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相観点  作者: 陬葭
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第三話 回帰



 爪の間にまで潜り込んだ土が酷く煩わしい。そして、偉く不恰好だ。ああ、あの時塗ったネイルが台無し。けれど、そんな事今の私にとっては至ってどうでも良い瑣末な出来事の一つである。


 赤錆びたスコップを掴んだが為に掌に残った鉄臭い匂い。主に力を込めて握っていた箇所、親指と人差し指の間には赤錆の汚れがつく。指の関節が、痛い。慣れない事をしてしまったからそれも仕方が無い。他に取る選択肢など無いのだから。


 木の根元付近を重点的に掘っていた所為か木の根がかなり掘削を邪魔してくれたものだった。なるべく傷つけないよう細心の注意は払った心算だ。概ね、問題無いだろう。



 土が軟らかい。それもそうだろう、人為的に掘り返した地面なのだから、ふわふわしているのは当たり前。スコップの底面で固めるようにポンポンと叩くと、ある程度固まるけれど、数日間の間は若干の違和感は残る筈だ。やはり掘り返すと掘ってない部分との差は歴然だ。スコップの底辺で叩くと型の様に残る。まぁ此の場所に足繁く通うものなど誰一人としていない。


 今となってはね。私も恐らく此処に来る回数は激的に減るだろう。まぁ、此処には何も無いしね。



「ふぃいー……」



 良い汗かいた。


 右腕で額の汗を拭うと、僅かに土が付着していたのか、目の前を土の中に含まれる小石などが横切る。払いたいけれど、今のこの状況じゃ問題がある。致し方ない。


 適当にスコップをそこ等に投げると、一、二度鈍い音が短く響かせ、そのまま静止する。


 此の辺り、というより桜の木付近には背の低い雑草が生えていなくて助かった。幾ら人気が少ないからといって此処に誰も来ない、という保証にはならない。かといって変に警戒して物々しい張り紙でも張ってしまったらそれこそ思う壺である。反対に目に付く飾りなど呼び寄せる広告塔に他ならない。


 来る時は、来てしまうものだ。


 さて、誰かが来たとして、この桜の木の根元を調べるには流石に至らないだろう。と、高を括っているのも宜しくない。中には奇天烈な行動を思い起こす輩だって居る。何を思ってか、ね。


「……まぁ、かなり深くほったけれどもね」


 半日以上を費やして掘ったのだ、そう簡単に見付かるはずも無い。更に言うなら、ブービートラップも仕掛けておいた。何てことは無い、ただの囮。餌だ。


 奥底に埋めたものよりも手前、地面により近い場所に物を埋める。そうすると、発掘の手は止まるだろう。何か特別な理由でも無い限り。もしくは勘の鋭い者、頭の回転が良い者かな? その様な人物が果たして此処に何の用で訪れるのか? と考えると中々無いだろう。


 此れで発見される確率は極端に減っただろうけれど、現実何が起こるかはわからない。けど、深く考えないでも良いか。


 木の根元付近から、上を見上げる。風はそんなに強くないが、木々の枝に生える木の葉が揺ら揺ら揺れ、時折葉を下ろす。


 そうして、視線が下へ向く。


「…………嗚呼、」



 赤いものが転がってるじゃないか。




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