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異端児の武勇伝記  作者: 於保多ひろ
第一章
6/35

開花した才能

ここまでトントン拍子で進んできた物語ですが、ある程度説明も済んだので少し進行が遅くなるかもしれませんが、ちゃんと更新いたしますのでよろしくお願いします。それではどうぞ。

3/5改稿

 東魔術指南学校の全職員会議。月一で行われる教師による現状報告や方針の決定などを目的とした会議だ。

 本来なら一ヶ月に二回も行われることはないのだが、今回は特例のようだ。


「それで……何だったかな、ガウルテリオ君」


 会議長を務める東の国の賢人アズマが、議題を作り出した張本人に言った。


「ええ、ですから、ダグザ=ヴェルターの『二等級』昇格の許可を頂きたいのです」

「何を馬鹿なことを!」


 他の教師が立ち上がって叫んだ。それに賛同する声があちこちから上がっている。


「あいつに『二等級』へ行けるほどの実力はないと思うが……?」


 この発言をしたのはハームだった。これを聞いたガウルテリオは待ってましたとばかりに答える。


「彼はすでに、ランク1の魔法をマスターしています」

 途端にざわめきが広がる。

 その時アズマの顔に満面の笑みが広がったのだが、気づいた者はいなかったようだ。


「そ……それはありえない! 他の者が一年かけて終わらせるカリキュラムを、そんな数日で終わらせられるはずがない!」

「静かにせい。ではガウルテリオ君、皆が納得できるよう、証明するというのはどうだろうか?」


 アズマがざわめいていた場を静め、ガウルテリオに提案した。


「いいでしょう……どのような方法でも構いません。そちらでご提示ください」


 しばらくの間、ざわざわと話し合う教師達だったがやがて意見がまとまり、一人が発言した。


「我々の前で披露するというのはどうだろうか?」


「承知しました」


「それでは明日の朝、ここにダグザ=ヴェルターを連れてきなさい」


 ガウルテリオの返答を聞いたアズマが会議を閉めた。

 ぞろぞろと会議室から教師達が出て行く。

 ハームがガウルテリオとすれ違い際に声をかける。


「どういう風の吹き回しだ? ……あんな下民に何の力もない事ぐらい……まあいい……」


 そう言うとハームは去っていった。




 翌日の早朝、ガウルテリオから事情を聞いたダグザが指定された会議室へやって来た。

 室内には数人の教師が審査員役として待っていて、その周りに見物しようと集まってきた教師達がいた。

 ダグザは深々と彼らにお辞儀をして、昨日のガウルテリオの言葉を思い出す。

 ーーできるだけ冷静なふりをしろ。魔法遣い(奴ら)は上品な振る舞いをする奴を好むーー

 ダグザは深呼吸した。


「それでは早速ダグザ=ヴェルター君の昇格試験を行う」


 審査員の一人が言った。

 ダグザは緊張を押し殺し、毅然とした態度で審査員達の前へと出る。

 ガウルテリオからこの話を聞いた時、彼はとても驚いたが、それ以上にこんなにも早く昇格のチャンスが来てくれるとはと喜んでいた。

 絶対に失敗するわけにはいかない。チャンスを作ってくれたガウルテリオのためにも。


「こちらで指示する通りに魔法を扱いなさい」


「はい」


「ではまず、あなたの魔力を見せて下さい」


 これは魔法遣い特有の言い回しで、試験などの時に用いられる。

『放出』、『維持』を駆使して魔力の球を作れと言う意味だが、ダグザはガウルテリオから事前に伝えられていたため、難なくこなした。


「えー……では次にそれを旋回させなさい」


 ダグザはその言葉を聞き、自身の手の平に浮かぶ魔力弾に新たな指示を与える。

 魔力弾は会議室内をぐるぐると回り、ダグザの魔法の完璧さを示した。教師達から歓声が上がる。


「大したものじゃないか」

「本当に魔法を知ったのが数日前なら、彼は逸材かも知れないな」


 しかし、誰よりも驚いていたのはハームだった。


「そんな馬鹿な……どんな小細工を使った? おい! 聞いてるのか!」


 ダグザに迫るハームを審査員達が引き止める。


