春。

 ここは日本ではないので、春に桜が咲いていないのはちょっと物足りない感じを受けますが、初めて在校生として入学式典に参加しています。


 秋入学生の入学式は、校長室で簡単な式だけだったので、ちょっと寂しい感じでしたが、春の正式な入学の場合は、近衛から軍楽隊の応援を受けて華やかなパレードをしたりして、見ごたえがあります。


「お、あの子見てみろよ。外部組みたいだけど、めちゃくちゃ美人だぜ!」


 クラスの男どもが、ごにょごにょと噂話を垂れ流している。

 ふーん、どれどれ。

 ……あぁ、たしかに、高等部一年生の新入生に可愛らしい子がいるな。

 目がちょっとつり目がちで気が強そうだ。

 黒髪のストレートは、この世界だと珍しい。


 しばらく観察していると、相手の子もこちらを見つめた。

 そして、一瞬だけびっくりしたような顔を浮かべ、その後、なぜか憤怒の表情を浮かべた。


 え? え?


 私には怒らせるような記憶が一切ないんだけど。

 とりあえず、怖かったので、隣に座っていたヒューリの影にこそこそと隠れた。

 すると、相手の子がものすごい勢いで戦慄くのが見えた。

 ……こ、怖い。

 あと、ふとみると、ヒューリも、なぜか頬をポリポリとかいているのが、気になった。


◆◇◆◇◆◇


「ねぇ、ケイメル。今日の帰り、夕御飯を一緒に食べない? 美味しいお店を見つけたんだけど」


「うん。いいよ。……あ、実は一人ゲストとして呼びたいんだけど、いいかな?」


「ゲスト? うん。別に大丈夫よ」


「よかった。じゃあ、校門のところで待っていてね」


 ケイメルから約束を取り付けた私は、その後、授業をつつがなく受け、時刻は夕刻となった。

 ケイメルとたまに夕御飯を食べるようになってどれくらいになるだろうか。

 だけど、いつも席の側に護衛と思わしき手練れの兵士みたいな人たちが周りを警戒するのが気になるといえば、気になるけど。


 最近はだいぶ、日が落ちるのが遅くなってきたので、この時刻でも十分に文字が読めるくらいの明るさだ。


 校門は、結構大きい鉄製の門で、王家の聖獣である羽の生えた獅子と一角馬(ユニコーン)を象ったレリーフが飾られている。


「お待たせ、ルシフ!」


 ぼんやりと、校門のところでボーッと待っていると、背後から声をかけられた。


「あ、ケイメル、こっちこっち! あぁ、そちらがゲストの方ね、って……」


 ケイメルの隣にはばつが悪そうな表情を浮かべているヒューリと、その腕に絡み付いている女の子が立っていた。

 新入生の黒髪の娘だ。


 ふーん。なるほど。


「ヒューリ! あんたにも、そんなかわいい彼女がいたのね! 私、応援してあげるから!」


 とりあえず、ヒューリの手を握って満面の笑みで激励する。

 なんだよー、こんな可愛い彼女がいらなら、早く紹介してよねー。


「お兄様にさわらないで!」


 痛い。

 バシッと、手を払われました。

 黒髪の娘に。


 ……あと、今、なんて?


