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月にあるもの。

 この世界の月のウサギは餅つきをしてい……ないこともないような気もしますが、とりあえず今はしていないことにしましょう。では、あれは何でしょうか。

 今日は野宿で、あとはもう寝るだけとなったので私は仰向けになりました。そうしたら丸い月を見るにはちょうど良かったのです。そんなわけで私は今、この世界の月の模様は何とされているのかと考えています。エドワードさんとジークさんに答えの一つを聞く前に、自分で考えてみることにしたのです。

 月面の左半分に縦長のものが、右上に台形のものがあります。左のものは内側に少し曲がっています。右のものは左のものの三分の一くらいの大きさです。

 そうですね……“遠くの山にヤッホーと言っている人”というのはどうでしょうか。上下反対に見て“地面に置いてある籠を見る人”というのもいいかもしれません。横に見て“バケツの水を浅い容器に移すところ”もありでしょうか。いや、ないですね。面白くありません。

 どこかの国では模様と背景が逆で、女の人の顔としていたはずです。この見方だとどうなるでしょう。……しばらく見つめてみましたが思い起こすものがありませんでした。

「あの、エドワードさん」

 私はまだ起きているエドワードさんに声をかけてみました。ジークさんは寝ていますから、小声です。

「何だい?」

「エドワードさんたちは、月の模様は何に見えてるんですか」

「ニールグだと、高い所の魚を取ろうとしてる猫だよ」

 猫と魚? 左の曲がり具合が猫と言えば猫ですが、そうすると右が魚でしょう。ですが魚には見えません。逆でしょうか。それとも背景の方の考え方?

「よくわからないんですけど……猫は左ですか」

「やっぱり詳しく言わないとわからないね。大きい方が、レイちゃんの言うとおり猫だよ。小さい方は壺で、中に魚が入ってるんだ」

 なるほど、そういう設定ですか。

「変わった壺ですね」

 壺というなら広がっていくだけでなく途中から小さくなっていてほしいところです。

「僕もあれはいまいち納得いかないよ。かめか桶ならまだいいのに。一応、猫が飛び乗っても倒れないようにああいう形になってるんだ、って理由があるんだけど……考えた人は何が何でも壺の中の魚を狙う猫にしたかったのかもしれないね」

 そういう猫を飼っていたとか?

「他にはどんな風に見えるのがあるんですか」

「捨て子を拾う聖女と、振り向いた女の人と、犬があったはずだよ。聖女のは上下反対に見るんだ」

「小さい方が捨て子ですか」

「うん。籠に入れられた子。壺より籠の方が納得できるよね」

「はい。さっき、地面に置いてある籠を見る人っていうのを考えました」

「いい線いってたね。ちなみに中身は?」

「秋の味覚です」

 りんごや柿や栗などがたくさん入っているといいなと思います。



 翌朝、私はジークさんにも月のことを聞いてみました。

「ジークさんは、あれは壺に見えますか」

「見えないこともない。脚付きの壺があんな感じだった」

 脚? 脚が付いていたら台形に……?

 どのように壺に脚が付いているのかと私が質問する前に、ジークさんは木の枝を使って地面に絵を描き始めました。彼はまず、あまり高さのない壺を描き、壺の一番膨らんでいる部分の少し下から斜め下に延びる棒を付け足しました。反対側も同じようにしました。これならば下にいくにつれて大きくなっています。月と違って本体と脚の間に隙間がありますが、とりあえず納得です。

「こういうことか……」

 エドワードさんが呟きました。彼も理解したようです。

「昔、美術品として作られた。俺が見たのは四本脚だった」

 説明を続けてくれながら、ジークさんは絵に二本の線を描き足しました。すると左右の脚が繋がって、壺がスカートを穿いたようになりました。隙間がなくなって月のものに近付きました。

「脚が増えてしまいにはくっつけたのも出てきたらしい。それはたぶんこうなってる」

「ジークさんが見たことなくて、エドワードさんは本当にあるって知らなかったってことは、そういうのは少ないんですか」

 私の質問にジークさんは頷きました。

「でも猫と壺っていうのが広まって定着したんですね」

「昔はそれなりに知られてたんじゃないか」

 それはありそうです。

「美術品なのに魚入れちゃった人がいたのかな」

 エドワードさんがそう言って、

「本当は実用品で話のとおり猫対策だったかもしれない」

 とジークさんが言いましたが、あまり知られていないことを考えるに、美術品というのが正解でしょうか。

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