「ハーム! まだ審査中だ」

「……すまない」


 慌ただしくなる場に対しダグザは落ち着いた様子だった。というか落ち着いたように見せていた。


「次が最後となりますが……」


 そう言って審査員の一人が水晶玉を取り出した。それを見たハームはハッとする。


「あの水晶玉は……」


「この水晶玉を空中へ移動させ、破壊して下さい」


 本来ならこの審査は『操作』と呼ばれる、物体を魔力による干渉で移動させる魔法が十分に扱えるかを見るのだが破壊というのには別の意図があった。


「試しているということか……」


 苛立ちを隠せていないハームが呟く。

 ダグザは水晶玉に向かって手をかざした。

『操作』自体は本で読んだ通りにやったらできた程度だったため、あまり自信はなかったが今のダグザは何故か失敗する気がしなかった。

「動かせ」と魔力に命令を下し、妙に重い水晶玉を浮かせていく。2mほどの高さまで上げ、ダグザは破壊を試みる。

「壊れろ」と彼は強く念じた。しかし、水晶玉はびくともしない。


「当たり前だろ……その水晶玉は術者の魔力の威力を見るための道具だからな。とんでもなく魔力耐性のある水晶玉だ……まず破壊は無理だろうな……」


 教師の一人が小声で話している。

 そんなことは知らないダグザは何度も魔力に命令していた。


「壊れろ壊れろ壊れろ……っ!」


 がむしゃらに魔力を送り続けるダグザの肩が、突然叩かれた。

 びっくりして危うく水晶玉を落としそうになりながら後ろを振り返ると、見覚えのある人物。


「あ……アズマ様ぁ! どうしていらしたんですか?」


 教師達が気づき大声をあげた。会議室が大騒ぎになるが、アズマはそんなことは全く気にせず、ダグザに声をかける。


「確かに魔法は意思の強さじゃが……それがただやけになればいいというわけではない。研ぎ澄まされた意思。極限の集中状態、とでもいうのかの」


 そう言ってアズマは笑った。


「研ぎ澄まされた意思……集中……」


 ダグザは魔力への、水晶玉を破壊する命令を一度やめ、魔力を手の平にギリギリまで溜めた。

 今にも暴発する、というところで彼は一気に水晶玉へ負荷をかける。

 彼が拳を握り締めるのと同時に会議室内に響き渡る破裂音。

 そしてしばらくの沈黙の後に、教師の一人が口を開く。


「……何も、起こってない……な」


 文字通り何も起こっていなかった。

 ダグザが手を伸ばす先には、特に変わった様子のない水晶玉が浮いている。


「……と、当然の結果……か」


「まあ普通、だよな」


 教師達は皆安堵の息を漏らした。


「……ダグザ=ヴェルター。以上で審査を終了します。あなたは『放出』、『維持』、『操作』の三つの魔法をほぼ完璧に扱えていたので『二等級』への昇格を認めます」


 審査員がダグザに告げる。

 特にこれに異議がある者はいなかった。

 一方ダグザは水晶玉を破壊できなかったことが相当悔しかったらしく、あまり嬉しそうではなかった。

 浮かせていた水晶玉を慎重に下ろし、机の上に置いた。


「ありがとうございます……」


 彼はそう言うとガウルテリオに連れられ、会議室を出て行った。審査員や見物していた教師達もあとに続いた。


「びっくりしたよ。確かに異例の早さでの昇格だけど……正直大したことはない」


「歴代で名を残している方々は皆、水晶玉などいとも簡単に破壊していたからな。例の、初めから『一等級』だったやつもそうだったろ」


マーベル(・・・・)=ムーンライト(・・・・・・)か?」


 がやがや喋りながら出て行く教師達の中で、アズマのみ会議室に残っていた。


「アズマ様? いかがなさいました?」


 それに気づいた者が声をかける。


「気にせんでも良い。先に行け」


 全ての人が会議室から出払ったあと、アズマはゆっくりと水晶玉に近づき、指先でそっと触れた。すると水晶玉はたちまち崩れ去り、粉々というには小さすぎる大きさになった。


「ダグザ=ヴェルター、実に……実に素晴らしい」


 誰もいない会議室に高らかな笑い声が響いた。


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