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第一話 月が二つあるんだけど

こりもせずに、新作です。

やる気が続く限り、のんびりと書いていきたいなー、と。

 目を開けると、見知らぬ天井だった。

 どこかの小説の出だしとして聞いたことがあるようなセリフだが、まさか、自分が体験しようとは。


 頭痛がして、吐き気がひどい。


 俺は、頭を振ると、ベッドから起き上がる。

 周囲を見回すと、窓の外から光が入ってきている。

 夜ではないらしい。

 自分が眠っていたベッドは、年代物らしく、古い木製のベッドだ。


 壁紙はやや明るい感じの赤茶色で、少し埃っぽい。


 部屋には木製の机があるが、机上には何も置かれてはいない。


 俺は、自分の手のひらを見つめてみた。

 白くほっそりとした子供の手だ。


 ……なんだこれは?


 酷く動揺した俺は、顔をなで回す。

 やけにひんやりとした、髭もない、ほっそりとした輪郭だ。

 そして、今気づいたが、髪の毛が長い。

 しかも、金色に輝いている。


 俺は、日本人の男だったろ!


 あまりにも、理不尽で不気味な状況に、心臓がばくばくと言っている。


 俺は、たまらず、窓に近づき、カーテンを開け広げた。

 外には、どこまでも続くすっそうとした森が続き、そのそばに、小高い丘が見える。


 その丘の頂上から、目線を空の方に向けると、天空に月が二つあった。


 そして、その月の前を黒い影が横切っていく。


 ……あれは?


 最初は鳥かとおもったが、その輪郭は俺がよく知っている空想の生き物にそっくりだった。


「……ドラゴン」


 俺は、そう呟くと、ベッドの上に大の字になって倒れ伏した。

 俺の耳から聞こえてきた、自分の声が、女の子のような、やや高い声だったことも、俺を動揺させた。


 どうやら、夢でも見ているらしい。


「……少し寝よう」


 そうして、俺は目をつぶり、意識を手放した。


◆◇◆◇◆◇


 目を閉じて、しばらくうたた寝をしていたらしいが、扉がガチャリと開く音に飛び起きた。


「……目が覚めましたか?」


 俺は、警戒するように身を起こしながら、声をかけてきた人物を訝しそうに見つめた。

 五十代くらいの女性だろうか。

 シスターのような、頭まですっぽりと被るフードを着ている。


「私は、このペルナンブ修道院の院長をしているステイアというものです。あなたは裏手の『帰らずの森』で一人で倒れていたのですよ。そしてこれを握っておりました」


 そういって、きれいな赤いルビーのような宝石を俺に渡してくれた。

 宝石は赤色だが、光に当ててみると、石の中央が、琥珀のように、若干橙色をしており、光がゆらめている。


「これは?」


「あなたが唯一、手の中に握りしめていたものです。あなたの出自を示すものではないかと。あなた、お名前は?」


 俺の本名や日本から来たことを言ってもいいが、明らかに混乱を招くだけだろうな。


「……わからない。何も思い出せないんです」


「……そう。あなたのお父さんやお母さんには連絡できないかしら?」


「……すみません。それもわかりません」


「……ならば、うちの修道院で暮らしませんか? 私たちはあなたのような身寄りのない子の面倒もみていますから」


「でも、お世話になるなんて、悪いです」


「何をいっているの。あなたのような子供が一人で生きていくなんて無茶よ」


「ならば。ならば、この宝石を売ってお金にしてください。幾ばくかの現金にはなると思いますから」


「ありがたい申し出だけど、それは、きっとあなたにとって大事なものよ。大切に取っておきなさい。……別にあなたからは何もいらないわ。でも、そうね。神様への奉仕だけはしてもらわなきゃね」


 そういって、ステイア院長は片目を茶目っ気たっぷりにつぶった。


「……では、しばらくご厄介になります」


「ふふ。ここをあなたの家だと思って過ごしてちょうだいね。でも、名前がないのはちょっと不便よね。……そうね、今日からあなたは、ルシフ。天使様から名付けさせていただいた聖なる名前よ。大切にしてね」


