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第十四話 汚物は消毒だー!

「まぁ、ルシフが気に病むことじゃないだろ」


「そうだけどさ。このまま、我が儘三昧に育ったら周りも困るけど、本人のためにもならないと思うのよ」


 二週間ほどお城にて仕事をして、だいぶ周りの動きがわかってきたので、最近は少しは自分の時間を作れるようになってきた。


 城に泊まり込めるとか、素直に喜んでいた昔の自分を絞め殺してやりたい。


「でも、ヒューリも城勤めしていたんだね。そこがびっくりよ」


「お前なー。俺、一応、近衛の騎士補様で、家も侯爵家だからな?」


「へ? 今なんて?」


「だーかーら、俺、侯爵家の長男だぞ」


「ま、まぢで?」


「大まじ。俺の親戚にゃ、公爵閣下もいるぞ。俺の大叔母が、公爵婦人という間柄だな」


「も、もしかして私って結構非礼で、でございましたか?」


 とりあえず、急に、敬語を使ってみた。


「きもちわりーな。いつも通りで良いよ」


「あ、そう? じゃあ、いつも通りにさせてもらうね」


「……お前もなかなかに大人物だよな」


「ん? 誉めても何もあげないよ?」


「誉めてねーよ! とにかく、お前は波風たてずに無事に城勤めを、終えることだけに集中しろよな。あと、二週間だろ?」


「うん。まぁ、そうなんだけどね」


「あんまり、王家のことには首を突っ込まない方がいいぞ。一応、忠告しておくと」


「え? もしかして、ヒューリ、私のこと心配しているの?」


「ばーか、そんなんじゃねーって」


 そっぽを向きながらヒューリが、ぶっきらぼうに言う。

 お、なかなか可愛いげがあるじゃないか。


「お、そろそろ、時間だぞ。戻らないと不味いんじゃないか?」


「あ、いけない。じゃ、ヒューリ、またね!」


 私は休憩を終えて仕事に戻った。

 やはり、近くに顔見知りがいるのは心強いなー。


 ……さて、ヘンリエッタ姫の御用聞きとお使い、さらに簡単な読み書き計算なんかの家庭教師の真似事をして、一日の仕事は終了。


「ふふ。今日の勉強は簡単だったわね。もう少しレベルの高い問題をだしてもかまわないわよ!」


 姫。今のレベルは、幼年学校レベルですよ。

 少しでも難しい勉強になるとすぐに匙を投げるので、簡単な問題ばかりだしている。

 ただ、詩や文学、絵画に音楽なんかにはやけに詳しい。

 典型的な貴族だな。


「では、姫。今日はもうここまでといたしましょう」


「ルシフ。なかなか、今日の勉強は面白かったわよ。明日もこの調子で頼むわよ」


「……はい」


 あー、疲れた。

 もう、部屋に入って休みたい。


『主よ。戻ったか』


 部屋に入ると、部屋の床から一匹の子犬みたいな生き物が涌き出てきた。

 故あって使い魔にした銀狼のスーナだ。


『主のいない間にベッドメイキングをしにきた侍女以外にもう一人の訪問客がいた。そやつは、そなたのカップの縁に何やら塗っておったぞ』


「ふーん。まぁ、毒物でも塗ったのかな?」


 私は持ち込んだバッグの中から、試薬を取り出すと、カップの縁に振りかけた。


「ビンゴね。こんなんじゃ、私は殺せないっての」


『この前はベッドに毒蛇がいたな。なかなか、良い趣向の持ち主のようだ』


「嫌な趣向ね。あ、私、今から湯あみに行くから護衛お願いね」


『心得た』


 そういって、スーナは、私の影の中に潜んだ。

 この形態だと、結構魔力を消費するのであまり多用はできないが、護符とかを持っていけない風呂場等での防衛策としては非常に強力だ。


 私は城の離れに作られた浴場に赴く。

 まだ早い時間なので、先客はいない。

 一応、風呂場は男女別にある。

 王族は、朝一番のきれいな湯で使用人の手伝いを受けながら風呂に入る。

 飯使いたちは、仕事の後の夜遅くに風呂を掃除しながら入るらしい。おばあさんに聞いたところ。


 そして、私たち貴族の使用人は、その間の時間に入るのだ。


 私は服を脱ぎ、髪止めを外した。

 この大浴場には鏡があるので、自分の全身像を見る。


 ……最近、少し胸が大きくなったかな?