「……紹介するね。この子はヒューリの妹さんのタレン。この子もヒューリと同じく騎士団幼年学校の卒業生だね」


「あ、妹さんでしたか。あー、はじめまして、私は……」


「……ルシフでしょ。私、知っているわ。」


 こ、こいつ。

 上級生に向かってなんという態度を。


「こら! ルシフさん、だろ。年長者をちゃんと敬えっていつも言っているだろうが!」


 ヒューリが、タレンの頭を結構いい感じに殴り付け、しかっている。

 タレンは涙目だ。


「ご、ごめんなさい、ルシフ……さん」


「……あ、あー、こちらこそ驚かせちゃったかな? ヒューリは単なる私のクラスメートだから、別に深い間柄でもないから、気にしなくてもいいのよ」


「……はい」


 タレンが疑わしげな目でこちらを見つめている。

 うーん、やりづらいなー。


「……と、とりあえず、全員揃ったから移動しようか?」


 ケイメルが、皆を代わる代わる見ながら提案してきた。

 ナイスフォロー。


「うん。行こう!」


 私が率先して歩きだそうとすると、タレンがびっくりしたような声を上げた。


「え? 歩くの!……ですか?」


 すごく嫌そうな声を出した。


 嫌なら来なくてもいいのよ。


◆◇◆◇◆◇


「へー、タレンちゃんって、ヒューリの異母妹なんだー」


「……そーなの。私は、正妻の娘じゃないから、周りから色々と言われたんだけど、お兄様だけはそのようなことはなく、人間として、いえ、異性として尊敬しているの!」


 頬を染めながらタレンが嘯く。

 あー、やっぱりアルコール度数の高い葡萄酒(ワイン)ではなく、蜂蜜酒とか、林檎酒(シードル)とかの度数が低い飲み物にすればよかったかな。


 葡萄酒を食前酒として、かなりの量飲み、すごく気持ちよくなったのか、楽しそうにタレンが、私に絡んでくる。

 今は私の首に腕を絡めて、耳そばでがなりたてている。

 うるさい。


「なんだー、ルシフさん、ヒューリお兄様の彼女じゃなかったんですねー。私、お兄様に悪い虫がくっついているという噂を聞いて、いてもたってもいられなくなって、騎士学校をやめてこちらに来てしまいましたよ!」


「そ、そうなんだ」


「私は、お兄様のために生き、お兄様のために死ぬのです!」


 急に立ち上がり拳を天に突き出すタレン。

 横でみていると明らかにおかしい人だ。


「な、頼むから、もうその辺にしておいてくれよ。周りにも迷惑だろ、な?」


 ヒューリが、なかば拝むようにタレンに頭を下げている。

 まぁ、飲んべえの相手をシラフが勤めるのは難しいしね。


「……私の、この思いは! お兄様と言えども止めることはできない! 私の操はお兄!」


 と言ったところで、電池が切れたのか、机の上に突っ伏し、すやすやと寝息をたて始めた。

 むー、まさに嵐のような奴だ。


「……どうすんのよ、こいつ」


「まぁ、ヒューリが背負って帰るしかないんじゃない? どうせ近くに馬車持ってきているんでしょ?」


「ん。まーな。しかし、お前たちにも迷惑かけたな。すまない。こいつにも色々あって、悪気はないんだが」


「袖すり合うも他生の縁、っていうし。まぁ、気にしない気にしない」


「主に被害者のルシフがこう言っているんだから、いいんじゃないかな?……さて、実は今日は二人に折り入って相談したいことがあったんだけど」


 ケイメルが、私たちに視線を向けた。

 結構、強い視線だ。


「もう薄々気づいていると思うけど、僕は命を狙われている。動機については……」


 そこで、ケイメルは一端言葉を切り、ヒューリの方に視線を向けた。

 ヒューリがこくりと頷く。


「……僕は第一王子ルンデンホフの息子なんだ。……父は、父は叔父上に殺されたんだ。僕の目の前で。でも、証拠は僕のこの記憶のみ。祖父には打ち明け保護をしてもらっているけど、叔父上にはバックに帝国がついているから、物証なしに告発は出来ない。それに、死んだことになっている僕が、生きているなんて知れたらそれこそ、国の上下がガタガタになっちゃうんだ」


 そういって、ケイメルは葡萄酒を一息に飲みほした。苦り切った顔をしている。


「……うん。私も薄々とは気づいていたんだ。ケイメルがもしかしたら王族じゃないかって。でも、敵討ちもとれない状況ってのが、かなり痛いわね。こちらが防戦一方」


「証拠さえあればな。なんとかなるんだが」


 横からヒューリが口を挟んできた。

 そういえば、こいつは特段驚いていないな。

 私の視線で何かを察したのか、ケイメルが補足をしてくれた。


「ヒューリには割りと早くに打ち明けて、護衛をお願いしていたんだ。……君を僕の問題に巻き込みたくなかったから、今まで黙っていてごめん」


「ううん。気にしないで。悪いのは襲ってくる連中であって、ケイメルが悪いわけじゃないもん」


「でも、巻き込んだ責任は僕にある。ちょっと前にお城でルシフが襲われたって聞いて、もう巻き込んじゃったんだってわかったんだ。それならば、もう無関係ってわけにはいかないから、少しは真実を話しておきたかったんだ」


「……うん。でも、私にできること、何かないかな? ヒューリみたいに護衛とか出来ないし。あ、でも、魔法で警戒するとかはできるかも!」


 私は、努めて明るい声を出した。

 やっぱり、命を狙われている、と面と向かって言われると怖い。

 正直、震え上がって、叫びだしたい。

 ……でも、これが現実ならば腹をくくって戦うしかない、とも思えてくる。

 一人より二人、二人よりも三人の方が心強いってもんです。


「まぁ、このルシフ様にまかせなさい! 大船に乗ったつもりでいてくれていからね!」


 私は、ケイメルの手を握りしめた。

 一番怖いのは当事者のケイメルのはずだ。

 大丈夫。私がついている。


「……泥船じゃなければいいけどな」


 場をぶち壊すような発言をヒューリが呟いたので、私は、容赦のない裏拳を顔面に叩き込んでやった。


次回更新は11/19(日)の予定です。

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