「……ルシフ」


 こうして、俺は、幸運なことにペルナンブ修道院で暮らすことになった。


◆◇◆◇◆◇


 コンコンッ。


「どうぞ。……あら、珍しいお客様ね」


「久しぶりだな、ステイア」


 ステイア院長の執務室に一人の老紳士が訪ねてきた。

 上下黒色のスーツに、黒い傘をステッキがわりにしている。

 その目には片眼鏡をし、口ひげをたくわえている。


「ガンバルド。何年ぶりかしらね。いつ頃こっちに帰ってきたの?」


「昨日だ。そして、今日の夕方には王都に行かねばならん」


「相変わらず忙しいのね」


「……まあな。で、森の様子は?」


「特に変化はないわ。……あ、でも、半年前に女の子を見つけたわね。たぶん親とはぐれて、さ迷っていたんだと思うけど」


「女の子、か……」


 そういって、ガンバルドは、アゴヒゲを撫でた。


「……少し調べてみるか。邪魔したな」


「お願いね」


 そういうや、入ってきたときと同様に扉から老紳士は音もなく立ち去った。


◆◇◆◇◆◇


「おい、ルシフ。お前、勉強ばっかりしていないでさー、たまには森に行って一緒に遊ぼうぜ!」


「ごめんね、アーサー。私、ちょっとこの本を読みたいのよ」


「そうかいそうかい。わかったよ! もう誘ってやらないからな!」


 そういって、アーサー、俺のような孤児で、最初に仲良くなった男の子だ、がぷんぷんと不機嫌そうに外にいってしまった。

 でもまぁ、誘ってやらないとかいいながら、毎回誘ってくるのもどうかとは思うが。


 俺としても一緒に遊んでやりたいのはやまやまなんだが、せっかく字を覚えてきたので、この世界のことを色々と知りたいのだよ。そしてやるべきこともある。


 俺は半年前に院長に拾ってもらってから、読み書きを覚えたり、大人に話を聞いたりして、この世界のことを勉強した。


 この世は神が作りたもうた世界ではあるが、もう一つ、裏の世界とも呼ぶべき世界、魔の世界がある。

 こちらは、魔の神が支配しており、表の世界へと常に侵略してこようと、いつも狙ってきている。


 世の中には、この魔の力があふれでるポイントがあり、ここから微量ながら、常に魔力がこちらの世界へと漏れている。

 そのため、ドラゴン等の魔物が存在するし、『魔法(アルス)』と呼ばれる魔導技術も発達した。

 ただし、魔法は裏の世界の技術であるので、表向きにはあまり奨励されてはいないらしい。

 だが、毒を以て毒を制すの格言通り、過去に魔の世界からの侵攻を、魔法を以て撃退したことが多数あり、必要悪として、認知されている、という状況だ。


 ただ、魔法使い、魔導師になるには、魔法の知識に加えて、先天的な才能。魔を惹き付けやすいという才能が必要だ。

 この才能がないと、いかに知識を持ち、正しい魔の運用ができたとしても、肝心の力が発動しない。

 それでいて才能だけあっても魔術の正しい知識がなければ、大きな力は発揮できない。

 まさに、才能と努力が求められる、厳しい世界だ。


 しかしながら、魔法の才能がありさえすれば、王立の魔法学校への入学が許されるので、平民から貴族へとステップアップをするには、もっとも手っ取り早い近道なのだ。

 ただし、魔術の才能は遺伝するらしく、貴族層に偏って発現するらしい。

 まぁ、魔術の才能があれば貴族になれるのだから、当然と言えば当然か。


 なので、自らの魔法の才能を早く見極めるためにも、初級の魔法をとっとと覚えて、実際に試してみたいと思っていた。そのためには、最初に覚えるべきことは多く、同年代の子供たちと遊んでいる暇などはないのである。


「あー、お腹減ったなー」


 俺は、お腹をさすりながら、項垂れる。

 この世界にやって来て、一人で世間に放り出されるという心配はなくなったものの、生活の質という観点では、まさしく最底辺だ。


 毎日、薄い味の野菜や豆のスープ、固いタイヤみたいな塩っからいパンを毎日食べ続けている。

 さすがに、こんな食生活を続けていると、この生活から抜け出したいと思うものである。


 そして、目の前に可能性という名前の蜘蛛の糸がぶらさがっているのだから、それにしがみつこうと思うことは悪いことではないと思う。

 まぁ、才能がなければ、別の道を考えればいいし。


 ……何時間たっただろうか。

 勉強に没頭しすぎてしまい、時間がたつのを忘れてしまった。

 今日は魔法に必要な呼吸を一生懸命に練習してみた。

 なんとなく、お腹の下辺りに、暖かい魔力を集めたことができたような気がした。


 そろそろ、夕飯かな。

 一日二食の基本生活で、今日あたりには、果物が出てくれると嬉しいなー、などと思いながら、食堂も兼ねている礼拝所へと向かう。


 いつもならば、夕食前の時間で、多くの子供たちで溢れているはずの礼拝所では、人が疎らだった。


「あ、あの。夕御飯は?」


「それどころじゃないのよ。アーサーたちが帰ってこないの。ルシフ、子供たちがどこに行ったか知らない?」


「……え?」


 俺は、呆然と答えた。


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