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異端児の武勇伝記  作者: 於保多ひろ
第一章
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決意の時

毎度のことですが遅れてすいません。前回の話忘れた!という方は読み返してみるのもいいかもしれません。

それではどうぞ。

「なまぬるい。何ともーー、なまぬるい奴だ。貴様は。その甘ったれて、捻じ曲がった性根が行動の節々から伝わってくるよ」


 アピの声がさっきから重くて、まるで地面に押さえつけられてるみたいにダグザは立つことができなかった。


「さあ、早く」


 タグザの双眸に、赤髪の鬼が映る。まるで血で染まっているかのように、綺麗な真紅だ。


「さあ」


 アピが手を広げて言った。

 もう無理だ、僕の負けだと彼がどんなに目で訴えてもーー、


「剣を拾いたまえ」


 鬼人は決してそれを許さなかった。

 ふらふらとした足取りで彼は震えている膝を立たせる。

 深く息を吸おうとしたがうまくいかず、喉の奥でキュウという高い音がなった。

 さっきまで軽々と振るっていたはずの剣がやけに重い。

 ダグザは歯を食いしばり、グリップを握りしめた。

 依然としてアピは無防備な体勢のままダグザを見守っている。あの横っ面に一発くらわせてやるんだ。

 彼はそう奮起し、よろめく足に鞭を打つ。


愚鈍(ぐどん)だ」


 そんなダグザの一()ぎを、ことごとく受け止めるアピ。

 その失望の色に染まるアピの目を、ダグザは以前に見たことがあった。

 自分の非力さに、歯噛みしても結果は変わらない。

 彼はゆっくりと腰を起こし、再度覇気のない攻撃の体勢をとる。

 そうだ。それでいい。今はただ考えることをやめて。挑んでいればいいんだ。


「君には本当に、がっかりだ。いっそのことーー、ここで潰してしまいたいくらいだよ」


 尻もちをついた彼をアピは見下ろしながら言い放った。

 ダグザは石畳を食い入るように見つめた後、乾いた唇で、「そうしてくれ」と一言綴ろうとした。が、それは、今この状況で最も彼が会いたくない人物の声によって、遮られる。


「ダグザさん? 一体いつまで待たせる気なのーー、」


 当然の沈黙。

 ダグザは、すぐに顔を上げることができなかった。

 もし、彼女までもが、あの(・・)目をしていたとしたらと思うと怖くて仕方がなかったのだ。


「マーベル=ムーンライトか。君の実力は買っているよ。提案があるんだが、どうかな? ぜひ」


「あなたとは話していないわ」


 マーベルはアピにぴしゃりと言ってのけると彼はバツが悪そうな顔をした。


「こいつは失敬」


 次第にダグザの鼓動は速くなっていった。

 胃がキリキリと痛み、食道を熱いものが込み上げてくる。

 まずい、吐きそうだ。


「ダグザさん」


 マーベルの声に彼の肩が上下した。

 彼女が次にどんな罵声を浴びせるのかアピは笑みを浮かべながら見物している。

 ダグザ自身も、どんなにひどい言葉がきてもいいように心中で思いつく限りの悪態を自分に向かって付いていた。

 そして、真剣な顔つきのマーベルの口から言葉が紡がれた。


「男なんだからシャキっとしなさい」


「…………え?」


 本気で言っているのかと、彼は恐怖も忘れて彼女の顔を見上げた。

 しかし、マーベルの目はまっすぐと彼を捉え、しっかりと、それでいてひたむきに向き合っていた。


 ーーわたしは諦めない。


 無意識にダグザは彼女の以前の言葉を思い出していた。


「そんな泣きべそかいて……、情けないわね。あなたは、私が認めた唯一のパートナーなんだから、しっかりしてよね」


 マーベルは彼の肩を叩き、起きるのに手を貸してやりながら言った。

 彼女は決してダグザのことを諦めたりなんてしなかった。彼を信じ、また認めてもいた。

 それは期待などという幻想的なものではなかった。


「ま、マーベル……僕は……」


「マーベルは寛大な心をお持ちのようだな。それに甘えているだけでは変わることはできぬぞ、ヴェルター。ではまた」


 アピは吐き捨てるように言って去った。その後ろ姿はまるで壁のように見えたのは恐らくダグザだけだったろう。


「大丈夫? 怪我、してない?」


 アピが立ち去るのを確認した後、マーベルが心配そうに聞いた。


「いや、何ともないよ」


 本当に彼の体は特に怪我はなく、そこがアピらしさなのかなとダグザは一人思った。


「そう。じゃあ行きましょうか。アズマ様を待たせてるから急ぎましょう」


 マーベルはいつもの無表情に戻って言った。何故だか冷淡な口調がとても愛おしく感じてしまうダグザだった。

 アズマは『セントラル』の入り口付近で待っていて、ダグザの姿を見つけると何やら安堵したような表情が見て取れた。


「大丈夫そうでなによりじゃよ。ヴェルター君。そういえば観光したいと言っとったがもういいのかね?」


「はい。もう、大丈夫です。十分観れたので……」


 しおらしいダグザを見て、アズマの口角が上がった。


「うむ。では、帰るとしようか」


「アズマ様、会議はいかがでしたか?」


 マーベルが愛くるしい笑顔で聞いた。


「滞りなく……、滞りなく進められたぞ。競技の内容は大会前日に伝えるからの、二人とも精進してくれい」


 アズマがそう言うと同時に彼らの体は(まば)い光とともに『セントラル』から消失した。

 最初ほど意識は遠のかず、ダグザは集中していれば移動していく風景が見れることに気がついた。

 鬱蒼(うっそう)と広がる森を抜け、彼らの体は東の国へと向かう。

 彼は何か吹っ切れたような顔つきで、少し前を飛ぶ彼女の姿を見つめた。


「マーベル……僕は……」







「おかえりなさいませ。アズマ様」


 玉座のある広間に着いた途端、従者たちがお辞儀とともにアズマ御一行を出迎えた。

 彼は従者に軽く手を挙げ、ダグザとマーベルを休ませてやるように指示を出した。


「アズマ様、自分はこれで失礼します」


 ダグザが勢いよく駆け出していく。彼の隣にいた従者は少し嫌な顔をして、呟く。


「何をそんなに急いでいるのだ?……」


 入り組んだ迷路ような校舎内を走り、『一等級』の教室を目指す。

 先程のアピとの一戦の所為ですぐに疲労感がみ上げてきた。

 今更ながら広い校舎が憎い。

 見た目通りの重厚な引き戸を勢いよく開きーー、


「グランノーデル先生っ!……」


 肩で息をしながら力の限り叫んだ。

 夕暮れの教室で一人佇んでいたその男は、彼の顔を見るなりくしゃくしゃに破顔して口を開いた。


「待ってたよ」








 


















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