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うちのお嬢様を嘲るやつは表にでやがれ。

「ふぅ…」



宝石のように輝くような美しさを誇る公爵家の庭園の東屋で二の姫ことリシュルカお嬢様がため息をつかれた。

先程まで三の姫の妹様と楽しくお茶を召し上がっていたのに、退室なされた後は深く沈み悲し気であった。

春の柔らかな陽のような優しい二の姫を思い悩ませるなど万死に値する。

ワタクシはそっと背後をとり静かに尋ねた。



「二の姫様、思い悩む敵がおられますか?

それならばワタクシめが見事撃ち取ってみせましょうぞ。」



「まぁ、サノ。

そんなことないわ、誰にも煩わされてなどいませんわ。

自分の不甲斐なさに恥じ入っていただけですの。情けない姿を見せて恥ずかしいわ…」



嫁に出た一の姫、幼き三の姫ですらワタクシの登場には驚かれるのに二の姫はこれまで一度も驚かない。さすがである。

真の淑女たるもの常に凪のような心と微笑を携えるのだと二の姫を見て納得した次第である。

奥様も常に凪のような心を持ち、ワタクシの登場にも驚かれない…が、あの方は奥様はである前に誇り高き戦士なので淑女にはあらず。



大抵のことは気にせず済ませ、ご家族ご親戚はもちろんのこと、ご友人だけでなく使用人や我々影にも心を砕かれる二の姫を悩ませる存在は許しがたいのである。

万死に値する。



「…サノ、笑わないでくれる…?」



思い詰めたように二の姫が言う。

もしや恋とかそんなことだろうか?代々政略結婚をしてきた一族に産まれた二の姫は恋することすら制限される宿命。

そうであれば心を痛まれるのも無理はない。

よし、相手は抹殺しよう。

ワタクシが密かに決意をすると二の姫は続けて言った。



「エスティアが先日婚約破棄されたでしょう?」


「はい。自分勝手な言い分を通そうとする愚か者との縁が切れ喜ばしい限りでございますね。」



先代の奥方を救ってくれた恩と天災時の相互援助の為になされた縁組みであったが、元々二の姫ではどうかという話しもあった。

ところがである…あの憎むべき小童が二の姫の顔とひとつ年上な事を理由に、こいつじゃ嫌だと駄々をこね二の姫に飲み物をかけたのだ。

あの時はすわ戦争かとワクワクしたのだがそうはなず、じゃあ三女が生まれたらーという風に流れたのだ。

二の姫は自分のせいでとしばらく落ち込んでらした。

いつもの笑みが見られるまでに一年と少しようした。

数年後三の姫が生まれ、婚約が決まった時も落ち込まれていたが、淑女らしい仮面をつけた二の姫は気持ちを悟らせることなく乗りきった。



「ええ。僥倖です。

エスティアが頑張れば頑張るほど不幸になりかねませんでした。

お父様が言っていたのよ…

次の婚約者はしっかりとした者を選ぶから安心なさい、と。」



「…?二の姫様…?」



うつむく二の姫の表情をうかがおうとして、固まってしまった。

二の姫は涙をこぼしていた。

ポタポタと小さな滴はあっという間に大粒となり、その手を、ドレスを濡らしていく。

どれ程に涙をこぼしても嗚咽はあがらなかった。

ただ涙だけがあとからあとから零れ落ちる。お痛わしいと思うよりも先に、その涙の美しさに一瞬見とれてしまった。



「私の話はなにもないのに…、

私は…バンバード家に生まれたからには家のため、国家のために万が一どれ程忌み嫌われようと嫁ぐ覚悟をして…きたのです…

けれど、それすら叶わない…」



顔をあげた二の姫の澄んだ瞳は涙に濡れ、美しく輝いて見えた。



「女学院を卒業しても縁がもたらされなかったのなら…」



ゆるゆると口元を微笑みの形にして二の姫は言葉を紡ぐ。



「修道院に入るか、平民として生きたいなんて…この頃考えてしまうの。

…ねぇ、サノ…笑ってしまうわよね。

今更かと嗤う方もいるかしら?家名を背負い、相応しくあれと思うのだけど…この頃うまくできないの。笑えないのよ。

淑女らしくあることぐらいしか、私にはないというのに…」



「二の姫様、例え誰がなんと言おうとワタクシの主は素晴らしいのです。

嗤うヤツなど一人残らず撃ち取りましょう。

二の姫様が修道院にいかれようと平民として生きようと、ワタクシはついて参ります。」



慰めも、激励も、思い付けなかった。

ただ、ひとつ何があろうとワタクシがついて行くことだけは伝えなければと思った。

真ん丸に目を見開いた後、涙を二粒だけこぼして二の姫はくしゃりと笑った。泣きそうにも照れくさそうにも見える子どもの頃によく見た笑み。



「ふふ、そうね。

何があってもサノが居てくれるなら私、大丈夫そうよ。ありがとう。

もう少し頑張れそうだわ。」


























「…と、いうことがあったのでワタクシめは下調べをいたしました。」



薄暗い狭い部屋で方々を囲まれた状態で正座をしたワタクシは説明を終えた。

目の前には旦那様と奥様、右は執事長と護衛長とメイド長、左は跡取りの若旦那様夫婦、背後は影の長と補佐が居て威圧感は限界点突発しているが二の姫の苦しみを思えばなんてことはない。

皆の足元に散らばるのは、二の姫がもしもで語った修道院や平民として生きるために必要な事や、潜伏に適した街の資料。



「二の姫様はそれはそれは努力なさっています。

努力したからよいものばかりではなく結果が全てな事もあるとは理解しておりますが、それでも家のために尽くしているのです。

ですから…」



ワタクシはしっかりと顔をあげ胸を張り言った。



「うちの二の姫様が嘲られるような真似されたら誰だって討ち取っていく所存です!」










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