ACT3 unconditional love 3
ともかく、泣いてる女の子をキャッチした。
重力切れてるからね。
泣いてくるくるしちゃってたから、わしっとつかんだ。
ぴぎゃーって泣かれたけど、抱っこしてバイザーあげて、おろおろしてたら泣きやんできた。
「ママは何処?」
ともかく親何処ですか~!
「ママはね、お仕事で、これからお船で行くところぉ」
超絶美幼女ですよ。
見たところテラ系の女の子ですね。
首から下がっている識別表は、筋力体力言語等の基礎情報としてテラ系の標準のヒューマンですね。
ちなみに、俺っちは偽造ですね。
識別表はうそっぱちです、はい。
「お船にはパパと一緒なのかなぁ~?」
「パパは新しい女の人と一緒です。バイバイです」
幼女からディープな話題がっ!
「じゃぁ、誰とお船に乗ったのかなぁ?」
「お兄ちゃん!」
元気に答えてくれました。
「んじゃぁ、兄ちゃんは何処ですか?」
「お兄ちゃんは、正義の味方なので、悪い人をやっつけにいってますっ!」
「...」
胸をはって答えてくれたので、頭を撫でてみた。
コメントは控えるが、つまり、保護者不在と見た。
「お部屋は何処かな?お寝間着着替えないとね」
そいで、お約束な感じで、エルミナは迷子だった。
「ルミたん、お部屋の番号とか覚えてないの?」
「ルミたんは、百まで数えられるの!」
つまり、ルミたんの部屋は、百以上の数字らしい。
あぁ、幼児用のハードスーツか、防護ポット探さんとな。
ゲームの難易度が上がったよ。
保護者不在の幼児の生存を可能にしなきゃならない。
「ルミたん、お兄ちゃんが帰ってくるの待ってたけど、真っ暗になっちゃったから出てきたの」
あぁ、危なかったね。エルミナの区画の酸素供給が切られたんだ。
つーか船員退避誘導してねぇじゃん。
「んじゃ俺っちと一緒に、兄ちゃん探しながらお船探検しようぜぃ?」
「はーい!」
実際、エルミナは状況を分かっていると思う。
これだけ警告音が流れていれば、幼児でも怖いだろう。
誰にも会わない異常な状況だし、初対面だとしても行動を一緒にするのは当然だ。
俺たちは手を繋ぐと、急ぎ足で歩き出した。
目的地は一応、医務室だ。
医療施設部分にハードスーツはあるはずだ。
ここが今いる居住宿泊部分に一番近い船内設備だ。
ハードスーツが無くとも、医療施設部の電源と酸素供給は最後までカットされない。
ともかく辿りつければ..
と、思ったんですがね。
爆音が再び響き、体が通路から浮いた。
エルミナを抱えると、靴の吸着を切った。
居住ブロックD12 圧力減少ニツキ 隔壁作動
カウント120カラ開始 セット10秒前9.8.7.6....
居住ブロックDとやらは、今歩いている冬眠中の客の区画である。
個別客室の場合、減圧が始まると自動で部屋が密閉される。
普通の火災等なら、この処置もありだ。密閉して火災部分を排出しちまえばいい。
だけど、それ以外の事象の場合、密閉すなわち棺桶になりかねない。
そして、この通路も隔壁が下りると減圧後、酸素を抜かれる。
俺は辛うじて保つけど、エルミナは死んじゃうよ。
つーことで隔壁が下りるまでに医務室までダッシュだ。
ちなみに、直線でも相当の距離がある。
カウント開始119.118.117.116....
「ルミたん、おめめつぶっててね。俺っちブースとかけちゃうよぅ」
子供の頭と首を支えるように腕を回すと、大きく息を吸い込んだ。
持久力は無いけど、テラ系のヒューマンの筋力の五倍以上は出せるのねん。
111.110.109..
猛烈な勢いで走る。
たぶん、簡易スーツのブーツはボロボロだね。
87.86.....52.51...
子供の息が止まらないように、速度を調節しながら走る。
..39.38.37...21...
というか、蹴って飛ぶ。
ぎりぎりで、背後の通路の隔壁が落ちる。
17.16....11.10..
これ、どう見ても退避行動無視の危険な処理だよね。
どうなってんだよ?
酸素不足で目の前が赤くなったところで、D区画を抜ける。
エルミナは目を回していたが、一応、息はある。
D120 窒素充填後、排出開始
犯罪奴隷同様の過重力地域での生活は伊達じゃなかったね。
感謝したくないけど、船長ありがとう。
労災上等の職場環境を今初めて感謝したよ。
俺っち強い子になったよ。
ホント守銭奴船長シネ!
幼児と一緒に狭い通路に転がり込むと、一息ついた。
医療区画にも、人影は無かった。
ホラー?
まさかねぇ。