 やはり、今が育ち盛りなので、あとで、夜食を食べよう。うん。


 そんなことを思いながら、湯船に浸かる。

 大浴場は日本の銭湯よりも一回り大きい感じで、石造りだ。

 壁なんかに彫刻が施されていて、ローマ時代のお風呂に似ている。


 ふー、極楽極楽。

 一日の疲れがみるみる取れていくような気がする。


『主よ。囲まれているぞ』


「は?」


 人が良い気持ちでお風呂に入っているときに、急に、スーナに警告を受けた。

 気を抜いていたのが悪いのか、まったく周囲の魔力反応を感じなかった。

 意識を集中して周囲を探索する。

 すると、たしかに微弱な魔法反応が多数感じられた。

 んー、でも魔物にしては微弱過ぎるかな?

 『それ』は、人間界で形をとり、黙視でも視認できるようになってきた。

 一言でいうと、黒い(もや)のようなものがふよふよと近寄ってきていた。


「……低級悪魔ね。しかし、その本体は……っ……って……、ぎ、ぎゃああああ! む、むしぃぃぃ!!」


 靄だと思ったものが羽虫の集合体だと認識した瞬間。

 私の中で何かがキレた。


「へ、『業火(ヘルフレイム)』!」


 焔の渦を召喚する高等魔法を躊躇なく叩き込む。

 汚物は消毒だーっ!


 …………はぁはぁはぁ。


 ……や、やったか!?


 あたり一面が、黒こげになっている。


「おい! 何があった! ……って、お、おう…… こりゃ、いったい」


 入り口の方から私服姿で、長剣を一本だけ持ったヒューリが駆けつけてきた。


「あ! 良いところに! ヒューリ、今、低級悪魔に襲われたのよ! しかも、虫よ、虫! 思わず焼き殺しちゃったけど、他にも敵がいるかもしれないから注意して!」


 私はヒューリを視認すると、一目散に、近くに走っていき、周囲に、注意を向ける。


 ……とりあえず、魔力は感じないかな。


「……えーと、うん。もう魔力は感じないと俺は思う……うん」


「なによ、歯切れが悪いわね。言いたいことがあるならば言いなさいよ」


 私は腰に手を当て、ヒューリの方を振り向いた。


「……えーと、だな。とりあえず、俺としては、なんていうか……き、きれいだと思うぞ」


「は?」


 こいつは何を言っているんだ。周りは私の爆炎魔法で結構煤けているというのに。


 ……と、ここで、ヒューリが明後日の方向を向いて頬を撫でながら恥ずかしそうにしているのが目に入る。


 むむ。

 ……そういや、ここ風呂場だっけ。


 私は恐る恐る自分の身体を見下ろす。

 そこには、当然のように、生まれたままの姿の私があった。


「……! ぎゃぁぁぁー、見るなー!」


 そういって、ヒューリに目潰しをかける。


「ぎにゃぁぁぁー、理不尽だぁぁー!」


 ヒューリの叫び声がお風呂の中に鳴り響いた。


◆◇◆◇◆◇


「で、魔力反応の解析は終わったかの」


「はい。やはり帝国の一部部隊が、使っている妙薬かと」


「うまく餌に引っ掛かってくれたのはよかったが、釣れた相手としては最悪じゃの」


「はい。そう考えますと、今、指摘して外交問題とするのは得策ではないかと」


「……ふむ。では、引き続き、交渉を続けてくれ」


「はっ!」


次回は11/17(金)の更新予定です。

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