ありがとう、が伝えたくて。
『ありがとう』
言いかけているのに、伝わらなくて。
『嬉しくない』『迷惑』
優しい君を傷つけてしまう言葉ばかり伝えてしまった。
本当はさ、優しい君が『だいすき』で
毎日毎日、『ありがとう』って思うのに。
何故だか伝えられない。
消しゴムを拾って貰った。
『ありがとう』が溢れてきた。
『だいすき』が溢れてきた。
今日も、伝えられなかった。
『ありがとう。』
精一杯の笑顔で
君に伝える練習を
何度もした。
練習では上手に出来るのに
何故だか上手くいかない。
一日一日は
目まぐるしく過ぎ去っていって
君の隣も、もう少しで終わる。
伝えたい。
でも…
今日は君が居ない。
今日こそは伝えようと思ったのに。
『ありがとう』の五文字を
伝えようと思ったのに。
次の日も、君は居なかった。
もう少しでこの隣の席も終わってしまうのに。
ひよっとして病気かな…?
不意に心配になる。
今日も、君はいなかった。
明後日で席が変わってしまうのに。
君の声が無いと落ち着かないよ。
寂しくて、涙が出た。
次の日、君は来た。
悲しい知らせと、辛そうな顔をして。
どうしてそんな顔をしているの?
聞きたかったけれど、
君があまりにも辛そうな顔をしていたから
何も聞かずに、君の傍に居たんだ。
ちゃんと先生の話、聞いておけばよかったなぁ…
君が居なくなることを
話していたのに、さ。
今日で、君の隣が終わる。
学校へ向かう足取りは
何故だか少し重かった。
自分の席にカバンを置いて
君の席を見つめた。
いつもなら君はもうこの席に居て
『おはよう』って伝えてくれるのに。
「―くん、引っ越しちゃったね。」
私の友達が話す言葉が
頭の中に響いてくるんだ。
嘘だよ。
またちょっとすれば、
あのいつもの笑顔で
『遅くなっちゃったよ』なんて言って
私の名前を呼ぶ筈なんだ。
君の居ない、空っぽの机は
どこかの教室へと移されてしまった。
みんなで君の机に書いた
『ありがとう』『さよなら』『またね』は
消されてしまっていたけれど。
私が最後に君の机に書いた
『だいすき』
だけは
残っていたんだ。
鉛筆で薄く書いたその文字を
指先でそっとなぞりながら君への想いを呟いたんだ。
『君のことが、大好きでした』
またいつか逢えたら
その時は、世界中に叫ぶから。
『君のことが、大好き』だって。
…ね?
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