『世界とは母国語とは何か?後継者に家庭教師は説明申し上げた』
磔にされた少女。
言うまでもなく、非道。
漆喰で塗り固められて、名匠の手によって生きた彫刻にされるらしい。
それが人質の慣わし。
裏切った報い。
出来上がった像に纏わる箴言は後世にまで伝えられるだろう。
姫は南東に向かって建立される。
その方向には、彼女が故郷とする国が存在する。
せめてもの慈悲だと思うべきだ。
自らの国が翻した旗を踏みつける姿に、彫像は建立される。
裏切った報いをシンボリックに表現してみせたのは、王ではなく、後継者のアイデア。
旧くからの慣習ではない。
王は宣言した。
「これより裏切りの暗喩になるだろう」
それは、これより建設される城にとって主柱となる。
人柱とは呼ばない。
それはいっそのこと、名誉であり、一族が絶えるまで誇りとすべき有難いことだからだ。
裏切りものは世界が滅ぶまで、一族の行為を恥ずべきなのだ。
やがて伝説になるだろう。
しかし、伝説もつい果て、ここが城であることすら人々から忘れ去られるだろう
そのとき、魔法で塗り固められた漆喰が溶けるにちがいない。
そのとき、成仏が叶う。
この地に根付く母国語が消え去るくらい未来の話かもしれないが。